新型コロナウイルスの影響によりライブシーンから音楽が消えて数ヶ月。ライブを愛する人のためのポータルサイト『LIVE LOVERS』が立ち上がった。向こうしばらくは表現活動のツールとしてメインになってくるであろう配信でのライブ情報をはじめ、ライブにまつわるさまざまなコンテンツの発信が予定されている同サイトを立ち上げたのは、『中津川 THE SOLAR BUDOKAN』などのフェスやイベント──リアルライブの現場を数多くを手がけてきた松葉泰明氏。本稿では松葉氏と関わりが深く、自身もいち早く配信ライブの可能性に着目し7月にはオンラインのワンマンも控えているACIDMANのフロントマン・大木伸夫を招いて、今年2月以降にアーティストや現場のスタッフが何と向き合ってきたのか、ウィズコロナとされる現時点ではどんな試みをしているのか、配信ライブの可能性やリアルとオンラインのハイブリッドでのフェス開催といった今後へ向けたビジョンまでをじっくりと語り合う。
※このインタビューは『LIVE LOVERS』掲載用に行われたものです。

──初めに、あらためて両者のお付き合いがどのように始まったのか、振り返っておきたいのですが。

松葉:初回の『THE SOLAR BUDOKAN』を日本武道館でやった翌年に、初めて野外フェスとして中津川でやろうってなったんですけど、あのとき「脱原発」みたいなキーワードをちゃんとメッセージとして出しているバンドの中にACIDMANがいて、一緒にできるんじゃないかなって。当時のマネージャーと三軒茶屋の喫茶店で話し合ったのを覚えてます。

大木:そうなんだ(笑)。やはり『THE SOLAR BUDOKAN』は主旨が素晴らしいなと思っていて。「脱原発」は置いておいたとしても、シンプルに太陽のエネルギーという毎日のように降り注いでいるものを使った、いわゆるサスティナビリティ──持続可能なもので、自然と共に僕らが生きているということを示せる場所でもあるところに共感して。さらにこのフェスの面白いところって、僕らの上の世代から下の世代まで、ジャンルレスで世代も全然違うんだけど、なんとなくそこを繋げようとしている空気感も感じるところで。ただただフェスをやるのではない、意義のあるフェスだなと。

松葉:「EVERLIGHT」って2014年でしたっけ。中津川に出ていただいた後に、ACIDMANチームから「ソーラー電池をレコーディングに活かせないですか」っていう話をもらって。で、実際に充電した電池を大木くんの事務所に運んでプリプロをやったりとか、目黒のスタジオにも持って行ったりして、「EVERLIGHT」は太陽光で録音した曲です。そういうトライを一緒にできたことも大きかったですね。

──『THE SOLAR BUDOKAN』の背景として2011年の震災があって。人々の価値観、音楽のあり方なども問い直されて、いろいろな変化が生まれたわけですが、そういう意味では、形こそ違えど今2020年の世界で起きていることもまた一つのターニングポイントだと思うんですね。その中でライブを作る側である松葉さん、ライブを行う側の大木さんが、どういう風に現状を捉えて、何を考えているのかをお聞きしていきたいです。発端はまず2月にライブハウスクラスターが取りざたされ、2月26日以降は大規模イベントの自粛要請がされたところで。

大木:その頃は正直、ここまで拡がってくるとは思っていなくて。と同時に、元々の知識として「感染症はめちゃくちゃ怖い」というのはあったから、ちゃんと封じ込めてほしいなとは思っていたし、日本の技術であれば抑え込めると思っていたんですが、大阪のライブハウスクラスターが出た段階で、一気に僕の価値観も変わって。予定していた3.11の福島でのライブをすぐに「やめなきゃいけないな」と判断しましたね。

