(数多 久遠:小説家・軍事評論家)

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 5月18日陸上自衛隊の新小銃として豊和工業製「20式5.56mm小銃」、新拳銃としてドイツH&K社製「9mm拳銃SPF9」が発表されました。

 それぞれ、89式5.56mm小銃9mm拳銃の後継としてモダナイズされた銃で、ともに排水性や耐腐食性を高め、離島防衛など水陸両用戦への対応を目指した更新となります。

 時流に沿った歓迎すべき更新であり、これについては特に述べることはありません。私が今回、記事を書こうと思ったのは、この新小銃の発表を受けて、ある意味ネタとして投下された興味深いツイートがあったためです(下の画像)。

 このツイートが何を言いたいのかは一目で分かると思います。自衛隊の各種装備は、時流に沿って更新されている・・・のですが、航空自衛隊の小銃は(このツイートには載っていませんが海自も)ずっと64式小銃のままなのです。

 64式小銃は、その名の通り、1964年に制式化された銃です。実に56年も前に制式化された旧式銃ということになります。

 ちなみに世界中のゲリラなど非正規軍に最も広く使用されている旧ソ連AK47などは制式化が1949年なので、さらに旧式です。銃は必ずしも設計が古いからと言って、使えなくなるものではありません。とはいえ、64式小銃が正規の軍事組織が使う銃としては、旧式であることは否めません。

 先のツイートは、国防の状況を憂いていると同時に、あまりにも旧式銃を使用させられている空自(海自も)を哀れに思ってのものなのですが、空自が今でも64式を使用しているのは、単に予算がないからだけではありません。64式の方が良いという見解もあって、64式を使用しているのです。

 実は、その主張の張本人、とまでは言いませんが、筆者には空自在職時にその主張を率先して唱えたという自覚があります。そこで筆者には、その理由を述べる責務があると思っています。

 同時に、今回の陸自の20式5.56mm小銃の採用と調達の開始により、少し状況が変わるだろうと考えていますので、今後の展望についても書きたいと思います。

重視されるようになった基地の警備

 最初に断っておきますが、「64式の方が良い」という見解もあるなかで空自(海自も)の小銃が64式から更新されない最大の理由は、単純に金がない、もっと正確に言えば、射撃回数が少なく、各部の摩耗などが実用に耐えるレベルであるため、財務省・会計検査院が更新を“ムダ”と断じているためです。

 財務省も、旧式化し、敵と対峙する際に「これでは用をなさない」と判断される装備は、さほど劣化していなくとも更新を認めてくれます。ですが、64式よりもさらに旧式であるAK47がいまだに使われているように、銃というものは適切にメンテナンスされていれば、相当古くても実用に耐えるのです。つまり、使えるものは使え、というのが財務省の主張です。防衛予算は国民の血税なのですから、当然と言えば当然です。

 とはいえ、多少なりとも防衛問題に興味を持っている方は、64式小銃の問題点を耳にした方も多いでしょう。「重い」という点は仕方がない部分もあるのですが、「部品が脱落しやすい」などという点は、確かに問題です。こうした問題が改善されるなら更新すべきだという主張は、当然出てきます。それが、89式小銃を生んだ理由の1つではありました。

 ただし、自衛隊法で「航空自衛隊は主として空において(中略)行動することを任務とする」と定められていることもあり、21世紀になるまで、その声は空自内では決して大きなものではありませんでした。そもそも空自内では、基地警備は、主流からほど遠い、“お味噌”業務だったのです。入隊した隊員からも人気はなく、人気職種からあぶれた隊員が配置される部署でした。

 それが、一変したのは、2001年の9.11アメリカ同時多発テロ事件でした。

 9.11を機に、全世界の米軍は、テロとの戦いを開始し、同時に米軍基地がテロの目標となることを考慮し、警備体制を強化します。そして、米軍基地が攻撃されることを念頭に、米軍基地を含め、基地等を自衛隊が守るため、自衛隊法に警護出動という新たな出動任務が与えられます。国防総省のビルがテロの標的となり、あわや壊滅という事態になったように、軍事施設であっても、不意を突いた攻撃に対しては意外なほど脆弱だということが白日の下にさらされ、航空自衛隊でも、それまで軽視されていた基地警備が急に重視されるようになったのです。

 また、この頃は、1999年能登半島沖不審船事件が発生、9.11直後の12月22日には九州南西海域工作船事件が発生し、日本国内で北朝鮮工作員が不法活動を盛んに行っているという事実が一般の方にも知られるようになりました。航空自衛隊の基地の警備強化は、アルカイダのテロよりも、北朝鮮工作員特殊部隊に備えるため、というのが大きな理由だったと言えるでしょう。

 9.11以前の空自の基地警備が、どうダメだったのかについては述べません(守秘義務違反になるので)。ですが、それまで軽視されていたのですから、高いレベルになかったというのは自明のことでしょう。以降は、訓練が強化されるとともに、64式小銃に対して、部品の脱落や動作不良の多発、重い、取り回しが悪い、などといった問題点が指摘されるようになります。

