
内閣不信任決議案に賛成する「造反票」を投じたことで、民主党を除籍処分となった松木謙公・衆議院議員が2011年6月8日、ニコニコ生放送「涙の『造反票』松木謙公議員 内閣不信任案を語る」に出演した。松木氏は、民主党が自民・公明との連立政権を樹立するいわゆる「大連立」の議論についても触れ、「何から何まで大連立でやっていくことはないと思う」とした上で、震災と原発対応に限っては、その可能性を否定しなかった。だが、増税目的との見方があることについては、「こんなときに増税などをやったらどう考えても『火事場泥棒』という雰囲気がある」と痛烈に批判した。
(松木謙公「造反票」への思いをニコ生で告白(5) 「菅首相のやっていることは邪悪だ」)
以下、番組での松木氏と角谷氏のやりとりを全文、書き起こして紹介する。
角谷浩一氏(以下、角谷): 京都の女性から(質問)。「政党政治のデメリットばかりが昨今目立ちますが、松木議員が考える政党政治の必要性は何でしょう?」
松木謙公・衆議院議員(以下、松木): 政党政治か。やはり私は選挙で選ばれた人たちが、最終的に決定をするというところが一番大切だと思っている。それでないと、自分たちと全然関係ないところで全部決定されたら、うまくいってもそうでなくても納得できない。だから政治家というのは、自分をしっかり持っていなければいけない、ということではないか。
角谷: 皆さん政党の中にいると、政党助成金があったり、さまざまな政治活動をする上でのメリットがたくさんある。ですから除名で民主党から外されると、例えば資金の問題とかも含めて、また今までは民主党という政党の支部だったのが、今度は個人の松木謙公としてやらなければならない。そういう意味では政治活動を非常にやりにくくなる。例えば国会で質問したいと思っても、なかなか質問するチャンスがなくなってくる。今回、統一会派では民主党と組むような仕組みになりそうか?
松木: いや、そこら辺はまだ何もない。しかし農林水産委員にはそのまま残った。
角谷: そういう意味ではやりたい委員会に入れない、「いっぱいだから、あなたは我慢して」と無所属の場合には、後回しにされがちな場合も起こり得る。
松木: そうなるだろう。
角谷: だが、自民党の比例で当選した与謝野(馨)さんが今、民主党の閣僚をやっている。今度自民党政権ができたら「松木さん、うちでやろうよ」というふうに自民党から言われる場合はないだろうか。
松木: いや、それはないだろう。
角谷: それくらい与謝野さんの入閣というのは、相当珍しいというか、変だというか、普通なら無いことなのだろう。(次の質問は)京都の男性から。「今日本の政治が最優先でやらなければならないことはなんでしょうか?」
松木: それはやはり震災対策。あと原発のこと。これはしっかりやっていく。ただ、そこにばかり目がいくと、今度は兵站部分が、経済が落ち込んでしまう。ここら辺の手当てをしっかりやらないと。なので増税で何とかしようだとか、あそこの予算を削ってこっちに付けようというのは、僕はあまり賛成できない。やり方はもっと工夫できるんじゃないかと思う。
角谷: 民主党の今出しているものは、付け焼き刃っぽいものがいっぱいある。その場をしのぐ感じのものが多くて、少なくとも野党時代にいろいろ新しい知恵を出した民主党とは、面影がないと言ってもいいくらい(違う)かもしれない。(次の質問は)東京の男性から。「27歳の会社員なのですが、松木さんのように何事にも動じない精神力を付けたい。どうすれば精神力が強くなるでしょうか?」
松木: いや、そんなことはない。私はいつも普通に生きているつもり。
角谷: 僕は実は松木さんを秘書時代から存じ上げていて、松木さんは自民党の藤波孝生さんという三重選出の官房長官などをやられた政治家の、秘書をずっとやっておられた。実は「リクルート事件」という事件の中で、(藤波さんが)官房長官や労働大臣の経験もあったということで、松木さんは「藤波ルート」という裁判の渦中に入っていく。
松木: そうですね、リクルート事件でね。
角谷: 藤波さんは総理候補の一角にいる、自民党の中では非常にスマートなタイプの政治家だった。真面目だし、政策通。そして丁寧で、官房長官の時もとてもスマートな官房長官というイメージが僕にはあった。もう他界されたが、そのリクルート事件によって晩年は非常に厳しい政治生活を送ることになった。リクルート疑惑議員として落選したこともあった。実はそれを体を張ってマスコミから守り、そして藤波という政治家を信じ、ずっと守り続けたのが松木さんだった。
松木さんの政治信条はまさに「藤波さんを守る」。なぜ藤波さんを守るかと言ったら、「この人を信頼しているからだ」ということを、ずいぶん後になって松木さんから聞いたことがある。松木さんは、藤波さんのリクルート事件の裁判を毎回欠かさず傍聴していた。そこで思い出すのが、実は田中角栄のロッキード事件の裁判を毎回傍聴していた青年・小沢一郎がいたということ。それとダブると言う人は、政界の中に何人もいる。そういう意味では、一つ自分の信じたもの、自分の尊敬するもの、これに対し徹底的にそれを極めたいと、自分がブレずについて行きたいと、こういう思いをしている「松木さんらしい」と、小沢さんが今日言った。実は僕も松木さんらしいなと思う。
しかし政治家はいろいろな形でたくさんの人の協力を得ながら、政治を実行するという役割で、松木さん1人で政治はできるものではない。もちろん政党にいるから自由自在にできるわけでもないというのは、今の民主党を見ていればよく分かる気がする。そう考えると、松木謙公という政治家のこの決断は、民主党にとって実はものすごい損失だったんじゃないだろうか。松木さんは小沢さんのただの側近だと思っていたら大きな間違いで、こうやって小沢さんとは違う政治行動もとった。(松木氏が)小沢さんのただのイエスマンだともし思っている人がいたら、それは大きな間違いだと思う。それよりも、次世代の民主党議員がこういう形で執行部に使い捨てされることが、民主党のダメなところが出ている気がする。「排除すれば自分たちのやりたいことができる」というのが、ここのところの執行部のスタイルになっている。