松葉:僕は2月末から5月あたりまで、いろんな新しいフェスや新しいイベントが予定されていたのが、全て中止にせざるを得ない状況に追い込まれたので、結構大変でした。僕の場合は周りでスタッフが動くじゃないですか。実際、仕事をお願いしているスタッフに、仕事を断らなきゃいけない状況があって、多分その人たちは月に何本も現場があるから生計を立てられているような状況なんだけれども、それがままならずに仕事が無くなってしまう人がたくさん出てきていることを、3月の半ばくらいから痛感しだしていて。そういう人たち──具体的に言えばテクニカルスタッフなんですけど、音響・照明のスタッフや楽器のスタッフ、そういう方々に対して、ちゃんと仕事をしてもらえる体制作りはどうしたらできるんだろうかを、まず悩みだしました。

──大木さんは現地から実際に無観客のライブの配信を行なってどんなことを感じましたか。

大木3.11のときにもまだ、(事態は)長くても1~2ヶ月かなと思っていたので、「音楽を止めるな」とかいうことよりも、単純に「3.11に音楽を鳴らし続ける意義」があるなという個人的な発想のほうがまだ強くて。ライブハウスのイメージがあまり悪くなってほしくないなというのもあったんだけど……今はまたガンガン変わっていってます。コロナによって自分の価値観も含め、世の中の常識とか道徳観も毎日のように変わっていくので、いかに自分が対応して、自分の正しさをブレずにやっていくことが大事なのかを痛感させられてるというか。教えてもらっている感じですね。
3.11のライブのときには、とにかく僕は観ている人を驚かせたい、感動してほしいと思ったんですよ。このネガティブで不安な情勢の中、僕らのファンは小さなコミュニティだけど、せめてそのロック村の中だけでも、ちょっと前向きな気持ちになってほしいと思っていたから。

──なるほど。

大木:実際に観てくれた人からものすごく評価もいただいて、アーカイヴも10万回以上再生していただいて、周りからのいろんな意見も聞けた。配信をやっている側としては臨場感もなく、誰が観ているのかもわからない。でも気は抜けないというものすごい緊張感だったんですけど、でも、そのときにみんなが圧倒的に一つになったし、MAN WITH A MISSIONのトーキョー・タナカのサプライズにも背中を支えられたし、ファンの方のコメントも後から見てすごく勇気をいただいて。この配信のライブっていうものの可能性は、コロナ関係なくアリだなと思ったんですよ。直のライブじゃなくてもすごく力を与えられることが……もちろん直のライブが一番ではあるけども、でも人を感動させることができるっていう自信には繋がりました。

松葉:その前には『ROCKIN’ QUARTET』も配信でやりましたし、あの期間で今まで配信ライブとかにトライしてこなかった我々が、なんとかやってみた経験値は良かったかもしれないですね。

大木:そうですね。ライブでファンからの声がいかに僕らを救ってくれてたのか、エネルギーをいただいていたか、支えられていたのかにも気付きました。自分が裸一貫な感覚があって、結局僕はそれを楽しめたけど、でも楽しめない人も出てくるだろうなとは思いますね。

──3.11の舞台になったのはライブハウスでした。ライブハウスの窮状について考えていることもお聞きしておきたいです。

大木:実は1ヶ月半くらいライブハウス支援のために色々と策を練って、ロゴとかも考えて、プロジェクトを立ち上げるつもりだったんだけど、法律の壁があってダメになっちゃって。一番しんどかったのがそこですね。でも周りでライブハウス支援を色々と頑張ってくれる人がいるので、『LIVE FORCE, LIVE HOUSE.』もそうだし、それを僕らが少しでも応援できる形でなんとかケアさせてもらってます。あとは仲間のライブハウスには電話をして、「コロナが終わったら必ず、弾き語りでワンマンやりにいくからさ」みたいな約束をしたりだとか、細々ながら、ライブハウスを無くさないように、イメージも悪くさせないように頑張っていかなきゃなと思ってますね。

