7週間にわたる緊急事態宣言で自宅での自粛を生活を余儀なくされた間、お家で映画・ドラマ三昧だったという方も多かったはず。そこで話題になったのが、Netflixで配信されている韓国ドラマだ。

話題の『愛の不時着』に男性もハマる理由
この期間のNetflixチャートで1位に君臨していた本作。韓国ドラマといえば“オバサンがハマるもの”というイメージを覆し、「キュンキュンした!」という岩田剛典さん(三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE)をはじめ、片寄涼太さん(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、テリー伊藤さんなど男性がハマったのも特徴といえる。

なぜ、男性がハマったのか? それは、「ヒロインが強かった」からではないだろうか。これまでの韓国ドラマのヒロインといえば、「出生の秘密」「どん底生活」「財閥御曹司との出会いで逆転人生」のコンボが定番。特に何のスキルもないけれど、美人だったら白馬の王子さまに見初められてめでたしめでたしなストーリーが多かった。

ところが『愛の不時着』のヒロイン、ユン・セリ(ソン・イェジン)は、お金持ちの財閥2世。高飛車でワガママだけれど、ダメ2世の見本のような兄たちと違い、起業家として成功している自立した才色兼備だ。

不測のパラグライダー事故で北朝鮮に不時着してしまったセリは国境警備にあたっていた北朝鮮軍の将校リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)と出会い、恋に落ち、彼の捨て身の助けを得て、どうにか韓国への帰国を果たす。

男性主人公リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)は、北朝鮮軍高官のひとり息子という名門出身で、ピアノの天才。部下からの人望も厚く、非の打ちどころがないイケメンというところは、韓国ドラマのド定番だ。

もちろん、反発していたふたりが恋に落ちるという王道のロマンスもしっかりあるが、アクションもあるセリを守るヒーロー展開や、悪徳将校との因縁の対決というサスペンス展開まで、ラブ一色でないのも男性がハマる一因だろう。

これまでの韓ドラのヒロインは守られる存在が常だった。セリは、北朝鮮というアウェーの地でこそ守られていたが、ソウルというホームに戻れば「ここは私の世界。自分の財力、権力すべてを動員して自分を守る」とキッパリと言ってのける。そしてしたたかに、自分の権力を使ってジョンヒョクと会える方法を算段する強さがある。

資本主義社会ですべてを手に入れたかのようなセリだったが、その生い立ちは複雑で、愛を知らずに育った彼女にとって一番必要だったのは、王子さまやヒーローではなく、彼女自身を愛してくれる存在だったのだ。

男性からしたら、これまでの韓国ドラマのヒロインは、財力も権力も腕力も知力も、そして癒しさえも……、彼女が持っていないものすべてを与えなくてはいけない恐怖の存在だったが、セリは、イーブン。だから、『愛の不時着』は安心して見ることができるのかもしれない。『リトル・マーメイド』のアリエス以降のディズニープリンセスたちも、自分から何かを求めて突き進む女性たちに変化しているが、韓国ドラマのヒロイン像も同様に変わってきているようだ。

主人公だけじゃない! わき役たちのサイドストーリーも秀逸
ロマンスあり、サスペンスありの主人公たちに加えて、物語を彩ってくれているのが、不思議の国北朝鮮での庶民の生活と、魅力的な脇役たちだ。

韓国と北朝鮮は「休戦」という状態。戦時下故に、韓国では北朝鮮との戦争に備えて男子に兵役義務があるし、全国一斉に民防空退避訓練という避難訓練が繁華街の街中で大々的に行われる。劇中に北朝鮮からソウルの山が見えるシーンがあるが、隣の国だけに、その距離は近いのだ。

しかし、近くても遠い国。北朝鮮の生活実態はまったくわからない。電力が安定供給されないために冷蔵庫は収納棚代わりになり、食料は庭に掘った貯蔵庫で保管。停電で列車が止まり野宿をしたり、夜間に住民の点呼が行われるなど、北朝鮮の日常生活が垣間見らるのは興味深い。まだまだ近代化されていないが、家族や近所付き合いを大事にする生活は、後継問題で争うセリの家族と比べると、むしろ人間的だ。


そんな北朝鮮の人々が力強く生きているのを見せてくれるのが、ジョンヒョク率いる中隊の部下4人と村のアジュンマ(おばさん)たちだ。

ジョンヒョクの部下たちは、シリアスな物語に笑いを添えてくれる。お調子者のピョ・チス(ヤン・ギョンウォン)、ソウルで大手芸能事務所のスカウトされまくるほどのイケメン、パク・グァンボム(イ・シニョン)、『天国の階段』などひと昔前の韓流ドラマが大好きな韓国通のキム・ジュモク(ユ・スビン)、部隊の末っ子としてかわいがられているクム・ウンドン(タン・ジュンサン)らは、あらゆる場面でセリを支え、姉弟のような友情を育んでいく。