松木: そう考えているのか、よく分からない。そう考えてもらいたくはないが。
角谷: ちょっとこの辺は踏み込まずに、松木さんも慎重な感じが出てきた。最近冷静になった感じがするが。
松木: そうですか。
角谷: これから民主党の将来も憂うだろうし、それから松木さん自身がこれからの震災復興、それから今後「ポスト菅」という議論では、民主党の同僚議員の中からいろんな声が出てくるだろう。今後の民主党や政局の見通しについて、松木さん自身の見立てはどうなっているのか。
松木: まず、菅総理には一日も早くお辞めになっていただいて、そして予算の関連の法案をしっかり挙げて、二次補正もちゃんとして――そういうをことしてからだろう。
角谷: (菅首相が)辞めると物事はうまく動くだろうか。
松木: 普通はそうは思わない。だが、自民党・公明党は間違いなく、菅さんに「お辞めください」と。「辞めたらわれわれはその部分(予算関連の法案)で同調します」とはっきりと言っている。これは珍しいこと。本当に言っている。
角谷: 党首討論でそう言っていた。
松木: ということは、動く。そこまでは。しかし、後はまたお互いの知恵を出してやっていくことになるだろう。
角谷: 官房長官の枝野(幸男)さん、それから岡田幹事長は「いやいや、もう後は『大連立』ですから」「次は『大連立』ですよ」と。これはなぜ「大連立」(という話)になるのか。
松木: どのくらいの(規模の)ことを言っているのか私も分からないが、小沢さんが(「大連立」と)言ったときは、それこそ「バカ」だの「アホ」だの(と言われて)大変だったのに、今度はご自分たちのときはああいうことをしれっと言えるんだなと、ちょっと不思議に思う。しかし、今は震災と原発のことがあるから、こういうところで大連立というか、「与野党一緒にやっていきましょう」ということであれば、それはそれであることかなと思う。だが、何から何まで大連立でやっていくことはないと思う。
角谷: 今(コメントでの)書き込みにもあったが、「大連立の目的は増税と原発推進で一致する議員をたくさん集めたいのであり、国民のためや復興だとか経済の活性化ではない」と見ている人もいるようだ。
松木: そうだろう。それは本当に嫌だ。こんなときに増税などをやったら、どう考えても「火事場泥棒」という雰囲気がある。震災に遭われている方々も同じように増税になるのだから。
角谷: 震災の被災地であっても消費税の増税は同じようにある。そういうことを考えると、震災復興のために消費税が上がるというのは、震災の被災地の人たちはいったいどんなふうに感じるかというのもあるだろうし、それから日本全体の経済の活性化に本当にプラスになるのかどうか、これも含めて・・・。
松木: 決してプラスになるとは思えない。増税したら、結局は税収が減る。いいことはないと思う。
角谷: これからも建前ではない、「本音の松木」を貫いてもらって、どうぞまたニコニコ動画に遊びに来てほしい。
松木: ありがとうございます。
角谷: 今日来てどうか。(視聴者の)皆さんに大変評判が良さそうだが。
松木: いやいや、そんなことはない。ただ、最後に一つ言いたいことがある。今日来て見ていただいた方々、本当にありがとうございました。うちの父が実は福島の第1原発の大熊町(在住)で。町議会の議長までやった義理の父なのだが、震災のときに避難したけれど、それからいなくなって、10日くらい行方不明だった。それで見つかったときは、自分の(福島第1原発から)5キロ圏内の家の中にいて、自衛隊の方に助けていただいて本当にありがたかった。
そして、父が私に涙ながらに言ったのは「自分たちの町が非常に貧しいところだったから、何とかしたいと思って結局、原発に手を出したというか、そっちのほうに行ってしまった。結果がこれだ。本当に自分で情けなく思っている。でも、だからといって自分たちが何も悪くないってわけじゃない」と。そう言っていたのがすごく印象に残っていて、今回のこととは関係ないが、その話をしたかった。
角谷: こういうこと(震災)が起こって立ち止まって考えたりすること。また過去のさまざまな判断や決断が本当に正しかったのかどうか。政治はたぶん、「しょうがないよ」とか「決まっちゃったんだから」とか「法律ができちゃったんだから」と言ってはダメだ。やっぱり立ち止まっておかしいと思ったら、さかのぼる。
松木: 仰る通り。政治家というのはある意味、法律を変えるのが仕事。今がこうだから、もうしょうがないということには、なってはいけないと思う。しっかり頑張りたい。
角谷: 今日は緊急特番で松木謙公議員に来ていただいて、あのとき不信任案をどういうふうに思って賛成票を投じたのか、さまざまなその前後の話を伺った。さて、小沢さんは今後はどうなっていくのか。
松木: まあ、力強く政治活動を続けていかれるのではないか、いきますよ。
角谷: 今日は松木謙公さんに遅い時間でしたがお越しいただいた。どうもありがとうございました。
松木: どうもありがとうございました。
(了)
(山下真史、岩本義和、土井大輔、中村真里江、松本圭司、徳永晃太)
◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]記事内全文書き起こし部分から視聴 - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv52612733?ref=news#53:03

コメント