東京高等検察庁の黒川弘務検事長が、産経新聞記者や朝日新聞社員の元記者らと賭けマージャンをしていたと報道されて辞表を提出、5月22日の閣議で辞職が認められました。ネット上では「検事長の辞職だけでなく、賭博罪で逮捕されるべきだ」という声がありますが、一方で、「賭けマージャンは現行犯でないと、逮捕できないのでは?」という声もあります。

 賭けマージャンは、現行犯でないと逮捕されないのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

単純賭博罪か、常習賭博罪

Q.賭けマージャンは、どのような罪になるのでしょうか。

牧野さん「賭けマージャンは、金額の多寡にもよりますが原則として『単純賭博罪』(刑法185条、50万円以下の罰金または科料)にあたります。反復して行われる常習性があると違法性が強くなるため、刑も重くなり、『常習賭博罪』(刑法186条1項、3年以下の懲役)になります」

Q.「友達と賭けマージャンをした」という話を時々聞くことがあります。マージャンをして金品を賭けた場合、どのような場合でも法に触れるのでしょうか。

牧野さん「金品を賭けてマージャンをした場合、基本的には、単純賭博罪か常習賭博罪にあたるでしょう。例外として、刑法185条には『ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない』とあります。

賭博にあたらない『一時の娯楽に供する物を賭けた』場合とは例えば、『マージャン大会で優勝すると少額の景品をもらえる』というケースや、その場で消費できるビール1缶程度の物をもらう、といった限定された場合です。商品券など金券は換金することができるので、たとえ少額であっても、金品を賭けた場合にあたるでしょう」

Q.「賭けマージャンで逮捕された」という話をあまり聞きません。「賭けマージャンは現行犯でないと逮捕されない」との情報もありますが、事実でしょうか。

牧野さん「必ずしも現行犯でしか逮捕できないわけではありませんが、証拠がないと逮捕や起訴は難しいので、賭けマージャンが行われている現場で現行犯逮捕する、というのが現実的なのだと思います。

ただし、現金が動いていることを記入した点数表など、賭けマージャンを行っている証拠が必要です。『逮捕された』という話をあまり聞かないのは、後日精算だとお金が動いた証拠が残らないなど、賭けマージャンをしているかどうかを立証することが極めて難しいからだと思われます。

なお、20年以上前の話ですが、東京・新宿のマージャン店で警察の立ち入り捜査があり、人気漫画家がマージャン賭博の現行犯で逮捕されたという事例があります」

Q.報道によると、黒川氏は賭けマージャンをしていたことを認めています。本人が認めているのであれば、現行犯でなくても逮捕できそうに思うのですが。

牧野さん「証拠隠滅や逃走の恐れがあると裁判所が認めれば、逮捕される可能性はあります。本人が賭博の事実を認めていても、後で翻意する可能性もあり、後の刑事裁判で証拠となる『供述調書』を取ることになります」

Q.もし、黒川氏が賭博罪に問われなかった場合、他の法令で罪を問われる可能性はありますか。

牧野さん「新聞社のハイヤーで帰宅したという点が、国家公務員倫理規程5条『職員は、利害関係者に該当しない事業者等であっても、その者から供応接待を繰り返し受ける等社会通念上相当と認められる程度を超えて供応接待または財産上の利益の供与を受けてはならない』に違反している可能性があります。

一方で、刑法197条1項前段の『収賄罪』(5年以下の懲役)の可能性ですが、新聞記者側からの利益供与があったとみられるものの、収賄罪の成立にあたっては公権力の行使に関して何らかの便宜を図ることが必要なので、収賄罪にあたる可能性は低いと思います」

オトナンサー編集部

黒川弘務氏(2019年1月、時事)