いくら状況を説明する動画や画像があっても、一方からの情報だけで判断するべきではない。当事者にしかわからない事情もある。
今、そこにある正義を一度疑うべきだし、そもそも知らない誰かを安全圏から攻撃するという行為は正義の定義から外れている。
ようやく段階的緩和となったイギリスだが、カフェやパブ、公共施設は未だ閉鎖中で、社会的距離を維持しながら必要な物のみの買い物が認められているという状況だ。
生活用品チェーン店内で、女性2人の口論が起きた。制服姿で店内に入ったケアワーカー女性に、買い物中の女性が注意したのだ。
公共の場で理不尽に非難されたと感じたケアワーカー女性は、口論中の動画や自分の泣いている姿を写した画像付きでこの1件をSNSでシェアした。すると、相手側の女性が特定され、ひどい誹謗中傷や脅迫が殺到した。
そのあと、相手側の女性の友人から、もう一方の話が語られる。この女性、地元の病院でコロナウイルスの感染者治療のために、最前線で働くICU(集中治療室)ナースで、彼女が注意した理由も見えてきた。
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買い物に来たケアワーカー、知らない女性に注意されSNSに投稿
5月25日、イギリスのスタッフォードシャー州にある生活用品ディスカウントチェーン『B&M』にやって来たケアワーカー(介護が必要な人に衣服の着脱・入浴・食事などの介助を行う人)のキンバリー・シンプソンさんは、買い物のために店内を回っていた。
すると1人の女性が「制服姿のままで店に入るべきじゃない」と注意してきた。
キンバリーさんは嫌な気持ちになった。「自分が何をしたというの?」という思いから、その女性の姿をスマホで撮影し、SNSでシェアした。
1人の女性が、店内で私を追いかけてきて、制服のまま店に入るなと怒鳴ったの。ケアワーカーが必要品を買い求めるのはダメだっていうの?ケアしている患者の物を買いに来ただけかもしれないでしょう?女性は、私がコロナをまき散らすと非難したのよ。マネジャーに報告するとまで言われたわ。そのマネジャーにこの件をさっき伝えたら「あなたは何も悪くない」って言ってたわよ。
私たちは懸命に仕事をしているんです。これまでケアしている患者の誰1人としてコロナには感染していません。だから、私たちのやってきていることは正しいと信じてるわ。
私が動画を撮影するまでの10分間、女性はついて回って叫び続けたわ。でも、店のスタッフは誰も私をかばってくれなかった。客のポーランド人のカップルだけが「泣かないで。彼女はおかしいのよ」と慰めてくれただけ。
彼女の行動には本当に不快な思いをさせられたわ。私は何も悪いことなんてしていないのに。
キンバリーさんは、Facebookで綴り、泣き顔の写真と一緒に投稿した。
相手女性に誹謗中傷が殺到、だがその女性はベテラン看護師だった
騒動後、キンバリーさんの投稿が拡散したことで、キンバリーさんを非難した女性が特定された。
マリーナ・ケンドリックさん(53歳)のもとには、死の脅迫を含む悪質な誹謗中傷が殺到し、警察への通報を余儀なくされ、SNSアカウントも全て削除しなければならなくなった。
マリーナさんを心配する友人がメディアに対し、口を開いた。
マリーナさんは、現在この1件でかなりトラウマを抱えており、一方的な情報のみで誹謗中傷する人たちに恐怖を感じる毎日を過ごしている、と語った。
騒動があった日、首からストラップをかけたキンバリーさんの制服姿に目に留めたマリーナさんは、「病院で働いているのか?」とキンバリーさんに尋ねたそうだ。
キンバリーさんがケアワーカーだと答えると、「公共の場で制服を着るべきではない」と小声で見解を表示したという。
というのも、実はマリーナさんは、地元の病院でコロナ患者のために最前線で働くICU(集中治療室)の看護師だったのだ。
今年2月まで大学の成人看護学の上級講師として勤務していたマリーナさんは、15年にわたり看護学を教えて来たベテラン看護師で、講師を辞めた後、職業訓練会社で看護学長となったマリーナさんは、コロナウイルスがピークになると、すぐにバートン病院でのICU看護師に自ら志願した。
