初めにまず上のグラフをご覧ください。

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 OCED(経済開発協力機構)が3年ごとに行っている学力調査、PISAの数学のスコアと各国のGDPの間には強い相関があることを示す分析結果です。

 注目すべきは、フィリピン、タイ、インドネシアマレーシアといったASEAN東南アジア諸国連合)加盟各国の成長ラインと、台湾、香港、マカオといった東アジアの経済急成長圏の交点に 「日本」と「韓国」が兄弟のように位置している点です。

 そして、これが「コロナ恐慌」と「ポスト・コロナ」で入れ替わる可能性が現実化しつつあります。

 韓国に名実ともに日本が抜き去られるカギは「ICT(情報通信技術)」とその社会定着、なかんずく人材への定着にあると考えられています。

 懸念される日本のリスクについて、考えてみましょう。

国内事情だけで教育を考える日本

 新型コロナウイルスパンデミックに伴う日本の教育「停止」は、場合によると不可逆な壊滅状況をもたらす可能性が、国際的に真剣に議論されています。

 先週土曜の23日「東洋経済」に発表されたOECD・Pisaの専門委員、北川達夫・星槎大学客員教授の論考(https://toyokeizai.net/articles/-/351563)を引用しておきましょう。

 実は、この北川分析の3ページ目に登場するグラフを、表裏をひっくり返して、縦横を逆にしたものが、本稿の冒頭に示したもので、いずれも東京大学グローバルAI倫理コンソーシアム ポストCOVID解析グループが計算したものです。

 東洋経済のグラフと本稿のグラフは、検討の方向が逆を向いています。

 緊急事態宣言が解除され、社会経済「再稼働」の一貫として学校も再開される見通しですが、2月末から5月末までまる3か月、1年の4分の1に相当する時間が空費されてしまいました。

 そして、子供たちの「学力」また「体力」さらには「メンタルな抵抗力」など、様々な低下が懸念されています。

 少なくとも「学力」に関してはあまりに明らかで、新小学1年生はいまだ普通の登校経験がなく、4~5月の2か月を空費しています。

 春夏冬の休みがありますので、学事予定の1年は約9か月、そのうちの2か月、300時間分以上が消えてなくなってしまいました。

 学校や教育、社会の実情と遊離した「9月入学説」なども囁かれていますが、9月と割り切ることは4-5-6-7-8の5か月を「捨てる」ことをダイレクトに意味しますので、その「取返し」を社会全体に求めるのは、ほぼ不可能なことです。

 また、少子高齢化のなか、どんどんヤワになっている子供たちに、いきなり1学年定員倍増ですさまじい競争ストレスをかけるリスクがどれくらいヤバイものか、といったまともな議論は政治の廊下ではなされません。

 しかし、いまはそれらすべてをいったん忘れて、国全体の興亡を考えましょう。

 冒頭のグラフに示した「直線」は、その国の社会経済の構造を示すと考えられます。

 ASEAN型の社会構造を持った国では、数学であれ、その他の学力であれ、それに比例して国富の伸びが必ず観測されますが、残念ながら、そのスロープはなだらか、もっと言えばたくさん汗をかいても大して儲からない回帰直線になっている。

 ところがPISAの数学スコアで550点を超えるあたりからは、突然「利回り」の良い、急成長のラインに乗ることができます。

 何が違うのか・・・。

 本稿では結論だけを先に記しますが、資産経済を回転させるICTの「インフラ」およびそれを活用できる「人材」育成の有無が、ここでは決定的だと考えられています。

 そして、その両者の交点に、日本と韓国が位置しており、コロナ禍に伴う教育「停止」が経済に及ぼす影響と、その後の復興が対照的な動きを見せる可能性が考えられるのです。

 新型コロナパンデミックで各国の経済も、また子供たちの学習も、すべて一様に「停止」「収縮」を余儀なくされている。それは間違いありません。

 問題は、それがどのような「収縮ライン」に乗っているかにあります。

 グラフで、緑色のラインが示すような経路であれば、経済的なダメージは比較的少なくて済む。

 なだらかなグリーンのラインは、ネットワークが発達し、テレワークと資産経済の回転が国民の多くをカバーしている経済構造の国を示します。

 テレワークで社会経済は回り続け、その影響も小規模にとどまると同時に、ポストコロナの経済復興も順調な伸びが期待できる。

 学習についても、全く同じことが言えます。

 遠隔学習に即時シフトできれば、学力低下の幅も少なくて済み、そこからの回復も比較的順調、容易と思われます。

 しかし、そうではない経路も考えられます。それが、オレンジのラインで示した経路です。

 学校の物理的封鎖が、ただちに教育の全面休止に直結してしまうようなタイプの社会では、コロナ・パンデミックによる教育破壊と社会経済の委縮は非常に直接的、かつ影響は短期的にも如実に表れ、その回復は決して容易でないことになる。

 と、ここまで書いて、いまの日本がどちらのタイプに属するか、判断は読者にお任せしたいと思います。

 間違いなく言えることは、韓国はICTの普及度合いが非常に高く、遠隔学習も、テレワーク化も21世紀に入って一貫して政府が推進し、強いインフラストラクチャーと人材育成の体制が整っています。

 テレワークや遠隔学習へのシフトも円滑に進められています。

 グラフをもとに「ポンチ絵」を1枚描いてみましょう。

 OCED調査でもすでに明らかなことですが、日本のICTインフラ準備状況はいまや世界最低レベルまで落ち込み、遠隔教育、テレ・エデュケーションの準備は、本当に世界最低、最下位のレベルで停滞するようになってしまいました。

 このまま「アナログ」「近接」「対面」原則の「ワーク」ならびに「学習」に拘泥し続ければ、2020年代の10年間で、韓国と日本の1人当たりGDPは間違いなく逆転し、人件費の安い日本がサプライヤーの位置に甘んじることになりかねない。

 そういう国難に直面している可能性があります。

日本は何をすべきか?

 いま、国内での新型コロナパンデミック「第1波」が終息する可能性を前提に、社会経済の再開が準備されているわけです。

 グローバルに見れば、南米新興国とりわけブラジルを中心にラテンアメリカでのパンデミック爆発が懸念され、全世界の新型コロナウイルス肺炎は、いまだ拡大の一途を辿っているのは、まぎれもない事実です。

 これらによって引き起こされる社会経済的な打撃も警戒せねばなりませんが、肺炎自体の第2波は「必ず」やってくることを前提に、予防公衆衛生的な措置を講じなければなりません。

 また「閉鎖」となる現実的な可能性があること、さらに日本の場合、これから暑い季節に必ずやってくる風水害や土砂災害など、別の天災人災との「複合災害」として、コロナ・パンデミックの後続波がやってくるリスクが非常に高い。

 いつ「この状態」に逆戻りするか、全く分からないことを大前提にしておく必要があります。

 本稿はすでに紙幅が尽きていますが、私のスタンスは一貫して「ケインズの原点に帰る」すなわち公共投資による国富の再構築で揺るぎません。

 すなわち「休業」に対して「補償」といった形での国庫出費ではなく、これから直面する事態を乗り越えるのに必要な国としての足腰の備えを確かなものにする「新しい方法 New Deal」を積極的に打ち出し、回していくのが行政の頭脳であり、義務であると考えます。

 OECD調査データに基づく解析と積極的な提言は、国際機関に向けて進めていくものですが、できるだけ平易な形で国内の良識ある読者にも理解、共有していただき、いまへこんでる状態の回復と、その後の円滑な成長に向けて機能することを心から願わずにいられません。

 その本質中の本質、中核が、未来を担う人材、すなわち子供たちの教育にあります。

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