 そして、陸上自衛隊では89式小銃が制式化されて10年以上が経過し、ある程度更新が進んでいたこともあり、「空自も小銃を更新すべきだ」という意見が、主として実際に訓練を行っていた末端の部隊から上がり始めます。

誰が小銃を持って、誰と戦うのか

 しかし、私を含む一部は、そうした意見に反対でした。基地警備が、急に重要視されるようになったものの、「誰が、誰と、どのように戦うのか」という基本的なことが十分に整理されないまま、混乱した状態だったからです。

“誰と”、つまり、敵として想定する戦力はどのような者かという点は、比較的簡単に明確にできます。

 前述のように、当時は北朝鮮工作員特殊部隊などの、少数ながら高い技量を持った者たちを想定していました。自衛隊では「ゲリコマ」(ゲリラ・コマンドゥの略)と呼ばれる者たちです。また、ゲリコマに加え、中東諸国で米軍基地に攻撃を仕掛けたような、必ずしも高い技量は持たないものの、一般人を偽装して自爆テロなどを行う者も脅威です。現在でも、北朝鮮および中国の特殊工作員と、日本国内に居住しながら彼らに協力する一般人が、想定すべき敵戦力ということになります。

 一方、それに対抗して“誰が”戦うのか、つまり、誰に小銃を持たせるべきかは、少々難しい問題です。

 空自では基地の警備は、航空団であれば基地業務群 管理隊 警備小隊が実施しています。レーダーサイトなど規模が異なる場合も、名称こそ若干異なりますが、似たような名称の部隊が基地警備を行っています。警備小隊は、小隊という名前のとおり決して人数は多くありません。当然24時間勤務なので、シフト制を敷いており、ある時点で勤務についている人数は、その3分の1程度だと考えなければなりません。一般的に小隊と言えば50人以下の部隊を指すので、ある時点で勤務についている警備小隊員は、多くても15~20人くらいだと計算できます。

 そして、彼らの任務は、ゲリコマ攻撃への対処だけではありません。平常時の彼らの任務で最も大きなものは、ゲートでの入出門管理です。当然、ゲリコマ攻撃があっても、その入出門管理がなくなるわけではありません。むしろ、ゲリコマ攻撃は、航空攻撃の補助作戦として実施されることを考えれば、むしろ、そんな時こそ「主として空において(中略)行動することを任務とする」航空自衛隊は、非常呼集で人員をかき集め、空における行動を行わなければなりません。ゲートは、普段以上に忙しくなります。

 また、中東で米軍基地を狙ったテロ活動で最もコストパフォーマンスの高いのは、トラックなどの大型車両を使った自爆攻撃です。それを考えれば、基地警備におけるゲートの出入門管理は、最も忙しいさなかに行わなければならない、最も危険度の高い活動となります。ゲートの出入門管理を、単なるガードマンだと思う方もいるかと思いますが、大量の爆薬を持っていたり、身分証を偽装して至近距離から攻撃してくる可能性があったりする他、その時に適用されている出動任務(防衛出動、治安出動、警護出動など)によって適用される法・規則が異なるため、どのような状況で、どのように武器使用することが適法なのか等も熟知してなければならず、大変難しい任務です。米軍では、法曹資格を持った法務幹部が、訓練での行動を評価・指導するくらい難しいのです。

 つまり、ゲートを離れてゲリコマ対処に向かうことのできる警備小隊員は、ごく少数しかいないのです。

 おまけに、ゲリコマ攻撃というのは、大抵の場合、長時間継続されるものではなく、防御側の反撃態勢が整うまでの短時間で終了するのが普通です。非番の要員がそろう前は、ほとんど動きが取れないと言っても過言ではありません。当然、警備小隊員だけでは、ゲリコマに対処するには人数が足りません。そのため、空自では(どのような軍事組織でも当然だと思いますが)必要に応じ、手の空いた者全員が銃を持ち、ゲリコマに対処します。

 整理すると、“誰が”戦うのか? という問題の答えは、極一部の基地警備小隊員とその他のあらゆる職種の隊員ということになります。

「警備小隊以外の隊員」の使用に適しているか?

 ただし、近年では、ここに陸自の派遣部隊が加わる可能性があります。その場合は主力が陸自となり、基地警備小隊は彼らの補助になるでしょう。常に多数の陸自部隊派遣が可能なら、空自の一般隊員用小銃は64式小銃どころか、儀仗銃や三八式歩兵銃でも構わないでしょう。そこで以下では、陸自の派遣部隊がいない、あるいはいても少数で不足することを想定して話を進めます。

 ここで問題になるのは、数の上では主力となる、警備小隊以外のあらゆる職種の空自隊員です。彼らが“どのように戦うのか”、が問題になります。

 射撃は、訓練を行っているのでそれなりにこなせます。しかし、基地内に侵入してきたゲリコマと市街戦のようなCQB(Close Quarters Battle:近接戦闘)を戦うほどの技量はありません。むしろ、サバイバルゲームをやっているガンマニアのほうが動けるかもしれません。相手が高い技量を持っていることを考えれば、返り討ちに遭うのが関の山です。

