成果は徐々に 自らの問題に集中
ザイデルが進めてきたことの成果は、2019年シーズンが進むにつれ明らかとなっていった。
可能性を感じさせるスタートを切るとチームは自らのやり方を見つけ出し、実力派スペイン人ドライバーのカルロス・サインツJrと、才能溢れる英国人ルーキー、ランド・ノリスのふたりがお互いを刺激し合いながら、コンスタントにポイントを獲得していったのだ。
そして、シーズン終盤のブラジルGPでは、サインツがマクラーレンにとっては2014年以来となる3位表彰台を獲得している。
コンストラクターズポイントでは4位となったマクラーレンだが、これはメルセデスとフェラーリ、レッドブルに次ぐものだった。
だが、目標は現在のビッグ3に続くことではなく、マクラーレンが目指すのは彼らの間に割って入ることだが、依然としてその差は大きいことも事実だ。
そして、そのなかにはもちろん予算も含まれており、減少するスポンサー数と、ワークスではないエンジン供給契約など、マクラーレンは財政面でもビッグ3に遅れをとっている。
予算は大きな問題ではないとザイデルは主張するが、それでもいま激しい議論を呼んでいるバジェットキャップがマクラーレンの助けになるかも知れない。
「予算の問題を抜きにしても、単純にトップ3チームはわれわれよりも良い仕事をしています」と、彼は言う。
「より良い組織とより効率的で優れた設備があり、より良い方法とより素晴らしい仕事の進め方をしています。バジェットキャップ制とは別に、こうした点でわれわれは彼らに追いつく必要があるのです。自らの問題に集中すべきです」
設備も刷新 新たなPU供給契約
ザイデルにはバジェットキャップの問題を解決したり、スポンサーを探し出すことは出来ない。それはブラウンの役目だ。
彼に出来るのはチームの問題を解決することであり、体制を立て直すとともに、ふたりの才能ある若手ドライバーを繋ぎとめることはその手始めに過ぎない。
ザイデルとブラウンはウォーキングに最新鋭の風洞を新たに設置することを明らかにしている。
この新設備は過去10年間使用されていなかった時代遅れの古い風洞の隣に設置されることになるが、この間マクラーレンはドイツのケルンにあるトヨタ・モータースポーツの施設を借りていたのだ。
さらにザイデルはもうひとつの大きな変化も引き起こしている。
2021年シーズン以降、マクラーレンはふたたびメルセデスからPU供給を受けることになるが、これは彼らの哲学に変化が起きたことを示している。
1996年から2014年までこのドイツメーカー製PUを使用していたマクラーレンでは、1998年と1999年シーズンにミカ・ハッキネンが、2008年にはルイス・ハミルトンがドライバーズタイトルを獲得している。
そのほとんどの期間、マクラーレンは実質的にメルセデスのワークスチームとして活動していたが、2010年シーズンからメルセデスが自らのチームで参戦を始めると、彼らは単なるカスタマーユーザーとなり、これがその後のホンダ製ユニットの採用へと繋がったのだ。
最善の選択 事態は複雑に
過去2シーズン、ルノー製PUの供給を受けていたマクラーレンだが、メルセデスのほうが素晴らしいユニットを創り出すことに疑いの余地はないだろう。
ワークス契約でないということは、マクラーレンが新たな現実を認識し、最善の道を選択したということを表している。
2021年シーズンからの契約が意味するのは、このPU変更がコスト削減と白熱したレース展開の実現を目指したF1の大幅なルール変更とともに行われるということであり、マクラーレンではこれが公正なレース環境を生み出すとともに、自らの前進をも助けてくれると信じていた。
つまり、マクラーレンの計画とは、今シーズンは成長を確たるものとし、来シーズンからの飛躍を目指すというシンプルなものだったのだ。
だが、いまや事態はそれほど単純ではない。
シーズンの開幕は延期され、成功を積み上げる代わりに、近い将来に対する懸念が突然沸き起こっている。
レースが行われないということはチームにスポンサー料や放映権料が入らないということであり、さらには、新型コロナウイルスの感染拡大が収束したとしても、存続できないチームがあるのではないかとさえ言われているのだ。
F1全体が閉鎖されたような状況のなか、マクラーレンでも多くのスタッフを自宅待機にしている。
楽観主義は健在 歩みは着実
この状況は単にマクラーレンのチーム再建を一時停止させているだけではない。
コストを削減すべく、2021年シーズンは今シーズン用のマシンを継続使用することに各チームが合意したことで、新たなF1ルールの導入は2022年シーズンへと先送りされることになったのだ。
それでも、マクラーレンは2021年シーズンからメルセデス製PUを採用する予定であり、この新ユニットを車体に搭載するための「絶対的に必要な」変更だけは許されるだろう。
「2021年シーズンからの新レギュレーション導入を求めていたのは公然の事実です」と、ザイデルは話す。
「しかし、この危機を直視して導入の延期を受け入れました。誰も今シーズンのレースが行われるどうかや、実際の財政状況もわからないのですから、当然と言えるでしょう」
「タイミングに関して言えば、新ルール導入時期の変更と長期に渡る休止期間が、われわれのいわゆる復活プログラムに多少の遅れをもたらすことにはなるでしょう」
ザイデルにはフラストレーションが溜まっていると思うだろうが、彼の楽観主義は健在だ。
それは昨シーズンの成長と、マクラーレンがふたたびトップに返り咲くことが出来るという信念がもたらしたものに違いない。
計画よりも多少時間は掛かるかも知れないが、彼らは着実に復活の道を歩んでいる。
番外編2:マクラーレンのアメリカン・ドリーム
マクラーレンが今シーズン戦うのは、(まだ始まっていない)フォーミュラ1だけではない。
近年、2度のF1チャンピオンであるフェルナンド・アロンソのインディ500挑戦を2回サポートしており、今年はインディカー・シリーズにフル参戦することにしたのだ。
シュミット・ピーターソン・モータースポーツと提携してアロウ・マクラーレンSPとして参戦するチームは、F1と同じパパイヤ・オレンジカラーのマシンを走らせる予定となっている。
チームは20歳のメキシコ人、パトリシオ・オワードと、23歳の米国人、オリバー・アスキューという有望な若手ドライバーを起用するとともに、新型コロナウイルス感染拡大の影響から今年は5月から8月後半に開催時期が変更されたインディ500では、さらにアロンソが加わることになる。
この計画によって、昨年スポット参戦で予選落ちを喫したアロンソとマクラーレンには、汚名返上のチャンスがもたらされるだろう。
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