──現状、どこを問題として訴えていくべきと感じますか。

大木:こればっかりは難しいですよね。ライブハウスは(三密が揃う)コロナが一番得意とする場所だけど、逆にそれがライブハウスの素晴らしさでもあったりするから。僕ら自身もライブハウスでずっとやってきて今があるし、ミュージシャンが人に自分の作品を見せる場所ってライブハウスが一番だと思うから、僕らがいかにライブハウスが素晴らしくて夢を与えられる場所なのかってことを伝え続けるしかない。
最近のニュースでもアーティスト支援とかの話で「アーティストにお金を払ってる場合か」っていう声もあって、アーティストってめちゃめちゃ儲けてるようなイメージに見えがちなんだけど、決してそんなことはなくて。冷静な目で見るとそれをみんな仕事として選んでいて、生活もかかっている。もちろんインフラだったり医療従事者に比べたら、僕らの仕事はそんなに重要ではないかもしれないけど、そうしたアーティスト以外にも周りには色んなスタッフさんがいるので。その重要さを、僕らの責任としてもっともっと伝えていくべきだなと。もう楽しくてハッピーなものだけを求めている時代じゃないと思うので、ちゃんと意味があって、本当に人を感動させるものを届けることが、一番大事だなと思いますね。

松葉:僕が思うのは、ライブハウスってハコ──場所っていう意味ももちろんあるんですけど、そこに根付くブランドだったり人やノウハウがあるじゃないですか。それがちゃんともっと活かされるようなエンタテインメントのアウトプットが色々あるといいなと。今は結局、ライブハウスが機能しないことになっているから、そこにあった物作りのノウハウも全く機能しなくなっちゃってる。
ライブハウスの“場所”ももちろん大変だけど、でも一番救うべきはそこにいる“人”なので、人を活かせる場所が新たにあると、両軸で活きるのかなって。いまオンラインでやろうとしているところでテクニカルスタッフの能力とかも活かせる座組みにして、リアルが戻ったら戻ればいいけど、それには多少の時間がかかるのは仕方のないことなので、場所が戻る前に早く人を活かせるような体制を作りたいなと思ってます。

──まさにそこがLIVE LOVERSを立ち上げた意義、根幹の部分ですよね。実際、ここからの動きのビジョンはどのように考えていますか。

松葉:僕らの社会そのものが今回の件で学ばなきゃいけないのは、バックアップが必要だということで。今まではリアル(のライブ)が無かったら全部総倒れでライブができなかったけど、オンラインライブがバックアップとして機能できるまで育っていたら、例えば、第2波が来ました、やっぱりまたライブハウスで何百人が集まることはできません、というときに、じゃあその間はしばらくオンラインに逃げようとなる。そういう選択肢としてちゃんと成長させるべきという風にはすごく思います。
実際、海外のアーティストを招聘することは今年は難しいと思うし、だったら海外とオンラインで結んでライブをやるスタイルを育てる考え方もできるので。僕もリアルのライブが戻ってきてほしいし、みんながガシガシ動きだした方が絶対良いし、僕もそこで一緒に仕事したいんですけど、同じようにバックアップを育てていくことが、いろんなところで必要なんだと思います。

ACIDMAN・大木伸夫  『中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2017』より  撮影=上山陽介

ACIDMAN大木伸夫中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2017』より 撮影=上山陽介

──僕は本質的に、オンラインはリアルライブの代替品にはなり得ないと思うんですね。

松葉:絶対そうです。

──その反面、リアルではどうしても実現できないようなことができたり、違った楽しみ方があったりする。そういう意味では前向きに捉えるべきだなと思っていまして。ACIDMANは7月のリアルのライブを中止して、オンラインに切り替えたわけですが、配信ではどんな表現の形を目指すんでしょうか。

大木:まず2つあって。1つは、リアルライブをそのまま配信することはやめようと思ったんですよ。今回はさっき言ってくれたように配信ならではの、配信でしかできないようなことにしたくて。映像スタッフさんとも打ち合わせしてアイディアをいただいたりして、MVとまではいかないけど一つのアート作品として挑んでいきたい。7.11はそういうアート寄りのものを考えてますね。普通のライブが観れないから泣く泣く配信で観るというようなライブでは、経験上、僕はちょっと飽きてしまうというか。

