マンション分譲に20万人が応募し、シャネル売り場に長蛇の列――。
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を受けて、韓国の経済成長率や雇用、企業業績などへの影響が今後さらに本格化するとの見方が強い。
そんな中で、過熱ともいえる個人の消費や投資があちこちで見られる。
「こりゃいったい何だ?」
2020年5月13日午前、ソウル中心部のロッテ百貨店前。開店前だというのに、建物をぐるりと取り巻いて行列ができている。
ロッテ百貨店を取り巻く行列
一緒にいた韓国人の会社員と「そういえば、昨日も行列があった・・・」と思い出した。
この会社員が、スマホで検索してその理由を明らかにしてくれた。
ブランド品に関心がない筆者は気づかなかったが、ニュースではこの行列のことを盛んに取り上げていた。
韓国メディアによると、5月7日前後に、14日からの値上げが明らかになった。「値上がり前に買わないと」とばかり、店に客が殺到したのだ。
いったい、いくらくらいするのか。
「クラシックスモールハンドバッグ」は632万ウォン(1円=11ウォン)から769万ウォンに、「クラシックミディアムハンドバッグ」は715万ウォンから849万ウォンに引き上げになった。
日本円換算でも10万円以上の価格引き上げだ。こういうブランド品の価格改定として、大幅なのか、小幅なのか、筆者にはよく分からないが、一般的にはかなりの金額だ。
それにしても、何日間も開店前から店を取り巻くほどに客が来るとは驚きだった。
テレビのニュースを見ていたら、若い女性が「会社を休んで並びました。何としても値上がり前に買いたかった」と熱く話していた。
マンション分譲に26万人
行列を見てから1週間後の5月20日、もっと仰天するニュースがあった。
ソウル市内で売れ残ったマンション3室の分譲があったが、何と26万人が応募した。
3室に26万人だ。
このマンションの価格は97平方メートルの部屋が17億4100万ウォン、159平方メートルの部屋が30億4200万ウォン、198平方メートルの部屋が37億5800万ウォン。
大型物件で、日本円換算でもいずれも「億ション」。高級物件でもある。
このマンションは総280世帯で、2017年に分譲契約があった。ところが、契約条件を満たせずキャンセルになって売れ残った物件が出て3年前と同じ価格で売り出すことになった。
この3年間でソウルの「優良物件」は値上がりが続き、このマンションも3年前の分譲時に比べて5億ウォンほど値上がりした。
「めったに出ない物件」「すぐに儲かる物件」ということで、応募が殺到したのだ。
個人投資家が支える証券市場も
個人マネーが活発に動いているのは、証券市場も同じだ。
韓国で新型コロナの感染者が急増した3月を契機に、外国人投資家が韓国株を売りに出て優良株の株価が急落した。
この時に、これを買い支えたのが「ケミ(蟻の意味)」と呼ばれる個人投資家だった。
韓国証券市場(コスピー)市場を見ると、3月に外国人の純売り越しが12兆5550億ウォンあったのに対して「ケミ」が11兆1869億ウォンを買い越した。
外国人は4月に4兆1001億ウォン、5月(21日まで)にも2兆9987億ウォンを売り越した。これに対して、ケミは4月に3兆8124億ウォン、5月(同)に2兆7183億ウォンを買い越した。
こうした「ケミ」の強い買い支えもあって3月19日に1457ポイントに落ち込んだ韓国の総合株価指数は、2000ポイントをうかがうほどに回復している。
それにしても、何でこんなにも個人マネーの動きが活発なのか?
韓国紙デスクはこう話す。
「26万人が応募したマンションは、すぐ売れば儲かるという話ではある。しかし、新型コロナの流行で不動産市場の先行きがどうなるのか不透明な時期だけに驚きだ」
「いよいよ高水準の価格が下落するという見方も少なくないのに、こんなに殺到するなんて、理解できない」
「株式投資もそうだ。3月に利益を出した個人投資家が、今度は急落した原油相場に投資して手痛い目に遭ったという話もある。他人事ながら怖くて、冷や冷やする」
韓国の企業業績や輸出などは、航空業界や観光業界などを除いて全体的には1~3月期は善戦した。しかし、4月以降、輸出が大幅減になるなど、新型コロナの影響が大きく出るのは必至だ。
背景はカネ余り、過去の経験?
企業業績、輸出、雇用への不安が広がる中で、異様ともいえる個人マネーの動きだ。
金融機関のエコノミストは「これまで何年間も、カネ余りが続いている。といって中長期的な視野で投資したいと思わせるほどの将来の成長分野が見えない。規制もたくさん残っていてスタートアップも育ちにくい。だから、不動産や株に投資が集中する」と話す。
韓国紙によると、シャネルのバッグも、一部ですでに中古市場に出回り始めたという。ブランド品を愛する消費者の中に混じって、マネーゲーム目的の購入者も少なくなかったとの見方もある。
別の韓国紙デスクは、こう見る。
「韓国は、IMF危機やリーマンショックなど経済危機を何度も乗り越えてきた。結局、危機が来ても、踏ん張れば儲かると考える人が多い」
「危機こそ機会だということだ。新型コロナがリーマン以上の打撃と言われても、いまひとつピンとこない。それどころか、株価や不動産が下がるとチャンスと見る向きも多い」
株式も不動産も下がったら上がる。だから、大丈夫だ。
あまりにシンプルでダイナミックな投資だ。だが、経済危機に直面して「下がった時に買って上がった時に売る」ということができるのは、かなりの打撃があっても耐えられるよほどの資産家か、偶然に偶然が重なった場合だけだろう。
IMF危機の時、リーマンショックの時の苦しかった経験は、その後、ひと儲けした他人の経験にかき消されてしまったのか。
韓国でも、新型コロナの影響で、中小企業や飲食店などの経営が打撃を受ける例が続出している。自動車業界など基幹産業の不振で取引先企業にも影響が波及している。
経済の先行きに対する懸念が強まる中での個人マネーの動き。
リストラ対策や危機管理に日々追われている財閥役員は、顔を曇らせながらこう語った。
「新型コロナの影響がどれほどのものか、今の時点では全く見えないが、大変な嵐が吹くとみた方がいい」
「不動産に応募が殺到したり、株式投資で外国人投資家の売りに対抗したり、という個人マネーの活発な動きも今だけのことだが、この期に及んで不動産や株式投資など考えられない」
[もっと知りたい!続けてお読みください →] 販売急減と思いきや、韓国のシャネル店前に大行列
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