テレワーク、イベントの延期や中止、自粛が続くこの時期だからこそお家で楽しめるエンタメを!SPICEアニメ・ゲームジャンルの編集・ライター陣による新旧いり混ぜたおすすめ作品をお届けします!


Vol.14選者:阿部美香

フリーライター。音楽専門誌出身ですが、最近はエンタメの中でもアニメ、声優、アニソンジャンルのお仕事が多くなりました。雑誌では『リスアニ!』『LisOeuf♪』『Ani-PASS』『B-PASS』などで執筆中。Webメディア「WHAT’s IN? tokyo」では声優コラム、「Cocotame」ではお笑い芸人のロングインタビュー企画「芸人の笑像」なども連載中です。

オススメ作品①
『空挺ドラゴンズ』
(Netflix)

TVアニメ「空挺ドラゴンズ」本PV

超話題作とアニメファンが大騒ぎしていたわけではないのだが、実際観たら「え? こんなにおもろいんだ!」と、気持ちがスッとする。『空挺ドラゴンズ』は、まさに筆者がそんな出会いをした良質の異世界ファンタジーだ。舞台は、龍(おろち)と呼ばれる生物を狩り、肉や素材を売りさばいて生計を立てる龍捕り(おろちとり)が職業として存在する世界。龍の肉が大好物のミカ、新人の龍捕り・タキタ、龍捕りの父を持つジロー、地上をある事情から離れたというヴァナベルなど、様々な理由で集った仲間たちが集う捕龍船「クィン・ザザ号」の旅を描いている。

雄大な空を悠然と航行する、飛行船のようなレトロテイストの「クィン・ザザ号」。そこに暮らす龍を狩ることができれば一攫千金、出会えなければその日の食事もままならない、荒くれ傭兵部隊のような乗組員たちの野性味あふれる日常は、古き良き流れ者たちのロマンそのもの。「クィン・ザザ号」の装備や乗組員たちの服装などには、宮崎アニメのテイストも滲み、ノスタルジーを掻き立てられる。けっして先を急がず丁寧に「クィン・ザザ号」クルーの日常を柔らかな目線で追っていく物語は、静かに心躍りながらもゆったりと楽しめるところがいい。

ベテランクルーの中で、トラブルを乗り越えながら心身共に大きくなっていく元気な新人・タキタの成長、“龍を食べるために狩る=生きるために殺す”ことに誠実に向き合う変人龍捕り・ミカとタキタの交流、クールビューティーなヴァナベルが見せる仲間への愛情、ジローと停泊地で出会った少女・カーチャとの切なく淡い恋……と、どのエピソードも後味はじつに爽やかだ。そんなゆったりとした日常の心地よいアクセントとなっているのが、作り方から丁寧に紹介される龍飯(おろちめし)の調理&食事シーン。「龍の尾道ステーキサンド」「極小龍の悪魔風」など、興味深いレシピが飯テロを仕掛けてくるから要注意(?)だ。

ハートウォームなエピソードの一方で、龍とのバトルでは3DCGを駆使した迫力ある映像が楽しめる。なかでもミカの龍捕りは、龍の体に飛び乗って急所を一撃するという男気あふれるダイナミックな戦法。龍を食べたくてよだれを垂らしながら、ふだんは昼行灯なミカが覚醒する様もユーモラスだ。さらに驚かされるのは龍の姿だ。ファンタジー世界のよくあるドラゴンとは一線を画した、魚や虫類を彷彿とさせるデザインはじつに個性的。さらにアニメでは、体表が虹色に輝いたりと、光の効果で存在がファンタジックに表現され、自然の生物らしさがありながらも神秘的な、独特の描かれ方をしているのが印象的だ。

繊細なタッチとダイナミックな描写力で描かれる骨太な桑原太矩による同名漫画(こちらはさらに宮崎駿テイスト強し!)の面白さを、セルルックの3DCGで入念にアニメへと凝縮した『空挺ドラゴンズ』は、大人におすすめの心温まるハイ・ファンタジーだ。今回アニメ化されたのは、現在も連載が続いている単行本1~3巻までの物語。2期にも期待したい。

オススメ作品②
『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』
(dアニメストア、AmazonPrime video、U-NEXT、バンダイチャンネル)

『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』劇場予告(60秒)

2019年秋に公開された本作の主人公は、どんなときにも“すみっこ”に落ち着いてしまうサンエックスの人気キャラクターシリーズ「すみっコぐらし」の“すみっコ”たちだ。ある日、お気に入りの喫茶店「喫茶すみっコ」を訪れたすみっコたちは、ひょんなことから地下室にあった、ページの大事なところが欠けたボロボロの飛び出す絵本を発見する。不思議な力によってすみっコたちは絵本の中に吸い込まれ、自分が何者かが分からないひとりぼっちの“ひよこ”と出会う。ひよこのおうちを探すため、「桃太郎」や「マッチ売りの少女」「アラビアンナイト」など有名なおとぎ話の世界にバラバラに飛ばされてしまったすみっコの仲間たちは、力を合わせて大冒険を繰り広げる。

