今回のコロナによる影響は現在進行形のため、われわれの社会・経済に与える影響や今後の見通しについてはほとんど何も見えていない。現在の状況に、楽観論と悲観論が入り交じっているのはそれゆえだろう。そんな不透明な先行きに少しでも光を当てるべく、1207億円の純資産残高を誇る「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長と、個人投資家兼作家でITやデータ、政策論に強い山本一郎氏による対談を企画した。
 トラスト(信頼)の喪失について論じた第1回に対して、第2回ではコロナ対策に伴う巨額の財政支出と富裕層増税など、コロナ後に浮上する財政の悪化や国家感対立を論じた。市場を軸足に置く二人のコロナ論やいかに。(JBpress)

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「湾岸マンション」をあきらめる人々

山本一郎

 ここで不動産の話をしますが、コロナが起きる前、東京都心部など需要地の不動産は本当に堅い投資先でした。でも、今回のコロナによって、お金を持っている人が、それこそ逗子や鎌倉、つくばや流山、遠いところでは高崎などに動き始めています。

藤野英人

 やっぱり見えます?

山本一郎

 見えますね。主に子どもの教育が終わった方ですが、4月の終わりごろから人口の移動が始まりました。また、八王子や立川、大宮、鎌倉や湘南、軽井沢など近郊中核都市に移る所得上位層の動きもあります。今まで大手町だ、湾岸だと言っていた人々が広い家と庭を求めて移動している。

藤野英人

 もともと当社は5Gの時代にシフトすることで、在宅ワークが増えるという見方を持っていました。その流れが、コロナではなくオリンピックで加速するというシナリオでした。当社も在宅ワークの準備を進めていて、今年9月ごろからフルリモートにするつもりだったんです。期せずして、5Gが普及する前に在宅ワークをせざるを得ない状況になりました。

 その先にシナリオとして、東京100km圏内の街に人が移動するという見方も持っていました。地方に行って田舎の人間関係に巻き込まれるのは嫌だけど、自然があって、温泉があって、空気と水がきれいなところに住みたいという人が増えるというシナリオです。オリンピックのあとに、こう言った流れが加速すると思っていましたが、コロナによって爆速しそうですね。

山本一郎

 まさにそれです。実際に動いた人に話を聞いても、思い切ったつもりはなく、こういう状況なので、当然のことをしているだけだ、と。

藤野英人

 僕も都心から逗子に移り、「思い切りましたねえ」とよく言われるのですが、思い切ったつもりは全くないんです。今起きていることに対して、身を任せたらそうなったということで。

 山本さんが発信していることですごく共感しているのは、「戦うな、流されろ」というメッセージです(参考動画はこちら)。溺れないようにしながら流されろというニュアンスだったと思いますが、ウィズコロナの時代に求められるのはそういう考え方だと思います。

地方移住の足枷となるオンライン教育

山本一郎

 この状況になると、「過去の知識や経験をたくさん弁えている」という意味での『賢さ』はあまり関係なく、今の状況にどう適応するかということだと思います。すなわち、「過去の状況を踏まえて『こう動けば良い』と察する力」としての賢さではなく「恐らくこう変化するだろうから、それに備えてこういう準備をしておこう」という変化に適応するための、知性。とはいえ、変化しようにも変えられないところはありますが、私も地方に移住するかどうか、真剣に考えています。

 ただ、足枷は子どもの教育と介護。自分の子どもたちを見ていると、オンライン授業は質を上げるのは大変だなと思います。小学生の段階で、オンラインで友達と共同作業でものをつくり上げましょうと言っても、なかなか難しい。

藤野英人

 教育はいろいろボトルネックですね。今の状況が長く続くと、「コロナ世代」のような言葉ができるかもしれません。

山本一郎

 かわいそうなのは、ここ2~3年で大学を卒業する若者だと思います。コロナ時代に必要とされるのスキルセットがはっきりしない段階で社会に放り出されるわけですから。私が社会に出た1990年代後半も就職氷河期でしたが、あのときよりも、さらにひどい氷河期が来ると思う。そうすると、恵まれない世代が量産されて、縮小再生産的に経済が悪化して社会不安が起きる可能性もあります。結婚と出生はもちろん、学校教育と就職について、政権は最優先で考えてほしい。

藤野英人

 今年から、早稲田大学政治経済学部で授業を持ち始めまして、そのオンライン授業が先日ありました。その中に入学したばかりの1年生がいました。話を聞くと、地方から東京に来て、早稲田大学に入学したものの、ステイホームで下宿先の部屋にずっと閉じこもっている、と。本当に気の毒な話ですよ。

