―[負け犬遠吠え]―


ギャンブル狂で無職。なのに、借金総額は500万円以上。
それでも働きたくない。働かずに得たカネで、借金を全部返したい……。

マニラのカジノで破滅」したnoteで有名になったTwitter上の有名人「犬」が、夢が終わった後、短かった闘いを振り返り、喫緊の金策のアイディアを綴っていく当連載。

最終回を見届けられるのが先か、借金で破滅するのが先か……すべては犬次第だ。


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◆役所の人は「コロナ狂い」

 とにかく金がない。この連載の第一回のタイトル「借金500万円、ギャンブルだけで返済チャレンジ!27歳無職の挑戦記」という検索ワード欲張りセットみたいな名前だが、そもそも根底の部分でそんなに熱を帯びているわけではない。

 確かに借金は返済したい。「借金がなくなればどれだけ楽か」と何度も考えた。ただ、借金による精神的ダメージは基本的に社会から受けるものであり、例えば親にバレてしまったり、会社にバレてしまったり、愛する人にバレてしまったり。でも、僕はそのすべてを持っていない。ただただダメな自分を見て自問自答するのみだ。後先を考えずに仕事を辞めてここまで転がり落ち、気付いたら「律する自分」の立つ瀬がなくなっていて、毎日暇を持て余し、パチンコに行き、週末に競馬をしても何が悪いのかわからなくなってくる。

 月末に借金を含めた支払いが怒涛のように押し寄せてきて思い出したように過去の自分を恥じるのだが、なんだか他人事のように思えてきて「新しい拷問か何かかな?」と俯瞰してダメージを軽減している。

 のらりくらりと自分の窮地から目を逸らし続けてきた。別にそうしていても誰に怒られるでもない。

「借金を返して自分の人生を取り戻す!」

 なんて強い決心もない。好きに遊んで借金をした今の結果こそが人生で、果たしてそうではなかった自分に求めるものがあるかと問われれば、無い。例えばその延長線上にこういう縁が落ちていたりするわけで、それはそれで良いんじゃないかとすら思えてくる。

 先週競馬で負けてから再び日雇いのアルバイトを2日こなし、2万円を手に入れた。一週間探しても2万円、到底生活を支える土台にはならない。迫る月末、ジェンガのような生活を続けるために、役所に泣きついてガリガリの土台を削っては積み上げていく。今回は事前に予約していた家賃補助金という生活保護の仲間みたいな制度の申請に来た。世間で言うほど役所は厳しくない。僕が金がない旨と仕事がない現状を説明すると、これからどうすれば良いかのガイドラインを引いてくれる。

「ここ2か月は気が狂うほど忙しい」

 役所の人はそう言っていたが、確かに僕のような申請者は大量に待っていたし、何が不満なのか延々と怒号を撒き散らす年配の人も3人くらいいた。役所に感情を持ち込む意味がわからない。極力申し訳なさそうな顔をしていれば怒られることも責められることもないのに。

 さて、役所に行くという事は外出するという事だ。僕が探すアルバイトは大抵深夜帯なのでついでにパチンコ屋に行ったりできない。対して役所は昼に営業しているため、ようやく日が出ている時間帯の社会を知れる。僕が住んでいる地域の役所は近くにさびれたパチンコ屋さんがあるので、そこに行くことにした。というより、久しぶりの昼間の外出をする時は絶対に打つと決めていたし、役所を出てすぐに早歩きになる。なぜパチンコ屋に行くのか聞かれても「なんとなく」としか答えられないが、用事がないならパチンコ屋に行くのだ。金が増えるかもしれないし。家賃まだ準備してないし。勝ったらすぐに払うし。

 新型コロナの影響でパチンコ業界は深刻なダメージを受けた。大手のパチンコ屋は全部営業を停止した。役所の近くの店はボロいのでこっそり営業しててもおかしくないと思っていたが、残念ながら閉店していた。

 誰が悪いのでもない。ウイルスが悪いのだ。営業していたら打ちに行ってしまうパチンカスも、見ず知らずの他人を「パチンコ屋から出てきたから」とカメラを構えて勝手に写真を撮って毒づくおばさんも、全員が被害者だと思う。自分の中の不安と闘う方法が他人のそれとぶつかってしまったのだから仕方がない。あくまで僕の考え方だが。

 改札を前にして肩を落とす。まあ確かに営業していない方が世間的には正しいのだろう。このボロいパチ屋で6万円勝った成功体験が脳裏をよぎる。もし同じ勝ち方をしていれば家賃を払うことができたのにな、と最悪な言い訳を呟く。

 諦めて良いのか?