かわいいすみっコたちが絵本の中を旅するなんて、いかにもファンシーなキャラクターファン向けアニメにありがちな話じゃない?と、軽んじていたら大間違い。ルックスやアニメーションとしての動きのかわいさといった分かりやすい癒し効果だけでなく、すみっコ自体が持つキャラクター性が観る者に刺さる。それを活かした作劇の妙と、高い共感力にピュアな感動を覚えてしまうのだ。筆者としてはあまり好きな言い方ではないが、“その優しさに思わず泣ける映画”となっている。

北から逃げてきた寒がりの「しろくま」、自分はペンギンなのかすら自信がない自分探し中の「ぺんぎん?」、誰かにちゃんと食べてもらうことが夢の「とんかつ」(のはじっこ)と「えびふらいのしっぽ」、恥ずかしがりやで気が弱すぎて、好きなすみっこまでも誰かに譲ってしまう「ねこ」……すべてのすみっコたちは、誰もが心のすみっこで「これじゃダメだなぁ」と生きづらく思っている、ボクやアナタをどこか象徴する存在だ。

ネガティブでいつも物語の主役の影でひっそり暮らしているすみっコたちが、ダメな自分はダメのままでもほんわりと生き、誰かを守りたい、救いたいと思って行動する。ユーモラスに描かれるすみっコたちの姿に初めはニコニコさせられていた筆者も、話が進むほどにすみっコたちの切ない本質に気づかされ、チクリと胸が痛む。だからこそ、彼らの懸命さに、純粋に心打たれる。すみっコたちが一切言葉を発せず、彼らの活躍を見守るようなセリフ回しで、V6の井ノ原快彦と女優・本上まなみが優しいナレーションを当てているのも、すみっこでポジティブに生きる彼らの魅力を、よく伝えている。

出色の脚本を担当したのは、筆者が愛する京都の劇団「ヨーロッパ企画」の角田貴志。劇作家としては劇団主宰の作・演出家、上田誠が有名だが、人間の愚かさや滑稽さ、そこはかとない切なさを、ペーソスあふれる温かな視点からユルくユーモラスに描くことに定評のあるヨーロッパ企画節は、角田脚本にもしっかりと根付いているように思えた。限りなく優しく、善意しかないすみっコたちの活躍は、まさに癒し。なんだかんだと世知辛い時代、生きていくのが辛いと感じるこの時期、心が疲れた大人にこそ、この真っ直ぐでピュアな世界を体験してほしい。

オススメ作品③
『ぼくらベアベアーズ』
(Netflix、dアニメストア、FODプレミアム、U-NEXT)

【傑作シーン集】ベイビーベアーの冒険/ぼくらベアベアーズ

最後は、国産アニメファンにはちょっと縁薄いが、観てもらえば面白いよ!と感じてもらえそうな作品を。『ぼくらベアベアーズ』は、米カートゥーン・ネットワーク製作によるコメディアニメ。現在、サブスクで観られるシーズン1はかつてNHK BSプレミアムでもオンエアされたことがあり、現在は3シーズンめが日本のカートゥーン ネットワークで放送中だ。原作を手がけたのは、ピクサー・スタジオ出身のダニエル・チョン。2018年の「第45回アニー賞」で最優秀テレビ・アニメーション作品賞 チルドレン部門を受賞。ヨーロッパ、中南米、アジア各国でも放送され、人気を誇っている。

主役は、陽気で単細胞、ポジティブ思考の兄貴分・グリズ、内向的でネットサーフィンが命のパンダ、マイペースで無口だが多芸多才なアイスベアという、クマの仲良し3人組(3頭組?)=ベアベアーズ。毎度毎度、失敗を繰り返しながら人間社会に溶け込もうと奮闘するドタバタ劇は、無条件に楽しい。金にがめつく、人気を維持するために裏表が激しいコアラが人気動画クリエイター(つまりYouTuber)として登場したり、パンダがネット&スマホの高度依存症で、SNSアピールを駆使して人間の彼女を見つけようとしたり、行きすぎたエコロジー運動を皮肉ったりとアメリカのイマドキのネット事情やカルチャーを、毒のある視点からストレートに笑いに変えているのは、アメリカアニメらしい面白さだ。

クマたちの破天荒な行動もおマヌケだが、彼らを取り巻く人間達の滑稽さにも、ニヤリとさせられる。シーズン1は米本国では2015年に放送されていたものだが、アメリカの今の一般市民の暮らしぶりが垣間見えるのも楽しい。なお、情けない声を出す甘ったれたパンダ役を男気あるイケメン役が多い声優・谷山紀章が演じていたりというギャップも面白い。1話わずか11分ほどなので、気軽にご覧ください!


今回の「アニメ三選」特集も、すでに回数を重ね、手練れのSPICEライター陣が個性あるセレクトを続けているので、なるべく皆さんの目に止まりにくい、ニッチなカテゴリーからの個人的良作を選ばせていただきました。もちろん、他にもサブスクリプションサービスなどを通じて自宅で視聴できる推しアニメはたくさんありますが、比較的、肩の力を抜いて楽しめる3作品なので、ぜひぜひ!

文:阿部美香

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