「紀州のドン・ファン」と呼ばれ、2018年5月に急性覚せい剤中毒で亡くなった和歌山県田辺市の会社経営者・野崎幸助さん(当時77歳)。野崎さんの「全財産を市に寄付する」とした遺言書について、法廷で争われることとなった。

産経新聞の報道(5月27日)によると、野崎さんの親族4人は4月18日、野崎さんの遺言書は無効だとして、遺言執行者の弁護士に相手に和歌山地裁に提訴した。

原告側は「コピー用紙1枚に赤ペンで手書きされ熟慮の末に作成したとは考えにくい」、「市に寄付する合理的動機が見当たらない」、「遺言書が保管、発見されたとされる状況が不自然」などと主張しているという。

遺言書はどのような場合に無効と判断されるのだろうか。相続・遺言問題に詳しい高島秀行弁護士に聞いた。

●遺言には「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2種類がある

「遺言には、公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言と自分で作成する自筆証書遺言があります。

自筆証書遺言は、(1)全文自筆で、(2)日付を書き、(3)署名捺印をするという要件があり、この要件を満たさないと無効になります。封筒に入れて封をすることや用紙やペンなどの筆記用具を限定するなどの要件はありません。

また、遺言作成者が、遺言作成時に認知症などで判断能力がない場合は、遺言は無効になります」

今回、野崎さんの例ではどう考えられるのだろうか。

「今回の訴訟での遺言無効の理由は、法律上の形式的要件(1)(2)(3)を満たさないという主張でも、遺言作成者が作成時に判断能力がなかったという主張でもありません。

原告らの主張は、『コピー用紙1枚に赤ペンで手書きされ熟慮の末に作成したとは考えにくい』、『市に寄付する合理的動機が見当たらない』、『遺言書が保管、発見されたとされる状況が不自然』というものです。

つまり、本件遺言書は、野崎さんが本当に市に全財産を寄付する意図でなされたものではないという法律の一般原則を理由に無効を主張していると思われます。

遺言書の保管、発見された状況がどう不自然だったのか具体的に報道されていないのでわかりませんし、確かに、遺言という法的な文書を赤ペンで書くというのは普通ではありません。

しかし、日付も記載し、署名捺印もしてあるということを考えると、単なるメモや下書でもなく、野崎さんは本当に市に全財産を寄付する意図でなされたものだと考える方が妥当だと思います」

【取材協力弁護士】
高島 秀行(たかしま・ひでゆき)弁護士
2009年弁護士登録。第二東京弁護士会所属。企業法務を中心に、会社・個人の法律問題を幅広く取り扱う。
事務所名:高島総合法律事務所
事務所URL:http://www.takashimalaw.com

「紀州のドン・ファン」遺言書めぐり裁判へ 「赤ペン手書き」で書いても認められる?