 もう1人の僕が問いかける。彼はいつも僕の背中を押してくれる。

 良いわけないだろうが。一度打つと決めたら絶対に打つ。これが僕が僕として生まれてきた人間の矜恃だ。

 2回電車を乗り換えたところに営業中のパチンコ屋がある。戦場はそこにしよう。

 最寄駅から歩いていると電灯が消えていてギョッとしたが、前まできてみると普通に営業していた。入場制限を設け、店内ではマスクの着用が必須だと言われた。

 予想通り。このために僕は今日マスクをつけてきた。厳重な感染対策を施された店内に入る。パチンココーナーは時間をズラして開店するらしく、スロットコーナーへと案内された。

◆2万円の戦闘力

 自動ドアが開いた瞬間に音が耳に飛び込んできた。どの台も遠慮せずに爆音で人を呼んでいる。

 目を閉じる。台たちが祭りの出店を出しているみたいだった。一つ一つが出す声が混ざり合った喧騒から、どの台があるかを聞き分けていく。GODバジリスク、北斗…みんな久しぶりだね。僕は……。

 ところが、店内は萎えるほどに満員だった。それはそうだ。僕と同じ気持ちでここに集まったものも多いだろう。今日は勝ちにきたんじゃない。きっとみんな久しぶりの挨拶をしにきたに違いない。そして台もそれに応えてくれるはずだ。

 1台だけ空いてる台があったので喫煙スペースタバコを吸って缶コーヒーを飲んでからそこに座る。イチローが打席に入る時にする決まった動きをルーチンと言うが、僕のルーチンはタバコ缶コーヒーだ。これからこのスタジアムを沸かせてみせよう。

 空き台は「魔法少女まどか☆マギカ2」という台だった。僕はこのシリーズが大好きだったし、この台に関しては50万円以上負けている。そろそろ勝つ頃合いだろう。久しぶりにはちょうど良い台だ。手元には2万円ある。勝つには十分な戦闘力だ。僕の気持ちに応えてくれよ、まどか……!









 1万5000円飲み込まれたところで当たった。ここから10万円くらい出ればとりあえず今直面してる問題は解決できる。

 このスロットボーナスの中にさらに当たりがあり、ARTと呼ばれる「当たりまくりモード」に入る。ボーナス中に突然金の扉が閉まってコンチ音(当たるときに特有の音)が鳴れば大チャンスだ。

 ドキドキしながらボーナスを消化していく。メダルが下からジャラジャラと出てくる感覚はやっぱり気持ちいい。バカラや競馬のように一発で勝負が決まるのも良いが、こうして当たりが長い時間続くと全能感を覚える。

 それは突然だった。

「キキキキキーーーン!!!!!!」(キュピピピ、かもしれない)

 ああ、上手く音を文字にできないのが口惜しい。それこそがコンチ音だった。耳に刺さって、頭の後ろから抜けていく。約1か月ぶりのコンチ音に僕の細胞全部が共鳴して、体の内側から鳥肌が立つ。まだ1万円負けているのに、もう勝った気分になった。僕の体はこれを待っていた。

 重度の依存症は手が震えたりするというが、僕にそういった症状は無い。用事をすっぽかして行くこともない。ただ空いてる時間の全部をソレに費やしているので、問題は依存より内包している退廃なのかもしれない。

 ただ、この時ばかりは手が震えた。博打で感情が大きく動く時、手が痺れたりするが、1か月ぶりのコンチ音で手が痺れた。この窮地にスロットで勝負した事、台がそれに応えるように当たってくれた事、全てが運命の糸でつながっている。心は通じた。もう上しか見ない。

 コンチ音は、まどかの遺言だった。

 その後ウンともスンとも言わずに淡々と当たりまくりモードは終了し、合計で4000円しか返ってこなかった。手元に残っていた5000円と合わせて9000円。元より家賃に届かない金額だったが、また遠くなってしまった。

 先に言っておくと、負けた時に投げやりにギャンブルをして勝つ事はほとんどない。

「ああ、やっぱりね」

 と神を呪っても意味はない。傲慢な罪だ。

 記憶はないが、僕はどうやら9000円を握り締めてパチンコを打ちに行き、良いところが一つもないまま負けてしまったらしい。9000円でパチンコを打つのは弾が2発しか入っていない銃で遊ぶバイオハザードみたいなもので、本来緊張する場面なのだが、その時は、

「こんなに酷い負け方をしたんだからこっちで勝たせてくれ」

 と身勝手になっていた。まあ確率は平等だからいつ打っても同じなのだが、後ろ向きな理由で打っても楽しくはならないので自戒として思っている。

「ああ、やっぱりね」

 店を出て呟く。どうしてこうも下手なんだろうか。ギャンブルが好きなだけで、決して上手ではない。

5/20
借金残高 ¥5,161,798-




【犬】
フィリピンカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitternoteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。
Twitter@slave_of_girls
note→ギャンブル依存症

―[負け犬遠吠え]―