緊急事態宣言が全国で解除された。新聞各紙でこれから必要なのは「コロナ対策」の検証だろう。実際そういった記事も出てきた。

 あ然としたのはこちら。

「布マスク『質より量』迷走」(朝日新聞6月1日

 関係者らの間では、今回のアベノマスク配布計画が第2次世界大戦中の日本軍による「インパール作戦」にたとえられているというのだ。

《司令部がずさんな作戦を強行して多くの犠牲を出し、「大戦中最も無謀」と呼ばれた作戦だ。》

「量だ。とにかく早くほしい」

 記事には無謀の数々が載っていた。まず2月後半、最大の受注企業となる「興和」の三輪芳弘社長は政府の担当者から「量だ。とにかく早くほしい」と言われた。そのため興和の従来からの検品方法は政府側が断った。不良品が出るはずである。

 こうした経緯は異例の契約にもつながり、隠れた不具合が見つかっても興和の責任を追及しないとの条項が入った。

《「15層のガーゼを5層に減らし3枚分つくれないか」。興和には、政府側からこんな品質を無視した打診もあったという。》

 そして4月1日、首相は1世帯に2枚ずつ布マスクを配る計画を表明する。

マスク確保に動いた政府関係者の多くは直前まで知らされなかった。必要な人向けでなく一律に配布するという計画に、官僚の一人は「耳を疑った」と話す。》

 その結果何が起きたか。配布開始の直後から見つかった異物混入や汚れである。

《政府も約8億円かけて別の業者に検品を依頼し、配布の遅れにつながった。》

 無理と無駄の連続。

 元はと言えば「全国民に布マスクを配れば、不安はパッと消えますから」という首相への官邸官僚の“進言”がこの結果を招いた。「インパール作戦」の責任をどうするのか。

安倍首相「そんなに30万円給付って評判悪いの?」

 首相と官邸官僚の浮世離れ感がうかがえるのは読売新聞「『政治の現場』危機管理5」(5月31日)にも。

 不評だった「世帯30万円給付」時のエピソードが載っている。4月14日自民党幹事長代行の稲田朋美氏と総裁特別補佐の高鳥修一氏が官邸に安倍首相を訪ねた。

《党内の空気を伝える2人に、安倍は驚いた顔で「そんなに30万円給付って評判悪いの?」と3回も繰り返した。》

 不評は首相の耳には入っていなかったのか。これだけでも十分読みどころがあるのだが、

《以降、稲田と高鳥は安倍の求めで、交互に定期報告に入るようになった。「党内の正しい情報」(首相周辺)を耳に入れるためだ。》というのも感慨深い。お気に入りのご注進しか耳に入れないシステムは、変わっていないのだろうか。

 首相と周辺の官邸官僚。そこでさまざまな「判断」が決まっているらしいのだが、決定的だったのはこれ。

「首相の決断 菅氏不在」(読売5月26日

 これは先ほどの読売の「『政治の現場』危機管理」第1回のテーマである。

 今回のコロナ対応で首相が危機対応で前面に立つほど、菅氏との距離が広がったという。

《安倍が2月下旬に学校の一斉休校を打ち出した際も、菅は蚊帳の外だった。官邸幹部の一人は「首相は政権終盤で自分の思い通りにやりたくなったのだろう」と推し量る。昨秋の内閣改造以降、菅に近いとされる閣僚が複数更迭されたことで、安倍と菅の距離が広がったともささやかれる。》

検察庁法改正案「首相も強い思い入れはなかった」

 そういえば気になることがあった。あの黒川定年延長問題である。検察庁法改正案が見送りになった先々週、新聞各紙で同時多発的に載った「声」は「そもそも安倍首相には思い入れがなかった」という奇妙なものだった。

《首相も強い思い入れはなかった(政府関係者)。》(読売5月19日

《首相周辺は「改正案はもともと必要がない」と冷ややかで、》(毎日5月19日

 たしかに黒川氏と実務的なつながりがあるのは菅官房長官だろう。実際に菅案件なのかもしれないが、黒川氏の賭けマージャン報道で見送りとなった途端のこれらの情報の数々には注目したい。

 首相周辺による「あれは菅さん案件だから」という情報戦の可能性もある。ここで想像できるのは「安倍官邸官僚と菅官房長官」の官邸内における攻防である。

官房長官の人生相談「プロジェクト内の部下が不仲」

 ここで、ある雑誌のコーナーを紹介したい。

 菅氏が答える人生相談である。もともと読売の「人生案内」を読むのが日課だと公言していた菅氏がこの春から「プレジデント」で人生相談コーナーをはじめたのだ。

 これは菅氏による「令和おじさんもう一度キャンペーン」だと私はにらんでいる。世の中に好感度を上げつつ、独自の発信をしないといけない時期という判断があったのではないか。もしかしたら焦りも。