Our lovely Rainbow window💙🌈 on Ward 206 @UHDBTrust thankyou @PoxonDani 🤩 pic.twitter.com/xK9R6rHE2W
— Lynsey Heald RN 💙 (@LynseyHeald) May 19, 2020
マリーナさんは、コロナと戦う感染者たちの治療に最前線で従事して来たのだ。だからこそ、制服のままで買い物するキンバリーさんを見て、医療従事者のガイドラインに沿っていないことを注意するつもりで話しかけたと、友人は語る。
動画を良く見ると、マリーナさんに「あなたはウイルスを拡散しているのよ」と指摘された直後、興奮するキンバリーさんの声で、マリーナさんの発した言葉が良くわからなくなっている。
医療従事者が公共の場で制服を着るべきではない2つの理由
マリーナさんの友人は、本人に代わり、なぜ医療従事者が公共の場で制服を着たままでいるべきではないのかを説いている。
第1に感染管理です。もう1つは自身を守るためです。医療従事者の制服を着ていることで、万が一誰かが店で心臓発作になった場合に、「この人は医療従事者だから」という目で見られ、自分の能力レベルを超えた期待を寄せられることを防ぐためです。何も知らない人がマリーナを責めていますが、彼女は看護師規定に従っていただけです。患者を保護し、自身の職業を支持していただけなのです。
キンバリーさんが、口論の“一部”を捉えた動画をSNSでシェアすると、若くてかわいい女性が涙していたという一部の状況のみ判断したネットユーザーから、マリーナに大量の誹謗中傷が寄せられました。
死の脅迫だけではなく、マリーナに「NHS(国民保健サービス)で治療を拒否されればいい」とまで言う人がいたようで、呆れるばかりです。
マリーナは、キンバリーさんの後を付け回してなどいません。看護師のルールにのっとって、彼女に注意しようとしただけです。
マリーナは、誇りを持って職務に従事するナースであり教育者です。彼女のキンバリーさんへの指摘は正しいのです。
私たちが、毎週木曜に拍手を送るNHSヒーローのまさに1員という立場にいる女性を、一方からの断片的情報だけで非難するのは、全く持って恥ずべき事です。
なお、4月2日に発行されたNHSイングランドの公式文書には、
仕事以外で医療従事者が制服を着用することが、コロナウイルスの感染リスクに繋がるという証拠はない。しかし、スタッフは公共の場では、制服をカバーするか、職場で着替えることを習慣づけることが望ましい
と記されてあるということだ。
世界中のSNS上は、正義の名のもとに悪人探しが行われている。だがそもそも、「どこかに悪人がいる」という発想自体が危険なのかもしれない。
双方の立場で見たら、どちらにも言い分はあるし、どっちに肩入れするかで事実の見え方が全然違ってくる。断片的、一方的な情報だけで第三者が判断できるものではない。真実は必ずしも1つではないし、誰も悪くないことだってある。
人間は誰だって過ちを犯す。判断を誤る。叩けば埃が出る。そこには必ず自分も含まれていることを肝に銘じておこう。絶対的な悪と断罪する権利は誰にもない。相対的な悪があるだけだ。あなたが悪人とののしったその人は、誰かにとっては善良で大切な人かもしれないのだから。
心の中でなら何を思っても自由だ。だが、誰でも見ることができる場所で第三者に関して発言するのは慎重であるべきであろう。SNSは憎悪と不寛容のための場所ではないはずだ。
References:'Aggressive' shopper who left carer in tears is an ICU nurse on coronavirus frontlineなどwritten by Scarlet / edited by parumo
全文をカラパイアで読む:http://karapaia.com/archives/52291330.html
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