今回のコロナによる影響は現在進行形のため、われわれの社会・経済に与える影響や今後の見通しについてはほとんど何も見えていない。現在の状況に、楽観論と悲観論が入り交じっているのはそれゆえだろう。そんな不透明な先行きに少しでも光を当てるべく、1207億円の純資産残高を誇る「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長と、個人投資家兼作家でITやデータ、政策論に強い山本一郎氏による対談を企画した。

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 第1回では「あらゆる面で失われたトラスト(信頼)をどう再構築するか」というキーワードが浮上した今回の対談。市場を軸足に置く二人はどのような未来を見ているのだろうか。(JBpress)

共有体験やコト消費の仕組み自体が否定

──それではよろしくお願いいたします。

山本一郎

 前回の終わりは、コロナで起きたことをわれわれがまだ消化できていないという話しでしたよね。

藤野英人

 そうそう。

山本一郎

 これまで、企業はいかに多くの人を動員してスケーラブルにビジネスを展開するか、ということを競ってきました。スケーラブルというのは、少ないコストで人を集め、多くの売り上げを出すということでした。ただ、今はお金を使ってもらえる仕組みはもちろんですが、人が集まらなくて済むようなビジネスが伸びている。

 少し前はなるべくたくさんの人を集め、共有体験やコト消費を生み出すことが付加価値でした。でも、三密による感染リスクが顕在化したことで、共有体験やコト消費などの仕組み自体が否定されてしまった。そうなると、ウィズコロナかアフターコロナかはともかく、家の中でコンパクトに、しかも高収益の事業を作る必要がある。体験というものを、コロナ時代に合わせて再構築しなければならなくなったわけです。

 ただ、今の状況を咀嚼するのに相当時間がかかると思いますし、アイデアが出た後に、それを実現するための時間もかかると思います。

藤野英人

 堀江さん(堀江貴文氏)が今の自粛経済に怒っている理由はよく分かるんです。彼が怒っている状況はよく分かるし、彼に共感が集まる現状もよく分かる。良きにつけ、悪しきにつけ、コロナを受け入れられていないんです。

山本一郎

 ホリエモンの言う通り、確かに99.9%の国民には関係がなく、感染しても風邪程度なのだからそんなもので経済を止めるなという側面はあります。ただ、現実には残る0.1%は重症化し、死んでしまう。その人たちは誰かの親、誰かの伴侶、誰かの子どもかもしれない。亡くなる恐れはたった0.1%ですよと合理的に言われても、人口1億2000万人の0.1%は12万人です。これだけの人が死ぬ可能性があると突きつけられれば、多くの人は都市を封鎖しろ、店を閉めろ、自宅を出るなと判断するでしょう。

 実際、どの世論調査を見ても、半数以上が「緊急事態宣言は必要だった」「むしろ遅かった」と回答しています。自粛経済を批判するホリエモンに共感する人はたくさんいますが、一定の結論が出て、みんなが「安全だ」と納得するまでは、やはり大勢に押し流されてしまうと思うんですよ。

藤野英人

 山本さんはご存知だと思いますが、2013年ごろに疫病のスマホゲームが流行しました。

山本一郎

 「Plague Inc」ですね。

藤野英人

 この間、久しぶりにやったんですよ。もう、すごくよくできていて。どういうゲームかというと、疫病になったつもりで全人類を滅亡させる。

 良くできているなと思うのは、毒性や感染率、潜伏期間などのパラメーターを変えることができるんです。例えば、毒性を上げればいいのかというと、感染者がすぐに死んでしまったり、人類が一致団結してワクチンを開発したりするのでなかなか広がらない。逆に、最悪なのは、弱毒性で感染率が高く、潜伏期間が長いもの。今のコロナと同じですよね。

