「200万人が感染死亡していた」
米大統領選まで6か月を切った米国は新型コロナウイルス禍から抜け出せずにもがいている。
5月25日は、米国の祭日では最も重要なメモリアル・デイ。祖国のために命を犠牲にした米将兵を慰霊する日だ。
ドナルド・トランプ大統領はアーリントン墓地の無名戦士の墓に詣で、メリーランド州ボルチモアのフォートマクヘンリーで演説した。
ボルチモア市長は新型コロナウイルス感染拡大阻止のため市内は緊急事態宣言下にあり、訪問中止を要請していた。にもかかわらず、大統領は強行した。
翌26日には早朝から再度にわたってツイッターで発信した。
「新型コロナウイルス感染拡大阻止で私がとった措置で、ほとんどの州知事はベンチレーター、感染テスト装置などを入手でき備蓄できた。良い状態になっている。今後もこれらの医療機器はどんどん彼らの手元に届くだろう」
「(私の悪口ばかり書いている)フェイクニュースを流すマスゴミよ!(Fake Lamestream News!)」
「そこらにいる雇われ政治家どもよ(For all of the political hacks out there)よく聞け。もし私が適切な対応をしていなかったなら、150万人から200万人が犠牲者になっていただろう」
「(新型コロナウイルス禍でこれまでに死亡した)10万人に比べれば、15倍から20倍の米市民が死んでいたんだぞ。私が早い段階で中国からの入国者を阻止したからだ」
「それに比べると、ジョー・バイデンが副大統領だった時に発生した豚インフルエンザへの対応は完全かつ全面的な失敗に終わり、大惨事になった。あの時の世論調査の支持率は最悪だった」
このツイートに、大統領の無神経さについては先刻承知の主要メディアも呆れ返った。何というデリカシーのなさだろうと。AP通信記者はたまらなくなってこう書きなぐっている。
「感染死者数は10万人を超えて増え続けている。その瞬間に、大統領の発言は国民からの共感を呼ぶとは思えない」
「トランプ氏のコミュニケーション能力の欠如、政治的な言い争いにおける説得力のなさを露呈したと言わざるを得ない」
新型コロナウイルス禍で自称「戦時大統領」を演ずるトランプ大統領を「社会病質者で誇大妄想狂」(Sociopathic megalomaniac)と言い放った御仁がいる。
「現代言語学の父」、人文社会科学諸分野における「巨魁」と言われる「世界最高の論客の一人」、ノーム・チョムスキーMIT(マサチューセッツ工科大学)名誉教授(91)だ。
リベラル派の「Democracy Now!」のオンライン・インタビューに応じた。
1時間、チョムスキー氏は一切のメモも見ず、プロンプターも使うことなく、カメラの前で滔々としゃべった。91歳の高齢とはとても思えない。
遠い昔の思い出話をしているわけではない。アップデートな情報(中には極秘情報も含まれている)やデータが次々と口を突いて出る。しかもそれをすべて記憶にしている。
開口一番、今回の新型コロナウイルスについてこう言い放った。
(https://www.youtube.com/watch?v=MrPRQ1OniTU)
(https://www.democracynow.org/2020/5/25/noam_chomsky_on_trump_s_disastrous)
「新型コロナウイルスのパンデミックは数年前から十分に予測できた。少なくとも2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)パンデミック以後予測されていた」
「今回の新型コロナウイルスが収束した後も新たなウイルスが出現する。もっとシリアスなウイルスになるだろう」
「巨大な勢いで進行している地球温暖化の脅威がその原因の一つだ」
「(皮肉を込めて言えば)絶妙なタイミングというべきか、(新型コロナウイルス出現の兆しが見えていた)2019年10月、トランプ大統領は何をしたか」
「米国際開発庁(USAID)が2009年から資金提供していた早期警戒パンデミック・システムの疫学研究プログラム(PREDICT)への助成金を全額ストップさせてしまった」
「このプログラムは主に第三世界諸国や中国でパンデミックになり得る新たなウイルスを発見、検出するものだった」
「トランプ大統領にはパンデミックに対する警戒心もそれに対する備えも全くなかったのだ」
「中国・武漢市を発生源にした今回の新型コロナウイルスに対する初動段階から、トランプ氏が楽観論に終始していたのはむしろ当然だったのかもしれない」
「中国は新型ウイルスに非常に迅速に世界保健機関(WHO)に通報した。中国は2019年12月、病因不明の肺炎症状の患者(複数)が出たと報告した」
「その1週間後の1月7日、中国はWHOと世界中の医療関係機関にSARSウイルスとの相似性のあるコロナウイルスを検出したことを公表した。」
「中国の専門家たちはそのシークエンス(因果的連鎖)とゲノムを見つけ出し、そのデータを世界中に提供した」
「米情報機関はいち早くこの情報を入手していた。1月と2月、米情報機関はホワイトハウス当局者たちに大規模なパンデミックが起こっている事実について注意喚起を試みたが、誰一人として聞く耳を持たなかった」
「最近、米政府高官から聞いたところによると、ピーター・ナバロ国家通商会議議長に近いホワイトハウス当局者が、1月に新型コロナウイルスの危険性について同議長に送ったが、届かなかったという」
トランプ大統領は中国が新型コロナウイルス発生直後の情報提供の遅れを隠蔽だと厳しく批判している。
だがチョムスキー博士は中国が主張する「1月7日にシークエンスやゲノムを提供していた*1という説をあえて受け入れている。