松葉:うん。その通りですね。

大木:もう一つは、たとえば普通のライブにどうしても行けない人──東京公演に行きたいけど時間が作れなかったり、そこまで行く費用がなかったりとか、小さいお子さんがいるとか身体が不自由だとか、これからはちゃんとそういう方に、お客さんの入ったライブも配信していくような形が育てばいいなと思います。その2つが両軸で伸びていってほしい。

松葉:僕らとACIDMANは一緒に台湾の『メガポートフェスティバル』っていうフェスに行ったことがあって、2000人キャパくらいの2ndステージだったんですけど、パンパンになったんです。そういうお客さんが海外にもいるとなると、今後の配信ライブの観客は日本だけじゃなくなくなってくるだろうから、リアルのライブと並行して育てることは、アーティストにとっての可能性を伸ばせることにもなると思います。フジロックとかにも毎年アジアからたくさん来ていたり、日本のエンタテインメントをみなさんも欲しているから、配信ライブは海外のお客さんがより近くなるツール、メディアでもあると思います。

大木:もちろんリアルライブがナンバーワンという前提ですけど、「映画とスポーツ観戦とライブ観戦」みたいな、家で楽しめるものの一つとして、もっとアーティスト個々でできるようなシステムになって、気軽にできるインフラになっていけばいいと思いますね。なんというか、お金をかけて素晴らしいものを見せたら、それはすごいものに決まってるんだけど、お金をかけなくても配信で“良いもの”を観せられるようなスタイルも作っておかないと、みんなが出来なくなってきますよね。本当、100人ぐらいの売り上げでも成り立つような新しい仕組みを作っていかないと、若いミュージシャン達はできないなとも思っているので。

──たしかに。若手や活動規模の大きくないバンドのことを考えれば。

松葉:その点でいうと、僕がやろうとしているこのLIVE LOVERSっていうポータルサイトは、サイト自体にスポンサーがついたりという仕組みづくりをしたいと思っているので、自分たちで映像スタッフを集めて入れたりできないような、100人規模のアーティストからの相談も、バンバン受けたいと思っていて。とにかくみんながちゃんと動ける体制を作りたい。そのためのバックアップ体制としていろんなパートナーに協力してもらって、ポータルサイトという体を作りたいなと思ってますね。

──何組か集まったショーケースのような配信とかもありえてきます。

松葉:そういうのって、自分一人だとできないじゃないですか。カメラマンのギャラをどうするんだ?みたいなことにもなってくる。そこは僕らのメディアとしての役割だと思っているから、直接的な支援というよりも、ある程度バックアップしてアウトプットの支援をしてあげることで、彼らがちゃんと活動できるようになればいいなと思います。

──最初におっしゃっていた、テクニカルのスタッフさんの稼働の確保にもつながりますね。

松葉:そうですね。いろんなスタッフが入った形の無観客ライブを積極的にやらなくちゃっていう思いです。

──配信ライブというフォーマットとの向き合い方、フェスの場合はどうでしょうか。ライブハウスとフェスとではお客さんの求めるものも違う部分はあって。

松葉:フェスはね、今めちゃくちゃ悩んでいます(苦笑)。この記事が出る頃には『中津川 THE SOLAR BUDOKAN』をハイブリッドでやりますっていう告知を出すんですけど、実際、何が正しいのかはすごく悩んでいて。今まではみなさん持ち時間45分とか50分とかの時間があって、それがまとまってタイムテーブルになってたんですけど、オンラインフェスでタイムテーブルを発表しちゃうと、オンラインの特性上PCの前やスマホの前を離れられちゃうんですよね。自分の好きなところしか観ないっていうリスクがあって。
でもフェスってやっぱり、興味がなかったものに出会えるサプライズが面白いと思っていて。本当はこの人を目当てに行ったのに、通りがかりで観た◯◯さんのライブがすごく良かったからファンになる、みたいな出会いの場所。大木くんがさっき言ってくれた世代やジャンルの違いがあるフェスを僕が今までやってきたのも、出会いのサプライズが作りたいからなので。

