コロナ禍でかつてない苦境に立たされた飲食店の経営

今回の一連の緊急事態宣言に伴う休業要請を受け、最も厳しい状況に置かれた業種の1つが各種の飲食店でしょう。実際、臨時休業や営業時間短縮などにより、月次売上を公表している多くの外食チェーン店の4月実績は悲惨の一言に尽きました。

そして、具体的な数字こそ公表されませんが、個人経営の飲食店(複数店舗を含む)がさらに厳しい状況だったことは容易に推察できます。多くの飲食店がテイクアウト等で何とか売上維持に努めたのはご存知の通りですが、外出自粛で店舗に足を運ぶ機会が激減した状況では“焼け石に水”だったと考えられます。

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営業時間の延長や政府からの家賃負担補助で最悪期を脱したか?

それでも、地方自治体による休業要請の解除や緩和を受け、営業再開や営業時間延長などの動きが一気に出ており、飲食店にも徐々に明るさが戻りつつあります。また、休業要請に伴う協力金や持続化給付金に加え、5月27日に閣議決定された第2次補正予算では、飲食店の大きな負担となっていた家賃補助(月額の3分の2を半年間支給、上限額あり)も行われます。

もちろん、多くの飲食店がコロナ禍以前の営業体制に復帰するにはまだ時間を要しますが、最悪期を脱した感があるのは確かでしょう。

向こう1年内に多くの飲食店が経営破綻する可能性

しかし、今般のコロナ禍による飲食店の危機は本当に去ったのでしょうか? いや、危機が去ったどころではなく、これからが本当の正念場だと言えます。飲食店を取り巻く環境を勘案すれば、向こう1年間で現在ある飲食店の最大3割は破綻(倒産・閉店・廃業)に追い込まれる可能性が高いと考えます。

飲食店といってもカテゴリーは幅広く、規模の大小や地理的条件なども異なるため、一概に判断することはできませんが、あくまで一般的な飲食店という意味で見てみましょう。飲食店の今後を占う上で最も重要なポイントことは、言わずもがな売上の回復です。

しかし、冷静になって考えると、飲食店の売上は、少なくとも向こう1年間、コロナ禍以前のピーク時比で見た場合、最大でも3~4割程度に止まると考えられます。これを要因別で見てみます。

向こう1年間、インバウンドの来店客はほぼゼロになる

いわゆるインバウンド需要(外国人)は、ほとんどゼロに近いと見るべきでしょう。ご存知の通り、国内の緊急事態宣言は解除されましたが、訪日外国人の入国制限が解除される見通しは一向に立っていません。

今後は段階的に解除されると見られますが、最初の緩和が始まるのは最速で今年の夏過ぎからではないでしょうか。実際、全面的な解除には今から少なくとも1年超は要するという見方が多いようです。

また、仮に全面解除が前倒しになったとしても、多くの国が大きな経済的・財政的ダメージを受けた中、訪日客数がコロナ前の水準まですぐに戻るとは考え難いものがあります。

収入減と在宅リモート勤務の影響で国内客数の回復も限定的

一方、国内の来店客(主に日本人)は、インバウンド客のような惨状にはならず、ある程度の回復が期待可能です。ただ、どんなに回復しても最大5~6割程度と考えます。最大の要因は、収入減などによる消費マインド低下です。今年のボーナス激減(夏季、冬季)が確実視される中、消費者が外食を控える傾向は一層強まるでしょう。

これに加え、在宅リモート勤務の定着・継続が大きく影響する可能性があります。出社する人が少なくなれば、帰宅時に立ち寄る需要も減りますし、ランチ需要の減少も避けられません。

さらに、休校措置の長期化に伴い、学校の休み期間(夏休み等)の短縮が確実視されており、ファミリー需要層の大幅減少に繋がると思われます。

“ソーシャルディスタンス”維持で客席数(定員)は3~5割減少へ

今般の営業再開・延長に際し、全ての飲食店は“ソーシャルディスタンス”維持の遵守を(事実上)義務化されました。これを達成するためには、座席数の減少(間引き)が不可避です。筆者が見聞きした限りでは、客席数は少なくとも▲3割減少、中には半分程度まで減らしている店舗も珍しくありません。

また、元々客席がない立ち食い店(蕎麦、寿司等)でも、客同士が隣り合わせにならないよう間隔を広くしており、事実上は客席数の減少に該当します。さらに、来店客の入れ替え時に、消毒や清掃のため一定時間を空けることも求められ、これも事実上の客席数減少と言えましょう。

そして、これらは言うまでもなく、売上の減少に直結します。

飲食店の経営コストは上昇

売上が減少したままにもかかわらず、飲食店の経営コストは上昇しています。

まず、前述した“ソーシャルディスタンス”維持の費用です。これは、飛沫感染を防ぐために店内の至る所に防止シートを設置し、アルコール消毒液やマスク、手袋を十分に購入する必要があるためです。また、テイクアウト向けでは容器代や新たな広告チラシ代がかかります。さらに、店によっては相応の改装が求められるでしょう。

さらに、食材の値上がりも大きなコストアップ要因です。日頃、食品スーパー等へ行かれている方ならご理解いただけるでしょうが、コロナ禍による品切れでの値上がりが見られ、とりわけ輸入品の値上がりが顕著です。

売上が3~4割の回復では飲食店の経営は成り立たない

これらの要因を勘案すれば、ザックリ言って売上はコロナ禍以前のピーク時比で最大3~4割水準の回復に止まり、逆に、経営コストは1~2割アップと試算できます。客足が遠のくことを憂慮すれば、値上げによる吸収は極めて限定的に止まると見られます。

常識的に考えれば、これで飲食店の経営が成り立つはずがありません。かろうじてやっていけるのは、国内の固定客が多い家族経営(人件費負担がない)の店くらいでしょうか。

確かに、2~3年先を見据えれば、インバウンド需要の回復等で飲食店経営も再び軌道に乗るかもしれません。しかし、日銭稼ぎ勝負となった現在、重要なのは向こう1年間、とりわけ、政府からの家賃補助が終了する後半の6カ月です。

傷口が広がらないうちの廃業・閉店という選択肢も

では、苦境に立たされた飲食店はどうすればいいのでしょうか。

筆者は、経営者が向こう1年間を冷静に予測し、まだ余裕のあるうちに廃業・閉店を検討するべきと考えます。歯を食いしばって、石にかじりついてでも店を守ろうとする気持ちは理解できますが、傷口が広がらないうちに撤退するという選択肢もあるのです。次のチャンスが巡って来るかどうかは分かりませんが、“最終決戦”、“本土決戦”のような事態は避けるべきでしょう。

特に、インバウンド需要をあて込んで新規に開店したり、集客数を増やそうと大幅改装を実施したりした店は、回復の見込みは限りなくゼロに近いと考えます。

また、政府や地方自治体は、経営の行き詰まりが目に見えている飲食店に対する持続的な経営支援を再考するべきです。いや、ハッキリ言えば、過剰な支援は不要ではないでしょうか。

その分、たとえばですが、一人親家庭の子供や学費支払いに困窮する学生への支援に振り向けるのはどうでしょうか。今後、大幅増額が見込まれる地方交付金ではありますが、その使途に関しては明確なビジョンが求められると考えます。