*1=トランプ政権が新型コロナウイルスの発生源の可能性があるとして調査している中国の武漢ウイルス研究所の王延軼所長は国営中央テレビとのインタビューで、原因不明肺炎のサンプルを受けとったのは昨年12月30日と述べている。また同研究所のコウモリ由来ウイルス研究の担当者、石正華麗研究員は「1月7日に検出した新型コロナウイルスに関する情報を世界に提供した」と述べている。
JPモーガン・チェース銀行極秘メモ
「このままいけば人類の存亡危うし」
チョムスキー博士は、米国に新型コロナウイルスが「上陸」した後、他国には見られないほどの速さで感染拡大していった理由についてこう述べている。
「現在、ニューヨークや他の都市では医師や看護師たちは患者を救うために自分の命の危険を顧みずに苦悶の決断をしている」
「端的に言って、医療機器が不足している。治療に不可欠なベンチレーターが圧倒的に不足しているのだ。このまま続けば大惨事を招きかねない」
「問題はそうした医療機器や医療関係者の人不足だけではない。もっと重大なことはワシントンの連邦政府であるトランプ政権が機能障害に陥っていることだ」
「こうしたパンデミックが起こりうることはトランプ政権の3年半いや、それ以前から予測されてきたことだ」
「ところがトランプ氏は大統領に就任するや、パンデミックに備える態勢を弱体化させてしまった。新型コロナウイルスが発生した後ですら感染拡大阻止に必要な経費を削減している」
「すでに事態が深刻化していた2月10日に発表した来年度予算では疾病管理予防センター(CDC)や関連機関の予算を削っているのだ。削った分を石油、石炭など化石燃料産業への助成金に回している」
「この国はまさに『社会病質者で誇大妄想狂』(Sociopathic megalomaniac)によって政治が行われているのだ」
「トランプという男が大統領でいる間、米国は混沌に向かって突っ走っていっている。このことはパンデミックよりも恐ろしいことだ」
「米国最大の金融機関、JPモーガン・チェース銀行は最近まとめた部外秘メモの中でこう記している。『もし現状のコースを突き進めば<人類の存亡>(The Survival of humanity)は危険な状態になるだろう』」
「トランプ政権内部で目を見開いている人なら誰でもこの事実を認識しているはずだ」
「醜悪な共和党はもはや政党ではない」
新型コロナウイルス禍の中で11月の大統領選に向かう政治状況についてチョムスキー博士はこう述べている。
「今や醜悪な(Monstrous)存在としか言いようのない共和党はもはや政治政党ではない」
「共和党は今やご主人様(トランプ大統領)の発する一言一句をオウムのように繰り返しているだけだ。まさに『ゼロ・インテグリティ』(Zero integrity=誠実さゼロ)だ」
「万一、トランプ氏が再選されるようなことになれば、それは米国にとっては言葉では表現することが不可能なほどの大惨事になるだろう」
「過去3年余の、米国と世界にもたらした計り知れない破壊が続くことを意味するし、おそらくますます、トランプ政権の悪政は加速するだろう」
「ジョー・バイデン前副大統領が大統領選で選ばれたとしよう。バイデン政権は本質的にはバラク・オバマ前政権の継続政権になるだろう。特に素晴らしい政権とは言えない」
「だが少なくとも全体的に見て破壊的にはならないだろう。変化を実現してきた組織された公共(人々)にとっては、政権にプレッシャーをかけられるチャンスとなるだろう」
「バーニー・サンダース上院議員のキャンペーンは失敗に終わったという者がいるが、私はそうは思わない。驚くほどの成果を収めた」
「ついこの間までは、米主流では取り上げられもしなかった全国民を対象とするメディケアとか、大学無償化といったアジェンダがサンダース氏のお陰で表舞台で政策として位置づけられたのだ」
チョムスキー博士は、ユダヤ系米国人でありながら、ユダヤ人国家としてのイスラエル建国に反対し、イスラエルとパレスチナとの共存を求めてきた。
「イスラエルを支持する者は道徳的堕落を支持する者にほかならない」と言って憚らない。
チョムスキー博士は自らの視点を「啓蒙主義や古典的自由主義に起源を持つ中核的かつ伝統的なアナーキスト」と位置づけている。
米外交政策、国家主義的資本主義だけでなく、米報道機関や言論界への批判では有名だ。
今回のインタビューは欧米のリベラル派オンラインを軸に非主流メディアで大々的に報じられている。
「世界的なブレイニアック*2、ノーム・チョムスキー博士、パンデミックに対して驚くほど無防備で準備していなかったトランプ大統領は社会病質者で誇大妄想狂だったと断定」
*2=ブレイニアック=Brainiacとはずば抜けた知的能力と独創性を持った人のこと。
SNS上では保守、リベラル入り乱れて、チョムスキー博士のインタビューで持ち切りだ。
「チョムスキーはトランプがWHOや中国を攻撃するのは自分の失敗を他人のせいにする『独裁君主や独裁者の常套手段だ』だと指摘している」
「確かにその通りだ。しかし、トランプもそうだが、チョムスキーは誇張のしすぎじゃないのか」
「中国は事実を隠蔽・糊塗する独裁国家。新型コロナウイルスの発生源を優雅に泥沼の中に隠そうとしている」
「トランプは善悪を超越したところに存在している。トランプはアメーバと同じで善悪の判断が全くできない男だ」
確かにトランプ大統領ほど毀誉褒貶の激しい人物はいない。熱烈な支持者がいる一方で徹底的に嫌悪する米国民もいる。国家はまさに「分裂状態」だ。
その米国を直撃した新型コロナウイルス。本来なら国家の一大事の時には国民は一致団結するのだが、感染拡大でも大統領の命令一下、国民が団結しているようには見えない。
その理由ははっきりしている。トランプ大統領にはIntegrity(誠実さ)が感じられないのだ。
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