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1994年デビュー 10年前から上昇相場

text&photo:Kazuhide Ueno(上野和秀)
photo:Hidenori Hanamura(花村英典)、Ferrari

フェラーリF355の人気が高まっている。

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5~6年前なら程度を問わなければ500万円台から買えたが、今ではボトムで800万円台まで上昇。マニュアル・ギアボックスで低走行を保つベルリネッタの極上車なら、当時の新車価格1570万円以上のプライスタグが付くほどだ。

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人気が高まっているF355。MT、低走行のベルリネッタなら、程度次第で当時の新車の値段を超える価格帯に。

フェラーリといえど量産されたモデルは時とともに値落ちするのが普通。しかし、F355はリーマン・ショック後の2010年過ぎに底値まで落ちたのち、上昇に転じた。後継モデルの360系を上回る値を付けるようになっている。

値が上がるということは、経済の原則どおり欲しいヒトの数が供給を上回るからに他ならない。

デビューから25年余りが経過したネオクラシックといえるF355のどこに惹かれるのだろう。

筆者は新車時の発表会からF355に接し、当時様々なタイプを乗ってきたジャーナリストとしての視点に加え、個人的にも所有していたことからオーナーとしての目線でその魅力を探ってみた。

フェラーリF355 どんなクルマ?

F355は1994年にデビュー。現行のF8トリブートの5世代前のモデルになる。

その位置づけは、量産8気筒モデルでエンジンをミドシップ縦置きに搭載し、モノコックシャシーを初めて採用した348シリーズの発展型となる。

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5バルブのV8を積むF355。最高速度は295km/hに達する。

排気量を3495ccまで拡大するとともに、5バルブ・シリンダーヘッドの採用により、それまでの排気量+気筒数というモデル名ではなく、3.5Lで5バルブということから「355」と名付けられた。

ミドに搭載するV型8気筒エンジンの最高出力は380bhp/8200rpm。ギアボックスも6速にアップグレードされ、最高速度は295km/hに達した。

スタイリングは、ピニンファリーナが担当し、フェラーリのミドシップ・スーパーカーの伝統といえるリトラクタブル式ヘッドランプ、リア・ウインドウがキャビンの直後で垂直に位置するトンネルバック・スタイルを受け継ぐ最後のモデルとなった。

ボディタイプは当初ベルリネッタとタルガトップのGTSだけだったが、1995年から電動式フルオープンのスパイダーが追加されている。

F355 メカ/外観の魅力

こうしたパフォーマンスの向上に加え、当時低迷していたフェラーリを立て直していたルカ・ディ・モンテゼモロ社長が掲げた「誰にでも乗れるフェラーリ」に則り、パワーステアリングが採用されたことが大きなポイントだ。

それまでのフェラーリは重ステ(12気筒4座モデルを除く)が当たり前で、女性ならずとも手強い存在だった。さらにクオリティも向上させ、高い信頼性を確保したことが成功の一因といえる。

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モンテゼモロ体制のもと、重ステに別れをつげ「誰でも乗れる」路線に。97年にはF1マティックが登場。

「誰にでも乗れるフェラーリ」路線はさらに推し進められ、1997年になると2ペダル・パドルシフトのF1マティックを追加。F1マティックは全ボディで選ぶことができ、F355は一躍世界的な大人気モデルとなり、フェラーリの経営を盤石なものにした。

また、ルックスに関していえば、フェラーリの歴代ミドシップ8気筒ベルリネッタの中で、最も均整のとれた美しいスタリングを備えるのがF355だ。

スーパーカーらしい低いノーズから、パワーを感じさせるボリュームがあり、ワイドさを強調したリア・デザインなど、すべてが見事に融合し、完成度が高い。そのデザインは存在感もあり、今の目で見ても魅力的だ。

実用性/ハンドリング/サウンド

もう1つの評価ポイントは、現在でも通用するパフォーマンスを備えていることだ。

最新のフェラーリに較べれば380bhpのパワーは物足りなく感じようが、常にシグナル・グランプリや超高速で走るわけではなく、踏めばリニアに反応し日本の公道で痛痒を感じることはない。また実用性も高く、エアコンが効くため普段乗りができることも見逃せない。

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現代の目で見てもデイリーユースに問題なく使えるうえ、“ドライバーが全てを制御する最後のフェラーリ”という価値もある。

現代のモデルのように、電子デバイスがクルマを制御するのではなく、“ドライバーが全てをコントロールする最後のフェラーリ”といえる点も1つの魅力。

そして、素直でマイルドなハンドリングは、安心してコーナーを攻められる。こうしたクルマとしての懐の深さも美点なのだ。

また、フェラーリとして初めて排気音がデザインされたのがF355だ。

1997年にマイナーチェンジされて形式がXRになってからは、レブリミット8500rpmの高回転型エンジンは、F1マシンを思わせる快音を奏で、一躍人気を集めた。

それだけに、よりF1サウンドを追求した社外のスポーツマフラーに交換するオーナーも少なくない。

手が届かぬ現行世代 F355では差益も

スタイリングが良くて、乗って楽しめるF355は、フェラーリを夢見る普通のクルマ好きにとって、目標の1台になってきた。

なにしろ現行のフェラーリは高価になり、ユーズドカーになっても値下がりしない。こうしたトレンドによって、手が届く価格帯にあるF355に人気が集まっている。

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「ちゃんとメンテナンスをしていれば、それほど値落ちしない」と、所有経験のある筆者(上野和秀)は考える。

フェラーリは高くて買えない」という声をよく聞くが、一度ハードルを越えてしまえば、意外や経済的といえる。

確かに最初の支払額は大きく、維持費もそれなりに掛かるが、F355のような人気モデルは、ちゃんとメンテナンスしていればそれほど値落ちしないのである。

量産スポーツモデルが数年で半値になってしまうことを考えれば、F355はバリュー的には優等生。筆者が所有していたF355もちょうど値上がり時期に手放したことから購入額以上の値が付いたほどである。

こうした人気モデルならではのメリットもあり、実質的にハードルが低いといえる。

こだわりのオーナーが支える人気

乗り手を魅了するパフォーマンス、サウンド、スタイリング。これに加えて、フェラーリとしては買いやすい価格(値上がりしてしまったが……)が人気の秘密。

現在のF355オーナーのほとんどは長年憧れてきた普通のクルマ好きで、頑張って夢を叶えた方がほとんど。それだけに、こだわりも大きく、ウェブ・コミュニティでの活動やオフ会には各地から多くのオーナーが集う。

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高い人気の秘密は、フェラーリとしては買いやすい価格帯と、熱心なオーナーたちの存在。

フェラーリの中で、最もオーナーがこだわりを持って乗っているのがF355。

今後もマラネッロからどんなニューモデルが出ようが、F355はネオクラシック・モデルの代表格としてフェラリスティから支持されてゆくはずだ。


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