ジョンヒョクが住む村のアジュンマたちも個性豊か。大佐の妻でアジュンマたちのボス的存在のマ・ヨンエ(キム・ジョンナン)、人民班長で酒癖の悪いナ・ウォルスク(キム・ソンヨン)、盗聴兵マンボクの妻のヒョン・ミョンスン(チャン・ソヨン)、元アナウンサーの美容師ヤン・オククム(チャ・チョンファ)はみな、イケメンであるジョンヒョクのファン。ジョンヒョクの家で居候を始めたセリに難癖をつけるが、セリのコミュニケーション力の高さでだんだんと仲間としての絆を深めていく。彼女たちの井戸端会議や生活の様子が北朝鮮の現状をリアルに描き、女性たちのたくましさを見せてくれる。

そしてこの物語の、もう1組のカップルとして後半の物語を盛り上げるのが、ク・スンジュン(キム・ジョンヒョン)とソ・ダン(ソ・イェジ)。セリの元カレにして北朝鮮に逃げてきた詐欺師のスンジュンと、家同士が決めたジョンヒョクの婚約者、外国帰りのクールビューティ、ダンが主人公カップルと対比した恋愛模様を見せるが、このカップルの王道の韓ドラ展開には、涙、涙……。

様々な人たちを生き生きと描き出しているところも、この作品の魅力になっている。

「あっ!」と驚くあの人も出演
『愛の不時着』は韓国のケーブル局「tvN」で今年2月まで放送されていたが、最高視聴率24.1%は、同局のヒットドラマ『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』を超えるtvN歴代No.1視聴率をたたき出した。

主演のヒョンビンは、『私の名前はキム・サムスン』(2005年)、『シークレット・ガーデン』(2010年)のツンデレ彼氏で一世を風靡した俳優。兵役には韓国軍の中でもっとも屈強といわれる海兵隊に志願入隊したというだけあって、なんとも軍人役が様になっている。女優ソン・イェジンは、映画『私の頭の中の消しゴム』(2004年)、そして近年では、『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』(2018年)で年下男子ブームを巻き起こしたヒット女優。しかし本作は、安定の主演陣に加え、「あっ!」と驚く主演級俳優がカメオ出演しているのも見どころだ。

脚本は『星から来たあなた』(2013年)、『プロデューサー』(2015年)、『青い海の伝説』(2016年)などのヒット作を連発しているパク・ジウンだけに、『星から来たあなた』『プロデューサー』で彼女の作品に出演したキム・スヒョンが、10話にカメオ出演。カッコいいキム・スヒョンだが、『愛の不時着』に合わせて、北朝鮮から韓国にやってきたスパイを演じた主演映画『シークレット・ミッション』(2013年)の緑ジャージを着たおバカキャラのドング役を再現し、ジョンヒョクを連れ戻すためにソウルに派遣された中隊のデコボコ4人組に、韓国でスパイだとバレずに過ごす方法を伝授する。

さらには、妊娠中だったにもかかわらず、大女優チェ・ジウが13話に本人役で登場。セレブ・セリの人脈は、韓流ドラマの女王にも通じているところを見せつけたが、彼女の出演場面は微笑ましく、思わずほっこり。


レギュラー陣における意外な出演者といえば、ジョンヒョクの婚約者・ダンの母親で、平壌でデパートを経営する成金マダム役チャン・ヘジン。映画『パラサイト 半地下の家族』(2019年)の寄生一家のお母さんだということに気づいただろうか。まったく違うクラスの女性を演じきっている。そのマダムの弟役、ダンをかわいがる高級将校役パク・ミョンフンは、『パラサイト』の地下の怪人。見た目の違いにも驚くが、ミュージカル出身の舞台人の彼は、なんと『パラサイト』が商業映画初出演作だったというのにも驚かされる。『パラサイト』でのブレイクが、本作出演につながった。

そして今年、もっともブレイクした俳優といえるのが、監視盗聴室所属の軍人、チョン・マンボクを演じたキム・ヨンミンだ。今、韓国でもっともホットなドラマはケーブル局「JTBC」の『夫婦の世界』。『梨泰院クラス』の後続ドラマとして3月からスタートしたが、不倫ドロドロの19禁ドラマは、5月16日に最終回28.4%という非地上波歴代最高視聴率で終焉を迎えたばかり。キム・ヨンミンは主人公イ・テオ(パク・ヘジュン)の同級生、会計士のソン・ジェヒョク役を演じたが、2本に続けざまに話題作に出演。年末の授賞式では、多くの賞を受賞しそうだ。

とにかく、ドキドキ、ハラハラ、ほっこり……さまざまな要素が次から次へと展開される『愛の不時着』。見始めたら途中で止められず、全16話を徹夜でイッキに見てしまう。危険なので、これから見る方は、週末に見ることをおススメする。
(坂本ゆかり)

イラスト/おうか