 また、ゲーム中で感染を抑えるためにロックダウンを始めるのですが、ロックダウンを実施すると住民が怒り始めるんですよ。暴動が起きたり、地域の中で協力や連携が取れなくなったり、堀江さんのように、ゲーム内で自粛派と反自粛派に分かれて対決したりします。まさに、ゲーム通りの反応になっている(笑)。

山本一郎

 この状況を変えるのに必要なのは、国家を挙げての総力戦です。ただ、足元を見ると、どの国家体制が今のストレスを乗り越えられるかという体制競争になっているように感じます。

意見対立を消化できない民主主義国家

山本一郎

 米国や欧州連合(EU)が苦しんでいるのは、民主主義国家としてさまざまな意見対立が生じる中で、その意見対立を社会システムの中ですぐには消化できないということだと思います。民主主義国家の場合、コロナについて賛成、反対の意見が出る中で、その対立を社会の中で消化し、ダメージの減少に結びつけるためにはデリケートな政治的プロセスが必要になります。でも、コロナは決して待ってくれないし、忖度もしません。だから、民主主義的プロセスは解決するにあたって、すべてにおいて手遅れになるリスクを持っています。

 一方で、中国はそんなプロセスは必要ありません。自宅に中国の官憲がきてマスクを徴発していったと私の知人が嘆いていましたが、中国はそれくらいのことが平気でできてしまう。ホリエモンみたいな「コロナはたいしたことがない」という人間がいても、その声を簡単に封じ込めることができる。それも、物理的にね。

 恐らく中国は今のコロナの混乱からいち早く足抜けできるでしょうし、中国の人権無視、言論封殺自由自在の専制主義的な国家体制が危機に強いと証明されたという話になるかもしれない。そうなると、米ソの冷戦時代の直前のように、西側の民主主義と、東側の共産・専制主義の、国家システムとしてどちらが優秀なのかという競争が始まりかねません。

藤野英人

 その通りだね。

山本一郎

 例えば、オーストラリアは今回のコロナで中国の対応を批判しましたが、経済自体は対中貿易で成り立っている。2000年以降の経済成長は中国のおかげですよ。一方で、「魂までは売らない」と言うオーストラリア人がいるように、共産主義に対する相克もある。国家体制と経済のはざまで身動きが取れない。

藤野英人

 国家間の対立も経済の不透明感を高めるよね。国の話でもう一つあるのは、今回のコロナ禍で、各国は大なり小なり失業対策や貧困対策などの財政政策を打ちました。その財政負担を将来的にどうやってカバーするのかという議論はグローバルで間違いなく浮上するでしょう。

 その際に、失業した人から税金は取れませんので、富裕層から課税するしかない。富裕層から取ろうとすると税金かインフレのどちらかになります。そうすると、資産を持っている人はどう防衛すればいいのか。税金の徴収とインフレによる通貨価値の減少に対して取り組まなければならない。

財政破綻容認?慎重な対応を迫られる財務省

山本一郎

 間違いなく富裕層は狙われますね。財務省の方たちとディスカッションしていて感じることですが、財政規律にうるさい財務省が「今の状況で財政規律と言っている場合ではない」というぐらいに追い込まれている。「経験のない、未曾有の事態だ」と。言ってしまえば、もう財政破綻は止むなしと割り切っている感があります。

 今回のコロナ禍は今までに経験したことのないブラックスワン。過去の対処法をいくら知っていても、これからの対応の役に立つかどうかは分からない。ならば、足元の状況に粛々と対応するしかない──。そういう判断ですね。財務省の枢要なポジションにいる方が「インフレはやむを得ない」「不振のインフラ・基幹企業の国有化議論を始めなければならない」と言っちゃうんですから。

 でも、仮に北海道など地方で一度、金融危機が起きればたちまち地方経済は立ち行かなくなりますし、行き詰まって自殺者が増加するかもしれないしかねません。正直、地方北海道から都市部本州に多くの方が出稼ぎに来るというレベルでしょう。そういう話をしても、「もうそれは仕方がない」「止める方法が考えつかない」と。半年前に、何としても我が国の金融システムを守らなければならないと言っていた人がですよ。