山本一郎

 本当に不幸ですよ。どうにもならないんですもん。社会のことがある程度分かっていて、自分の仕事で運命を切り開けるような人であれば今の状況も受け入れられるかもしれませんが、大学に入ったばかりの若者が上手く裁けるはずがない。

藤野英人

 本当に。

ビフォーコロナへの回帰を願う経営者

山本一郎

 話が戻ってしまうんですが、何に信頼を置けば、社会が安定し、人間が幸せに暮らすことができるのかを模索する時期に来ていると思います。

藤野英人

 それが今回の対談のテーマだよね。トラストの再考。

山本一郎

 ただ、そのことを政府や大企業の経営者にはなかなかご理解いただけないんですよね。

藤野英人

 しばらくすると、ビフォーコロナに戻ると思っている人がすごく多い。多いというより、圧倒的多数かな。ただ、一定の割合で元には戻らない。

山本一郎

 そこは読みですよね。元に戻るかもしれない。ただ、戻らなかったときにどうするかということは考えないといけない。その考えることを放棄して、首を低くしていれば嵐が過ぎ去ると考えている人が多いのだとすれば、その人は次の世界でチャレンジする切符はつかめない可能性は高いと思います。

藤野英人

 コロナのあとにどういう社会が到来するのかということは政府も分かっていると思います。ビフォーコロナの時代に戻れないということも。ただ、現時点では、緊急事態宣言ステイホームくらいしか言っていませんから。分かっているからこそ、あえて「我慢しろ」という以外のことを言わないのかもしれませんが。

山本一郎

 政府という点で言うと、現場の第一線で尽力している財務省厚労省の方が現状に敏感です。感染症対策をまず打ち、その後はダボハゼ的に出てくる動きに身を委ねるしかないとはっきり言っていましたから。

藤野英人

 政府も投資家も企業家も、分かっている人はコロナは既に起きてしまったことなのだから、流れに身を任せるしかないというモードになっています。濁流になったら濁流対策、水の流れが緩やかになればできることをやるというふうに。

山本一郎

 その上で、トリアージ(患者の重症度に基づいて治療の優先順位をつけること)ではありませんが、何を守り、何を捨てるのかという議論が必要になると思います。社会の中で、何を守るべき価値とし、何をあきらめるのかをきちんと考えなければなりません。日本社会全体でトリアージを考えるには、もう少し時間がかかりそうですが。

弾が切れたあとに銃剣で戦う強さはあるか?

藤野英人

 どのぐらいで議論が深まりますか?

山本一郎

 倒産件数が増えたときではないでしょうか。恐らく、これから企業倒産のパターンのようなものが見えてくると思うんです。コロナによる需要減でパタンと倒れるものと、コロナ前からおかしかったところがあったとして、経済の新陳代謝と見るか、総花的に助けていくのか。地方経済や自治体で突然死するところも出るでしょうし、社会不安が昂じると、一層過激な官邸デモやオンラインデモが起きるかもしれない。そういう点も踏まえて、政策を考える必要があります。

藤野英人

 雇用維持のために、ニューディール政策のような需要喚起政策が出てくるでしょうね。

山本一郎

間違いなく。

──編集部から1つお聞きしたいのですが、将来的な増税やインフレが不可避だとして、富裕層ではない普通の市民はどうすればいいのでしょうか。

山本一郎

 津波が来たときに一目散に高台に行くという・・・

藤野英人

 津波てんでんこ。自分の親やきょうだいは関係なく、一目散に逃げろと。各自で避難することを事前に家族で話し合っておくなど、津波に対する心構えを示した言葉です。

山本一郎

 そう、それ。津波で言えば、「高台に行け」と言えるのですが、今はステイホームぐらいしか言うことがない。みるみるお金が減っていく家庭に対しては、お金をなるべく使わずに生活しましょう、使える助成金は何でもを使って身を固めましょう、という以上にアドバイスのしようがない。

 会社にしがみつけば、会社ごと倒れるかもしれない。公務員だってこのあとはどうなるか分かりません。

藤野英人

 今問われているのは、戦場で弾薬が尽きたときに、持っている銃剣を武器にして戦えるかどうかというところの強さだと感じています。

 弾が切れたから戦えないとなるのか、棍棒代わりにして戦うか。手元にあるものを最大限に生かしながら、家族や大切なものをいかにして守るか、何を捨てて何を守るかというところで覚悟を決めて、少しでも未来の見える選択肢を的確に選ぶことができるか。問われているのはそういうところだと思います。

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