(政策コンサルタント:原 英史)

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 緊急事態宣言からの「出口」が見えてきた。

 東京都の新規感染者数はひと桁の日が多くなり、専門家会議の示す目安「直近7日間の新規感染者数が10万人当たり0.5人」はクリア。5月25日には、首都圏と北海道の宣言解除が視野に入ってきた。

東京ロードマップと大阪モデルの根本的な違い

 小池百合子・東京都知事は5月22日、都の「ロードマップ」を公表した。ステップ1からステップ3までの3段階を設定。2週間ずつかけ、新規感染者数などのデータをモニターしながら、休業要請などの緩和を進めていく。

 これは、吉村洋文・大阪府知事が先に公表した「大阪モデル」や、欧米各国で先行する緩和措置に似ている。大阪モデルも3段階だし、欧米も段階設定するところが多い。また、要警戒水準に達すると「東京アラート」をわかりやすく発することも類似だ。大阪は通天閣と太陽の塔をライトアップするが、東京ではレインボーブリッジが赤くなる。東京は公表が遅れた分、先行事例の良い点はしっかり取り入れた。これは良いことだ。

 だが、一見似ているとみえて、大きく違う点がある。スタートとゴールが置き換わっていることだ。

 5月14日に公表された「大阪モデル」は、第一段階に入るスタート地点は「国の緊急事態宣言下」との前提だ。国の宣言解除に先立って緩和を進めることが目的で、宣言解除されれば原則すべて解除、との設計だ。

 現にその後、大阪は5月21日に国の宣言解除がなされ、飲食店の時間制限などは解除された。府県を超えた移動などは国がまだ自粛を求めているため、5月29日まで一定の制限を続けているが、その後は原則解除、経済活動の本格再開に向かう見通しだ。

 これに対し、東京の「ロードマップ」は、スタート地点が「国の緊急事態宣言の解除」だ。5月25日に解除されれば、そこでようやく第一段階に入る。そこから2週間ずつかけて第三段階まで進み、第三段階でもなおカラオケなど一部業種は制限が継続する。このとおり進むなら、原則解除まで行き着くのは7月以降だ。

 つまり、大阪のゴールが、東京のスタート地点。「大阪モデル」は国より先に出口に向かおうとしたのに対し、国よりさらに遅らせるのが東京「ロードマップ」と言える。

欧米の出口戦略は別次元

 欧米と比べると、東京「ロードマップ」の特異さはより顕著だ。

 大阪と東京は差があるとはいえ、どちらも国の緊急事態宣言に基づき、「7日間で10万人あたり0.5人」がベースだ。

 これに対し、ニューヨーク州や欧州各国では、毎日数千人単位の新規感染者がいる段階で出口戦略に踏み込んだ。出口戦略を決定ないし公表する直前7日間の10万人あたりの感染者数をみると、ニューヨーク州は138.58人、スイス53.67人、イギリス50.83人など、「0.5人」とはおよそ次元が違う。まだ相当危うい状態で出口戦略をスタートし、段階的に緩和していくものだ。

 また、ドイツの場合は、9.59人とやや少なめだが、緩和をストップする「非常ブレーキ」の発動要件は「10万人あたり50人」。基準の桁は2つ違う。

 たとえて言えば、欧米の出口戦略は、危険な洞窟をなんとか抜け出すため、安全確認のステップを設定するものだ。これに対し、東京ロードマップは、洞窟を抜けた先にトンネルを作って入り直し、同じようにステップを設けて匍匐前進を続けようとしている印象だ。

対策は分権、データは集中管理せよ

 東京のロードマップは、世界に例をみない特異なものだ。これは、認識しておくべきだ。都民・事業者に対しては、なぜ東京だけそこまで慎重に自粛・休業を要請するのか、十分に説明されなければならない。私自身は東京都民だが、少なくとも今のところ、その必要性が全く理解できない。

 しかし、東京ロードマップはおかしい、とまでは言い切れない。コロナウイルスはまだわからないことが多い。この先数か月たって、世界中で「やはり東京ぐらい慎重にしておくべきだった」となる可能性も否定できない。

 その観点で、東京と大阪で異なる出口戦略がとられることは、必ずしも悪いことではない。もちろん、それぞれの地域で理解が得られる範囲内との前提だが、その限りなら、結果を見比べつつ軌道修正も可能になる。次の波に備えても、複数の戦略を試しておくことは意味があるだろう。