 この価値観の変遷を見るに、今回のコロナが相当ショックだったのではないでしょうか。たかが風邪に毛が生えたような感染症ごときで、人間関係のトラストや金融資産に対するトラストが破壊されるのを目の当たりにしている。そんな状況に、立ちすくんでいるという状況。

 じゃあ、何を信じたらいいのか。それこそ缶詰かもしれないし、ペットボトルの水かもしれない。ちなみに、我が家の一角は水の保管スペースになっています。

藤野英人

 あとは、ファミリーですよね。家族関係がハッピーか、アンハッピーかで幸福度が劇的に変わる。

藤野氏、「マルプー」を飼い始める

山本一郎

 結局、うまくいっている家って、自宅で料理して、みんなでスポーツをやっているところなんですよね。コロナは家族の形や家族と社会の関わり方を大きく変えていくと思います。そのときに、コロナ時代のトラストの形も見えてくるはず。その信頼の形を最初に提示し、構築したところが勝つんじゃないか。

藤野英人

 トラストの話に近いかもしれませんが、今、花が売れているんです。花は不要不急な感じがしますが、それでも売れている。恐らく、花を通じてファミリーや親しい人との関係をつないでいるんだと思います。ウィズコロナかアフターコロナのあるべき経済圏については今はまだ分かりませんが。花やホームセンターで売っているような手近なものからトラストを構築しようという動きが急速に起きている。

山本一郎

 激しく社会が揺さぶられている中、危機感を感じた人間が固有で持っていたものに回帰するんだと思います。親子の情であったり、家族関係であったり、企業であれば苦楽を共にした同僚との関係であったり、そういったものに重きが置かれていく。

 経済の問題で言えば、5月末から企業の倒産が激増し、失業者がどんどん増えていくと思います。4月までの経営不振や倒産は、コロナが来る前から行き詰まっていた事業がとどめを刺された形でしょうが、これからは上手くいっていたところも破綻していきます。つまり、事業環境が悪化し、雇用が破綻する。感染症とは別の形で社会不安が増幅されるわけです。さらに、このあと猛暑が来て、秋以降にコロナとインフルエンザがダブルで来る可能性だってある。不確実性が高まる中で、いま確かなもの、「トラスト」とは何かということを考え始めたのだろうと。

 そのときに必要なサービスは何かというのはまだ分かりませんが、家にいても他者との信頼関係を築ける仕組みであったり、自分自身の存在に対して価値や意味を見いだしてくれるツールであったり、そういう方向ではないかと思っています。精神であったり、人間を超えたものであったり。

藤野英人

 山本さんの家は家族も多いけど、猫ちゃんもいるじゃないですか

山本一郎

 元気にしていますね。実家には犬ものんびり暮らしています。

藤野英人

 この間、(リスクコンサルティング会社)米ユーラシア・グループのイアン・ブレマーが「これからのコロナ時代に重要なのは家族だ」と言ったあとに「犬を飼え」と言ったんですよね。花を買うのと同じ話。実は今日(対談した5月14日)、藤野家にも犬が来るんですよ。

山本一郎

 おお、それは! おめでとうございます。

藤野英人

 マルチーズトイプードルミックス犬です。やっぱり時代に乗っていこうと思って(笑)。逗子に移住してパンを作り、自分で料理して犬を飼う。日々の食事の質を上げて、住まいをより快適にすれば家族もハッピーになる。そういう生き方にシフトしようと考えています。

山本一郎

 これが信頼だというのを誰がどういう形で踏み固めていくか。その信頼を構築できる場として東京がふさわしいかという点も、問い直されていると思います。

──たびたび恐縮ですが、だいぶ長くなってきましたので、また小休止しましょう。「藤野×山本」対談の3回目は5月26日に公開しますので、しばしお待ちください。

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