宇佐美貴史×柿谷曜一朗“天才対談”|第2回】宇佐美が驚愕した、“ジーニアス”柿谷が輝きを放ったワンシーン

 大阪の宿敵2チームが誇る“天才”同士の対談が初めて実現した。新型コロナウイルスの影響でJリーグが中断するなか、ガンバ大阪FW宇佐美貴史セレッソ大阪FW柿谷曜一朗が、オンラインでFootball ZONE webの独占インタビューに応じた。アカデミー出身で、幼少期から“天才”と呼ばれ続けてきた2人。G大阪C大阪という強烈なライバル関係を持つ両クラブのエースは、互いのプレーをどのような目で見てきたのか。そして「天才が語る天才論」とは――。

柿谷「(天才と呼ばれることに対して)嫌ではないよ。でも、自分より上手い選手とか、自分よりアイデアを持っている人もいっぱいいる。でも、小さい時から自分も面白いことができると思っていた。それでも、自分の中でミスのほうが多いのは分かってるから、成功することもあるけど、それ(成功)を見た人はそういう(失敗の)イメージを持たへんと思うし、いいところばっかり見てくれてんねんな、という感じ。

 俺が思う天才はまず左利き。レフティーっていうのが8割占めている。クリスティアーノ・ロナウドって『天才』かと聞かれたら、『ん?』って思う人多いと思う。でも、(アンドレス・)イニエスタは天才。イニエスタ左利きが一番凄いと思う」

宇佐美「僕は(自分を天才と)思ったことがないから、心底。いいように言うてくれているな、とは思うけど。でも、曜一朗くんを見ていると、天才ってこういうことなんやな、と思う。『こういうこと、こういうこと、これ天才』っていうのがあって。キンチョウ(スタジアム)の群馬戦かな」

柿谷が4年前の群馬戦で決めた衝撃のヒール弾に宇佐美も驚愕

 宇佐美が切り出した試合は2016年3月12日、J2第3節ザスパクサツ群馬戦(1-0)。スイスの強豪バーゼルからC大阪へ復帰したこの年、第2節水戸ホーリーホック戦(1-0)で復帰後初ゴールを挙げて迎えた一戦だった。0-0の後半14分、ブラジル人FWリカルドサントスのヘディングでの折り返しを相手ゴール正面で受けた柿谷だったが、ゴールに背中を向けた状態。しかし、右足でトラップするやいなや左足にボールを送ると、ヒールキックで、相手GK清水慶記の虚を突いた。衝撃のヒールシュートは、ふわりとした軌道を描いてゴールネットを揺らした。

宇佐美「ダブルヒールみたいなの、あんなのやっちゃダメ(笑)。衝撃。俺も声『えっ』て出たし、あのシーンで一番見て欲しいのは、(相手の)センターバックとGKが、曜一朗くんが点を取ってゴールセレブレーションに向かう背中を、ずっと後ろから『えーっ』て顔で追いかけていて」

柿谷「見られていたね」

宇佐美「相手がとりあえず脱帽していて。あの顔をさせられるゴールって普通の人じゃ取れない。想像を上回るレベルを、さらにもう1個、2個上回ってこないとあのリアクションってさせられへんと思うねんな。どの世界でも相手にあんなリアクションをさせるゴールって、あんまりない。あれを見た時にアイデアとして出てきて、実行しようとしたのも凄い。左足でずらして右ヒールならまだ分かるけど、右足でずらして左ヒール。利き足じゃないし。

 実はあのゴールを見た後に、次の日やってみたんよ。でも、右足でずらして左ヒールは当てられへんかった。普通は当てられへんのに、あんなに飛ばしてGKのタイミングをずらして打つ。こういう天才という人を見て、『自分はそうじゃない、そうじゃない』と、思える。天才の象徴なんじゃない、あのゴールは」

 柿谷が見せた技術だけではなく、相手のリアクションからも“凄さ”を感じたという宇佐美。その衝撃は忘れられないようで、表情も生き生きしていた。宇佐美“記者”の取材は止まらず、当時のヒールシュートの秘話に迫った。

「0.5秒ぐらいの間での判断」 柿谷の衝撃ヒール弾に「This is ジーニアス」

宇佐美「あれ、どういうつもりでやったんですか?」

柿谷「あのシュートの前、俺ちょこんってジャンプしているの知っている?」

宇佐美「右でのタッチでずらす前?」

柿谷「そう。リカルドがヘディングする時ぐらいに俺、ほわってジャンプしてるねんやんか。(当時)たぶん、ヘディングであそこに落とすと思わへんかってん。前にいるDFを越えて俺もヘディングでいこうと思っていて。でも、ジャンプした時ぐらいからもう(ボールが)右足に向かって来ていた。めっちゃゴール近いのは分かっていたし、前に(杉本)健勇おるのも分かっていたけど、健勇に落とすコースもない。右に敵おる、左から(DFが)戻って来ている、ぐらいまでは覚えているねんけど、0.5秒ぐらいの間での判断やったんかな」

宇佐美「咄嗟でしょ。気付いたらやっていた」

柿谷「右足に(ボールが)止まった瞬間に『あっ』みたいな。そこから咄嗟やと思う。相手の場所に合わせて(シュートを打ったの)やと思う」

宇佐美「説明できひんゴールがいいんですよ。俺は大体『GKがこうきましたから打ちました』っていう、そういうゴールが多いけど、『分からへん』『それぐらいまでは覚えているねんけど』とか言ってみたい(笑)。あれ、文字に起こしても伝わらないよな。『天才とはなんぞや』というのには、この動画を貼り付けたらいい。This is ジーニアス」

 思わず宇佐美が前のめりになってしまうような芸術的なシュートだったが、柿谷自身も引き出しからアイデアを選別する感覚はなかったようだ。まさに体が勝手に動いた一発。“天才”としてその名を知らしめてきた2人だが、共通して豊かな感性を表現するプレーに心を打たれるようだ。(Football ZONE web編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)

ガンバ大阪FW宇佐美貴史(左)とセレッソ大阪FW柿谷曜一朗【写真:高橋学 Getty Images】