 また、ここで言う技能というのは、銃を撃ち、ゲリコマを倒すことだけではありません。基地内で行動し、それを適時、適切に報告することもできなければなりません。

 ゲリコマ攻撃が行われた際、警備小隊以外の隊員は、おいそれと動き回ることなく、施設や警備用のポストにおいて航空基地や山中にあるレーダーサイトという広い敷地を監視し、報告し、必要に応じて射撃することが適切なのです。もしも彼らが持ち場を離れて、侵入したゲリコマ以上に基地内を動き回ったら、不審人物として警備指揮所に認識されることになります。こうなっては、基地警備の阻害にしかなりません。

 そして、ここで問題になるのが、小銃の口径です。口径を論じる際、多くの方は重要な論点として威力を予想すると思いますが、威力よりも重要なのは命中精度です。

 警備小隊以外の隊員が施設内や警備ポストで射撃する際には、基本的に動く必要がないので、二脚を利用し、銃は安定した状態で射撃できます。射撃の腕さえあれば、正確な射撃動作は可能です。ですが、弾頭重量で比較すると、20式の5.56mm弾は、64式の7.62mm弾の40%程度しかありません。5.56mm弾は高速弾なので、弾丸が銃口を出た直後の初速では7.62mm弾よりも若干高速で、近距離では命中精度が上回っています。しかし、軽量であるため空気抵抗によって速度が減衰しやすく、銃口から発射された後、距離が離れるに従って存速が大きく低下します。存速の低下は、重力による落下や横風による影響が大きくなる結果をもたらします。そのため、5.56mm口径の小銃では、400mを越える距離では、命中精度が大きく低下し始めます。銃自体の精度により異なりますが、450m程度が有効射程距離だと言われています。もちろん、それ以遠でも、人を殺傷する十分な威力はあるのですが、命中させることが困難になるのです。5.56mm弾の弾頭が軽量であるがゆえの弾道性能の悪化問題は米軍でも問題となっており、次世代は6.8mm弾となる見込みです。

 その点、7.62mm弾は弾頭重量が重いため、通常、有効射程は5.56mm弾よりも100m以上長いと言われます。中でも64式小銃は、命中精度は高いと言われ、スコープを装着することで800mでの射撃も可能な銃です。

 つまり、警備小隊以外の隊員が、自ら動くことなく、広い基地で使用し、比較的遠距離で射撃する可能性が高いという状況を想定すると、7.62mm弾を使用した方が、命中させやすいのです。空自隊員は射撃の腕こそ高くありませんが、マークスマン(選抜射手)と呼ばれる通常の歩兵と狙撃兵の中間的活動をすることが理想的だということになります。

 また、基地の中には、ブロック塀、ドラム缶といった、ちょっとした身を隠せる障害物も多数あります。そうした障害物から顔を出した瞬間に、素早く相手を見定めて射撃するなら関係ありませんが、たいていの空自隊員にはそこまでの射撃能力を持たせることは困難です。障害物を貫通することを期待して、障害物越しに撃つことのほうが、現実的でしょう。その場合は、7.62mm弾の威力がモノを言います。

 やはり軽い方がいい、作動不良がない方がいいと言った意見は根強くあります。しかし、以上のように空自で銃を持って基地警備を行う隊員のうち、大多数と言える警備小隊以外の隊員は、7.62mm弾を使用する64式小銃の方が適しているのです。

海空自の主力は今後もしばらくは64式

 では、警備小隊員はどうなのか、という点は、今後を占う上で重要です。

 前述した爆薬を積んだ大型車両での突入を防ぐといった手法に対して銃を用いるなら、威力の大きい7.62mm弾は有利です。ですが、とっさの射撃をするためには取り回しの良さや軽さ、それに連射時の安定性などの点で、5.56mmの方が優れています。どちらが良いかは、ほぼ互角ではないかと思っています。

 なお、入門してくる1台1台の車に直接接近して、IDなどの確認を行うゲートで出入門管理を行う隊員にとっては、5.56mm小銃でさえ取り回しが悪く、素早い射撃には支障があります。ですが、こうした目的のためには、空自の基地警備小隊にも、サブマシンガンである9mm機関けん銃が導入されています。

 こうした状況と、陸自に20式5.56mm小銃が導入され、いずれ89式小銃が余剰になることを考えれば、摩耗などで廃棄される64式小銃の減勢に応じて、基地警備小隊や基地外で行動する移動部隊(高射部隊、移動警戒隊など)を皮切りとして、陸自から移管された89式小銃に更新してゆくことになるでしょう。

 また、海自は、陸上基地の警備に関しては空自とほぼ同じですが、艦船での使用に関しては、また別の検討が必要です。特別警備隊はまさに特別なので置いておくとして、どの護衛艦にも編成される立入検査隊では、取り回しの良さでは89式が望ましいものの、艦艇の鋼板を打ち抜くためには64式の方が望ましく、現在は状況に合わせて使い分けているようです。今後は、20式と64式が併用されるかもしれません。

 いずれにしても、海空自衛隊では、一部の部隊を除いて、まだまだ相当長い間、数の上での主力は64式小銃となるでしょう。

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