ムロツヨシインスタライブが面白い。これまでも不定期にやっていたものが、4月7日(火)に緊急事態宣言が出た翌日から、朝8時16分から「8時16分だョ! 湯呑みでコーヒー」というタイトルで毎日トークをはじめ、1ヶ月以上続いている。



(画像:ムロツヨシInstagram5月13日ライブより)



◆出演したNHKドラマ劇中にも登場
 5月8日(金)にNHK総合で放送され、ムロも出演したテレワークドラマ「転・コウ・生」(脚本:森下佳子、出演:柴咲コウ高橋一生ムロツヨシ)にもこのインスタライブが取り上げられたほどで(柴咲コウムロツヨシの肉体と入れ替わってインスタライブをやるはめになる傑作ドラマ)夜11時40分という遅い時間ながら、NHK総合で彼のインスタライブが宣伝された形にもなった。


 翌日のライブでは、ドラマパロディもやって(ムロが柴咲コウの口調を真似る)、インタラクティブな楽しみを提供してくれた。それによって配信を観る人が増えたかは定かではないが、毎日、2~3万人ほどが見ているようである。



(画像:『今だから、新作ドラマ作ってみました』第3夜「転・コウ・生」NHKより)



 GW明けの5月7日(木)に解除される予定だった緊急事態宣言が延長になったため、「8時16分だョ! 湯呑みでコーヒー」も延長戦に突入。ムロツヨシは、月曜日から日曜日まで毎日休まず、朝7時に起きて支度してカメラ(たぶん、タブレット)の定位置について2、30分間たわいないおしゃべりをし続けている。


 毎朝、同じようにWとかかれたキャップをかぶり、エプロンをつけ、特製のクマの人形を動かし、髭(ひげ)を剃りながら語り始める……。土日はコンタクトを外してメガネに変え、平日よりも素な感じにして。


◆吉田羊、有村架純中村倫也、広瀬姉妹らが集っている
 開始時間を8時16分にしたのは朝ドラに気を使ってかぶらないようにしたから。かつて、朝ドラごちそうさん」(13年後期)に出演していたムロらしい配慮である。最初のうちは朝ドラを見た感想を多く語っていて、それが細かいプロの目線でなかなかおもしろかった。いまもネタバレに配慮しながらちょくちょく語っている。


 インスタコメント欄に、吉田羊や有村架純などが参加するサプライズもある。最近は「中村さんちの自宅から」という動画を配信している中村倫也の話題も。さらに広瀬アリス、すずが参加したりも。豪華芸能人が集っているのである。




◆毎回、終わりに「あ”ーー」と叫ぶことで見ている私達もガス抜き
 夜の部のインスタライブで(夜もやってるのだ、すごい! 夜は料理をしているところを映したりしている)、小栗旬カリフォルニアからリモート出演し、率直な想いを吐露するという豪華な回もあった。


 このときの小栗旬の発言が生々しくてびっくりしたものだが、ムロ自身もある朝のインスタライブで、4月にあるはずだった映画の撮影が緊急事態宣言のためなくなったのだとじつにさらりと流すように語り、そうか、本来、毎日映画の現場に行く予定が家にこもらなくてはならなくなり、行き場をなくしたエネルギーを毎朝のインスタライブにぶつけているのかなと勝手に想像した。だから毎回、ライブの終わりに近所迷惑になると自覚しつつ「あ”ーー」と叫んでいるのかなと。これはあくまで私の想像であるが。




 ライブをやっているムロに感じる、明るすぎず暗すぎず、でもどこか虚無的であるところは、ライブを見ている私たちが共通して抱いている閉塞感でもあって、ムロは自分が率先して大声で叫ぶことによって私達にもガス抜きをさせてくれているのかなとも思える。もちろん、毎日、頭と体を動かしていないと鈍るという用心もあるだろう。


 ムロツヨシライブは、ただだらだらゆっくりした口調でしゃべっているだけのように見えて、意外と考え抜かれたコンセプチュアルな印象がある。というのは、前述したように、毎日、ほぼ同じ行為を豆に繰り返していること。視線をちょっと斜めに向けてしゃべるところまで。このように同じ行為を毎日続けることはまるで修行のようではないか。


 最後に叫んだあとは、医療や介護をはじめとしたいま日本で働いているすべての人へねぎらいのメッセージも忘れない。


ブレイクする前、コツコツ舞台をやっていた
 そんなふうに毎日毎日続けていることに対して、5月12日(火)の回では、同じことを繰りかえすことに慣れてはいけないというような(大意)発言をしていた。同じことを繰り返すと心がこもらなくなってしまうことがある。それを避けねばならない。毎日同じことを繰り返す舞台をやっている俳優らしい戒(いまし)めである。




 そう、ムロツヨシは今日のようにブレイクする前、コツコツ舞台をやっていた。ムロ式という演劇公演のシリーズを12年前にはじめたとき、観客は1000人いかなかったと先日のインスタライブで振り返っていた。4作目で1000人で、6、7作目で3000人、9、10作目で1万人を越えたのだそう。それがいま、インスタライブを2万人以上が確実に見るようになっているムロ。


 彼が映像の世界で注目されたきっかけは本広克行監督作にはじまって、福田雄一作品にたくさん出たことで、面白い俳優という好感度を積み重ねた末、ダメ押しのように恋愛ドラマ「大恋愛~僕を忘れる君と」(18年)で主演の戸田恵梨香の相手役に抜擢され、理想的なパートナーとして人気を博したこと。クレバーで面白い人がかっこいいということをしっかり定義づけた。




修行僧のような行為は、先の見えない私達に希望をくれる
 20年7月期も初主演ドラマが待機中で、新型コロナの猛威に合わなければ、いま頃、多忙であったことだろう。だからこそ、家にいてもできる限りのことをやろうと、毎日ライブをやるのみならず、5月5日の夜は「ムロツヨシショー」を行った。


 映像作家の真鍋大度と京都の劇団ヨーロッパ企画を率いる劇作家にして演出家・上田誠と組んで、いつもの家のなかでのSF小品的なものを披露。ケータイタブレットパソコンテレビとたくさんのモニターの中に、音楽家、俳優、演出家など様々なムロツヨシが存在するという多元宇宙を描いたもので、現代を鋭く風刺したかのような秀作だった。


 やれることが限られている状況で、フリートークみたいなものだけでなく出来得る限りのエンタメも見せようという心意気。そのときのムロはいつものインスタライブとはまるで違い、視線も定まり、しゃべりのスピードも速く力強い。最後に語ったこの不自由な状況下での決意表明のようなものは熱かった。


 いつものインスタライブのときは鏡面で逆に映っているからちょっと不思議な感じもするが、ショーのときはちゃんとした機材を使っていたから安定感があった。インスタライブではあえてのゆるさを狙ってやっているのかなと感じる。



 さらにはYou Tubeで、この3人による「非同期テック部」という部活動をはじめた。ものを作っていないといられないようで、仲間を募ってフットワーク軽く、創作活動を増幅させながら、ストイックに毎日、ライブも続けている。誰もがこうであらねばいけないということはないが、ムロツヨシ修行僧のような行為は、先の見えない私達に希望をくれる。


<文/木俣冬>


【木俣 冬】フリーライタードラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビューレビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など



(画像:ムロツヨシ Instagramより)