「がんに立ち向かうには、どうすればいいでしょうか」。健康なときにはなかなか意識しないこの問題は、がん告知を受けたとき、また、がん治療がスタートしてからも、患者やその家族を大いに悩ませます。そして、悩み抜いた末に「孤独」に陥ってしまう人も少なくないのです。

 今回は、消化器内科・腫瘍内科医師の押川勝太郎さんに、がん治療における患者と家族のあり方について伺います。押川さんは抗がん剤治療と緩和療法が専門で、2002年、宮崎大学付属病院第一内科で消化器がん抗がん剤治療部門を立ち上げ、2009年、宮崎県全体を対象とした患者会を設立。現在、NPO法人宮崎がん共同勉強会理事長の職責にあります。

病気にはジャンルがあることを知る

 読者の皆さまは、病気にジャンルがあることをご存じでしょうか。本稿の最初に、病気のジャンルについて、押川さんに解説していただきます。

「がんは別名『悪性腫瘍』といいます。腫瘍という字は『腫れる』という意味、悪性は『命に関わる』という意味です。良性腫瘍は、イボとかホクロです。これは命に関わらないため良性となるわけです。病気にはいろいろジャンルがあります。例えば肺炎。これは感染症というジャンルです。肺に細菌などが入り炎症を起こす病気で、抗生物質などで排除すれば治ります」

「糖尿病は代謝病というジャンルです。放置すると動脈硬化を促進します。これが将来、脳梗塞心筋梗塞などを起こすので治療が必要となります。しかし、この病気は治りません。治らないのになぜ治療するかというと、将来、重大な合併症を起こす危険性を減らすためで、治らなくても一般人と同じような生活を送ることが期待できます」

 人間は60兆個の細胞からつくられていて、細胞には、それぞれが今後どう行動するのか書かれた設計図、遺伝子情報があります。これが、がんに影響を与えると押川さんは指摘します。

「がんは腫瘍というジャンルです。細胞は紫外線や化学物質などの刺激により、その細胞内の遺伝子情報が破壊されることがあります。それらの細胞はほぼ死滅しますが、一部の遺伝子情報だけ傷ついて生き残る細胞もあります。そして、傷ついた遺伝子情報は細胞分裂をストップさせる命令を壊してしまうことがあります。つまり、永遠に分裂し続けるわけです。腫瘍細胞の誕生です」

「さらに、より速く分裂するようにとか、遠くヘ転移する能力を獲得したりとか、悪い性質へ変化することがあります。悪性腫瘍は遺伝子情報が少し書き換えられただけですから、外見や細胞としての性質は正常細胞とほとんど変わりません。毒素を出すわけでもなく、大きくなければ存在に気付かないのです。ところが年月がたって数が増え、1000億個→2000億個→4000億個という増加量になると急速に大きくなり、周囲を圧迫し始めます」

がんにはどのような対処が望ましいか

「がんは大きいほど症状に直結して命に関わります。また、広がりは根治性(治しきること)に関わってきます。抗がん剤は効きにくいため、標準治療(最も確実な治療のこと)は手術で切除ですが、広がりすぎると切除しきれなくなります。もし、切除でがんを残した場合、手術で体力が低下していますので、体に残った微小がんが急速に大きくなり、かえって寿命が短くなることになります」

「完全に取りきれる見込みがあるのなら手術もいいのですが、遠隔転移という、がんの発生したところより遠くに飛び火したがん(ステージIV)は手術では治りません。従って、手術で完全切除ができないのであれば、がんと共存する治療が望ましいと考えられるわけです」

 さらに、がんは大きくならなければ症状は悪化しないし、生命の危機も迫ってこない。少しでもがんが縮小したら症状が改善することがあると、押川さんは続けます。

「がんは抗がん剤で完全に消えなくても、大きくならなければ判定勝ちと考えてもいいわけです。その場合、がんと共存するのですから、病院にずっと入院しておくのはナンセンスで、ご自身の生活を楽しみながら治療することが望ましいと考えます。抗がん剤副作用もきつくないように調節しながら、なるべく長く継続する方向です」

「個人個人でまったく状況が違うのが、がんの特徴です。さらに、自分のがんがどのようなものなのか分からないこと、何が分からないのか分からないということが、強い不安となります。まず最初に、ご自身の立ち位置を確認することが最重要事項となります。

がん患者さんの最良の治療法選択という目標に進む前に、まずはきちんとしたスタートラインにつくことが大事です。がん種や個人事情が違えども、がん治療の共通の知識と戦略というものがあるからです」

 押川さんは、がん患者やその家族から寄せられる疑問、あるいは医師の目から見た、がん患者が抱えやすい悩みに対してアドバイスが必要だと言います。病院、主治医、患者会、支えてくれる人たち――さまざまな存在とのつながりが、がん患者に希望を与えていくのです。

コラムニスト、著述家、明治大学サービス創新研究所研究員 尾藤克之

自分が「がん」と診断されたら…