──なるほど。

松葉:だったらもう少し色んな演出があったり、ある程度のことは決まってるんだけど、ひょっとすると見逃してしまうかもしれないからしっかり観ておこう、というような見せ方もできるんじゃないかと思っていて、現時点では本当に悩んでいます。僕自身もすごく音楽ファンだから、ロングセットをただ中継しているだけのオンラインフェスっていうのは違うなと思うし、そこをどうやって構築していくのかっていうことと、アーティストのみなさんとマネジメントのみなさんとどう向き合って話していくのか。なんとか9月までに結論を出さなきゃいけないんですけど。ただ、オンラインでフェスをやってみるというトライは面白いし、頑張ってやりたいと思います。

──フェスって、ひたすらライブを観続ける楽しみ方もあれば、会場そのものを楽しみに来てる場合もあるじゃないですか。そのあたりも容易に配信で代替できない要因ですよね。

大木:そういう“体験”こそ本当に難しいですね。空気感じゃないですか。だから、技術があるならですけど、たとえばVRカメラを持った人が何人かいて、音楽ばっかり観る人のVRや、ご飯を買いに行く人もいたりとかすると、疑似体験できるじゃないですか。ちょっとだけ空気感を感じられるというか。

松葉:そう。そういう没入感だよね。

大木:それをインフルエンサーみたいな人がやってたりすると、その人と一緒に体験できて、その人の好きな音楽を自分も観れる。そういうチャンネルがあるともしかしたら面白いかもしれないですね。

松葉:あの中津川の会場に行ったことがある人からすると、「やっぱりあそこの風景はこんな感じだよな」っていう。単純にアーティストの演奏が観れるっていうことだけじゃなくて、どこまで疑似体験ができるかっていうことは重要だと思います。

大木:そうなんですよね。あの気球が上がってる景色とか、歩いてる場所とか、あれがやっぱりフェスの良さですよね。

──アーティストにはステージから見る中津川の景色というものがあるでしょうしね。

大木:あります。もうそれも配信しちゃうとか。アーティスト全員にGoProつけさせて(笑)。歌ってるアーティスト目線もいいし、お客さんも誰か選んでつけてもらって。そういうグチャグチャした感じもいんじゃないかと思いますけどね。

松葉:たしかにアーティストにGoProつけさせるっていうのは面白いな(笑)。誰もやってないし。それぐらい、今までのテレビ中継とは全然違うような体験になるものを、今回僕らはトライしてみないと面白くないなと思っているので。せっかくこうやってサイトもスタートさせて「やろう!」ってなっているわけだから、いろんなアイディアをみんなで出し合って一緒に作っていくことになるんだろうなと思う。いろんなバンドのマネジメントとも話をしてるんですけど、「お客さんが目の前にいないと演奏できません」っていうバンドもいっぱいいるんですよ。だから今の状況でどうやってフェスをやるかっていうのは大きな問題で。

ACIDMAN  『中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2017』より  撮影=上山陽介

ACIDMAN中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2017』より 撮影=上山陽介

──僕らがステージの様子を配信でも観ることができるように、ステージからも画面の向こう側のオーディエンスが見えたり、視聴者の声が届くような仕組みができると画期的ですよね。仮想空間にアバターを送り込んで、擬似的なライブ会場の様子を双方向から見られるような技術も開発されるような話を聞きましたし。

大木:なるほど。全面LEDでお客さんがアバターとして入るような場所があれば、めちゃくちゃ良いと思いますね。5Gになってどこまでやれるかわからないですけどディレイするから、1秒遅れるだけで難しいことなので、コンマ何秒で反応できるようになれば可能になっていくと思いますね。

松葉:その話はみなさんと話してても出てきますね。「お客さんの反応って生かせる方法ないんですかね」って。なかなかそこには答えは出てませんが……投げ銭みたいなものが“見える”とかっていうのも、ちょっと違うでしょ?