 ただ、対策を分権的にするならば、もうひとつ重要な前提条件がある。データは正確に把握・開示し、地域を超えて共通指標で比較できるようにすることだ。

 残念ながらこれまで、公的に開示されているデータの正確性にはいろいろと問題があった。例えば、東京都の公表する入院者数は、5月11日までは実際に入院していない人も含む数値で、時系列のデータ比較ができなくなっている。これは楊井人文氏が明らかにし、その後、東京都のウェブでもその旨が記載されている。

(参考)https://news.yahoo.co.jp/byline/yanaihitofumi/20200520-00179464/

 また、厚生労働省の公表する検査数データに問題があることは、筆者も以前に指摘した。その後、若干の改善がなされたが、今も「検査人数」か「検査件数」かは都道府県によってまちまちだ。横断的なデータ比較は正確にはできない。

(参考記事)こんなにある、PCR検査を巡るフェイクニュース
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60411

(参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000633022.pdf

 これらの問題には、共通の要因がある。手作業による事務処理ミスなどもあるが、より本質的なのは「データの地方自治」問題だ。感染者数や検査数はじめ各種データは多くの場合、自治体がそれぞれの手法と書式で集計する。国は、「地方自治」のもとそれぞれの手法等を尊重し、集計結果をまとめる。このため、「検査人数」か「検査件数」かすら不統一などということが生じるし、集計時の混乱や間違いも生じやすい。

 さらに、都道府県の下には市区町村がある。東京都の場合は、23区にそれぞれ保健所があり、都はそれぞれの区が集計したデータをもらってまとめる。ここにも「地方自治」問題があり、都が区に指揮命令はできず、集計時の混乱は重畳する。こうして、迅速で正確なデータ公開が阻害されている。

 背景にはさらに、個人情報保護条例などの問題も横たわる。自治体の保有する個人情報は国の法律で規律されず、自治体がそれぞれ個人情報保護条例を定めている。条例の内容は自治体ごとにちょっとずつ違い、データベースのオンライン接続などもそれぞれの条例で制約される。「個人情報法制2000個問題」(2000は全国自治体等の数)とも呼ばれる問題だ。ルールがばらばらでは問題が生じがちなので一本化すべきとの議論が長年あったが、「地方自治」を盾に進まなかった。それどころか、データの書式を統一する程度の話さえ、「地方自治」との兼ね合いで動かないことがままあった。こうした問題が今回噴出している。

 少なくとも、データの集計手法と書式は国で統一し、集中管理すべきだ。これまでの日本では、データ管理は地方自治、一方、実質的な対策は中央集権的な傾向が強かった。後者は小池知事が「自分は中間管理職だとわかった」と発言したとおりだ。これを逆転し、対策は分権、データは集中管理にしたらよい。

都道府県データモニタリングの試作版

 今後、都道府県ごとの状況を横断的に比較できるように、データモニタリングのイメージを参考まで試作してみた。

 新規感染者数、医療提供体制、検査体制について、公開データを整理し、それぞれ「要注意水準」(黄色)、「要警戒水準」(赤色)を以下のように設定している。

1)新規感染者数
・政府の基本方針(0.5人を目安としつつ、1人程度以下なら総合判断)に沿って、7日間10万人あたり0.5人、1人を指標とした。

2)医療提供体制
・コロナ用に確保した病床、重症者用病床の使用率について、40%、60%を指標とした。これは、大阪モデルの指標(重症者用病床使用率60%)を参考としている。

・また、ICUの総数との比率もとった。上記の病床使用率は、病床を多く確保するほど低くなるが、他の疾患患者への影響なども考慮すべきと考えられるためだ。ここでは、日本集中医療医学会が、コロナの重症患者を収容できる上限は「(ICU総数6500のうち)1000床に満たない」(4月1日)と表明していることも参考に、10%、20%と設定した。

3)検査体制
・陽性率については、大阪モデルの指標(7%)のほか、WHOの勧告で陽性率の適正水準は3~12%とされていること(5月14日専門家会議会見にて言及)を踏まえ、7%、12%を指標とした。

 あくまで試作で、不備や抜け落ちもあると思う。今後、国がデータを集中管理し、国民向けにわかりやすく公開していくうえで、参考になれば幸いだ。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  こんなにある、PCR検査を巡るフェイクニュース

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