時々刻々と新しいニュースが耳から目から飛び込んでくる今、1週間前のニュースでさえ最新のニュースに埋もれていきます。

4月上旬、テレビのリモコンを持って自宅でくつろぐ安倍首相がSNSに投稿した「家で踊ろう」の動画は炎上状態となりましたが、ニュースとしての旬は過ぎ、既に過去の「歴史」となりつつあります。

ところで、「家で踊ろう」の一件からさかのぼること約1週間前、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相もまた、「ステイホーム」の動画を投稿していました。

彼女がfacebookに投稿したのは、リズミカルに体を揺らして流行の歌を歌いながら、食器を洗っている動画です。しかも、生活感のあふれるキッチンで。

首相が踊るように家事をする様子は、ロックダウンの最中で不安と孤独を抱えている国民に好意的に受け止められたようです。近年、精度が飛躍的にアップしているGoogle翻訳機能で書き込まれたコメントを翻訳してみると「素晴らしい!」「誇りに思う」「暗闇の中の光」といった絶賛コメントが目立ちます。

もちろん、自分の日常を好感度アップの道具にしているという批判の声もあるかもしれません。とはいえ、少なくとも「今、国民が何を望んでいるか」「どんな生活を送っているのか」という想像力を一国の首相が持てていることは、これからも国民に寄り添った政策をしてくれるだろうという一縷の望みにもつながるでしょう。

コロナ禍で政治への失望が広がる日本

話を日本に戻すと、安倍総理の「家で踊ろう」動画は、5月中旬の時点で100万超の「いいね!」がついています。首相のくつろぎモードに癒された人も少なくありませんが、それ以上に落胆や怒りの感情の声が多く集まりました。

日本国内には、自宅にいながら介護、育児、受験勉強、在宅作業、山のような家事に追われている人がいて、感染リスクにさらされながら医療や社会インフラの最前線で激務に追われる人もいます。誰もが不安とストレスを抱える中、「面倒なこと」「大変なこと」を誰かに任せ、家でひたすらくつろぐことができることができるのは、ごくわずかな人たち。

「何もせずに家でくつろぐ」のは「庶民の生活」とはかけ離れており、「貴族」と揶揄する声まであがりました。

結果として、あの動画を企画・実行した人たちは、国民が今どんな思いで生活をしているのか」という点に想像が及んでいないのではないか……という疑念が広がってしまったように思います。

同時期に打ち出されたマスク政策への不評も重なって、今は何をやっても疑念の目が向けられるようになっています。首相会見を行っても「自分の言葉で話していない」「いつも同じ言葉ばかり」、新しい政策を打ち出しても「スピード感がない」といった批判の声が広がり、政府不信の声は日に日に大きくなっています。

世界15か国を対象としたグローバルアンケートでは、日本では45%の回答者が「自分たちの政府は(コロナウイルスの対応で)自分たちを失望させた」と回答しており、他国と比べ高い値となっています。

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「女性 vs. 男性」の単純論ではない

再び世界に目を向けてみると、現在、新型コロナウイルスへの対応が国民の支持を集め、状況が比較的コントロールできている国もあります。台湾、ニュージーランドドイツデンマーク…といった国で、不思議なことに女性首脳の活躍が目立っています。

ところが、これがただの偶然とも言い切れないような、ある興味深い調査がありました。

アメリカの社会理論家ジョン・ガーズマ氏とジャーナリストのマイケル・ダントニオ氏の共著『女神的リーダーシップ~世界を変えるのは、女性と「女性のように考える」男性である』によれば、政治、企業、地域において求められているリーダー像に変化が起こっているというのです。

本著では、13か国の6万4000人を対象に調査を企画。調査対象の半数にあたる3万2000人に対して125の資質を提示し、それぞれを「男性的」「女性的」「どちらでもない」に分類してもらったうえで、残りの半数にリーダーシップ、成功、幸せといった美徳にどのような資質がどれだけ大切か評価してもらうという方法で行われました。

リーダーシップの項目においては「表現力」「柔軟」「忍耐強い」「共感力」「忠実」「情熱的」「利他的」といった資質が高く評価されていました。ちなみに、これらの資質はいずれも「女性的」という回答が多く集まった資質です。

この結果に対して、同著の中では以下のような分析がなされていました(以下、引用)。

<わたしたちのデータによれば、リーダーに求められる資質の多くは、「女性的」とみなされている。特筆すべきは、思いや感情を包み隠さずに率直に表現するリーダーが望まれていることだ。(中略)リーダーには、直観を大切にし、他人の気持ちを理解し、行動を起こす前に問題点―あるいは行動の結果―をいくつもの角度から吟味する力を高めることが望まれている。>(引用終わり)

この調査はリーダーは男性がいいか女性がいいかの単純な話ではなく、リーダーに求められる「資質」に関するもの。とはいえ、先にあげた女性首脳たちがコロナ禍で行った演説は、共感力、思慮深さ、利他的といった面が光ります。

続いて、同調査で評価された資質と真逆のものを持ったリーダー像をあげてみましょう。

野心家で、プライドが高く、独断的で、権威的で、言いたいことを歯に衣着せずに物を言うリーダー……。

なんだかどこかに実在しそうな人物像が浮かび上がってきます。コロナ禍が広がる前には評価され、あるいは黙認されていた資質であっても、今のような事態においては、従来通りに物事を進めることはできないでしょう。

こうしたリーダーが取りがちな「敵を作って攻撃する」「強引に決断する」ことが一定の支持層には響いても、長期的な視点で見ると、国民同士の分断を広げる結果をもたらしかねません。

「権謀術数」の世界では「女性的資質」が不要とされる

もう一度、日本に目を向けてみると、政治の世界においては、国民が首脳陣に本当に求める資質は、権謀術数の世界の中で打ち消されていないでしょうか。

圧倒的に数の少ない女性議員は、男性と同じ土俵で同じ闘い方を選んでいる議員が重用され、「議論する」「共感する」「真実を自分の言葉で語る」よりも「言い負かす」「論破する」「忖度し、追随する」資質が評価されているようにも見えます。

そして皮肉にも、政治のルールに乗っ取って「多数決で無理やり打ち勝って進める」ことが、かえって政治不信を深めているようでもあります。

先にご紹介した「表現力豊か」「しなやか」「共感力がある」「情熱的」「利他的」という資質については、現在、都道府県知事など自治体の長の目覚ましい活躍を通じて、多くの国民が今まさにその必要性を目の当りにしているところではないでしょうか。

国政の世界においてもこうした資質が評価されるようになったとき、国民による政治への無関心や不信にも変化が生じるのかもしれません。

【参考】
世界15ヵ国を対象としたマッキャン・ワールドグループ・グローバルアンケート第3回調査」(マッキャン・ワールドグループ)
 『女神的リーダーシップ~世界を変えるのは、女性と「女性のように考える」男性である』(ジョン・ガーズマ/マイケル・ダントニオ著、2013年、プレジデント社)