大木投げ銭だと後から金額を見るという、お金としての楽しみの方が(笑)。リアルのウワーッていう歓声は秒速でくるから、仮想空間でみんながアバターでもいいからそこにいるような、歓声が来たりする技術の方ができたら素晴らしいと思いますね。

松葉:オーディエンスのスマホとかのマイクを活かして、家の中で声が出せるかはわからないけど、そこでの何千人何万人の声とかがミックスされてモニターから返ってくるようなことができるなら、いま皆さんが言っている「観客がいない前ではいつもと同じテンションでライブができないよ」っていうところが、ひょっとしたら緩和されていくかもしれない。それはそれで素敵だと思いますね。

大木:確かに。実は「これからはグッズをアバターで売れる」っていうのは、10年くらい前から俺も友達と話してたんですよ。そういうことも加速するんじゃないですかね、このコロナの影響で。
俺らの世代だと形に残らないものにお金を払うって信じられないけど、いまの子供達の遊びを見ていると、『フォートナイト』もそうだけど、ただ主人公の服を変えるためにお金を使いたがるっていう、新しい価値観の考え方だと思うので。でも冷静に考えると、たとえば500円で新しいTシャツを買ってきて物が増えるより健全で、スペースは減らないけど、本人の満足度は高い。

松葉:消費っていうものの考え方としては変わらないのかもしれないよね。

大木:そうそうそう。物は大事にするんですけど、物が増えることにはならない。デジタル上のTシャツを買うことで、ちゃんと普通のTシャツを買ったのと同じ満足度を得られる世代が、もう育ってきているので。

──話はちょっと戻るかもしれませんが、今年の『中津川 THE SOLAR BUDOKAN』が選択したリアルと配信のハイブリッドというスタイルは、「やる」か「やらない」か、「リアル」か「オンライン」かだけじゃない選択肢の提示でもありますよね。それは業界全体としても、コロナ禍から元の状態に戻る上で必ず通らなければならない道だと思うんですが、現時点ではどういうミックスの仕方を考えていますか。

松葉:まず、現地の中津川でのライブはやります。基本的にそこにお客さんは入れられるとは思います。でも人数に関してはそのときの社会情勢にすごく左右されるし、地元の方々の気持ちもあると思うので。愛知から来ているお客さんが圧倒的に多くて、大阪や東京から来る方もいるから、地元の中津川市の住民以外の方も来ることを考えると、どれぐらいの入場ができるのかは今の時点で明言できなくて、それが見えてくる時期にリアルのライブの規模も見えてくると思うんです。どこまでできるか分からないですけど、現地に大人数が集まってない中でできる、最大限のエンタテインメントって何だろう?っていうことですよね。
僕はオンラインでやるということに関しては、今まで『中津川 THE SOLAR BUDOKAN』に来たことがない人、他のフェスに行く予定だった人たちに、オンラインで参加してもらえる可能性もあると思っていて。だからオンラインでも充分楽しいコンテンツを用意しなきゃいけないなと思っていますね。

──最後に、ACIDMANのファン、中津川はじめフェスの参加者の方達に、いま伝えたいことがあれば、ぜひ。

松葉:僕は多分、大木くんが今やろうとしていることが雛形になる気がしていて。大木くん世代のライブバンドはまだオンラインライブを本格的にやるっていうビジョンに切り替えられてない部分があるんですよ。そういう意味で彼らも大木くんがやってくれることにすごく期待してると思うし、7月のライブはこれまでACIDMANのリアルのライブを観たことのなかった人も、絶対観た方がいい。すごく面白いことが始まるトップランナーになるんだと思います。

大木:ありがとうございます。この間、今回配信する場所にロケハンに行ってきたんですけど、まず一番感じたのは、その場所でやることが楽しみでしかなくなったんですよ。同じ話ばっかりになっちゃうけど、生ライブができないからやるっていうこととはもう完全に頭が切り替わって、一つのアートを作るんだ、ここでPVを作るんだっていう感覚。自分が楽しみになれたのがまず一番嬉しくて、普段ライブでできなかったあんなことやこんなことが山ほどできるんだなっていうことがアイディアとしてあるので。新曲の「灰色の街」発売記念ライブではあるけれど、普段のライブに行けないから観るものではなく、新しいアートやエンタテインメントとして驚かせることができると思うので、気軽に観に来てほしいですね。


取材・文=風間大洋

ACIDMAN 『中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2017』より 撮影=上山陽介