 最新号の第3回(6月12日号)はどんな相談に答えているのか。ページをめくった私は仰天した。

 読者の「お悩み」は、《プロジェクト内の部下が不仲。上司としてどうすべきでしょうか。》

 な、なんと! 今の菅氏の立場そのものではないか! うわー。

 で、この相談に菅氏はどう答えたか。

《「お答え」 時には「嫌われる勇気」が必要です。リーダーが「いい人」では物事が進みません。》

 ああ、これは自分を鼓舞するため!? それとも首相周辺へのメッセージ

「面倒事の押し付け合いは、どの組織にある」という小見出しにも注目したい。これはやはり自分への相談なのだろうか? このコーナータイトルは「菅義偉の戦力的人生相談」であるが、まさに戦略的にしか思えない行間である。

SNSでの「誹謗中傷」と「批判」

 さて「スピード感」とか「真摯に」とか「空前絶後」とか、言葉のインフレ化がすすむ政府だが、先週の気になる動きがSNSに関するもの。

 フジテレビ系の「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラーの木村花さんの急死にはSNSでの誹謗中傷が関連していると言われている。

プロレスラー木村花さんの死去を受け、高市早苗総務相は26日、発信者情報の開示を定めるプロバイダー責任制限法について「制度改正を含めた対応をスピード感を持ってやっていきたい」と述べ、検討を急がせる考えを示した。》(朝日5月27日

 自民党は、《インターネット上での誹謗(ひぼう)中傷対策を検討するプロジェクトチーム(座長・三原じゅん子党女性局長)を発足させた。》(毎日新聞WEB5月26日

 ここで気になるのは、規制強化も検討されるうえで、「誹謗中傷」と「批判」を区別する判断を誰がやるのか、ということ。不安ではないか。実は現政権内に気になるお手本がいる。河野太郎防衛大臣である。

「公人がブロックOK? 河野外相ツイッター閲覧妨害」(東京新聞2019年7月20日

「河野大臣とブロック」について書かれた記事なのだが、河野大臣はクソリプで絡んできた人だけでなく、自分に批判的なツイートエゴサーチして見つけて多くの人をブロックしているらしい。そのなかにはジャーナリストもいる。

 ブロックを多用していることについて会見で問われた河野防衛大臣は「誹謗中傷している人には遠慮いただきたい」と説明した(毎日新聞2019年9月14日)。

 誹謗中傷と批判を「勝手に」権力者が判断しているのである。

 批判する側をブロックしたうえでツイッターを活用する河野大臣。

 先週のブルーインパルス飛行の際は、

「河野防衛相『#みてくれ太郎』でブルーインパルス写真呼びかけ 実況ツイートも」(デイリースポーツ5月29日

 こういう巧妙なツイッターの使い方を見ると、あのブルーインパルスは医療従事者への敬意と感謝だけではなく河野大臣のツイッターを盛り上げるため? という茶々も入れたくなる。

河野氏「プロセスどうでもいいだろうと思う」

 こんな記事もある。

ブルーインパルス感謝の“航空ショー”は誰の発案?」(日刊スポーツWEB5月30日

 防衛省は誰の発案で、いつ決まったのか明らかにしていない。

《「プロセスどうでもいいだろうと思う」フライトを直前に控えた当日の記者会見河野太郎防衛相は概要や趣旨を説明する傍ら、誰が発案したのか問われると、こうはぐらかした。》

防衛省幹部は「公表直前まで知らされなかった」とこぼした。別の防衛省幹部は「政治利用ではないかとの批判を警戒しているのだろうが、誰がどう決めたのか説明しないと臆測が広がりかねない」と話した。》

 このあと批判が強まると、

ブルーインパルス都心飛行『私が指示』 河野防衛相がブログで明かす」(毎日新聞WEB6月1日

河野太郎防衛相は1日付のブログで、航空自衛隊のアクロバット飛行隊「ブルーインパルス」を都心上空に飛行させたのは、自身の指示だったことを明らかにした。5月29日記者会見では発案者について問われたが「やるということが大事なのでプロセスどうでもいいだろうと思う」と明らかにしていなかった。》

 では聞きたいが「プロセスどうでもいいだろうと思う」と当初述べたのはどんな気まずさからだったのか。自分及び自分のツイッター人気のための姑息な理由は本当になかったのか。

 あらためて「#説明してくれ太郎」でお願いします。

(プチ鹿島)

安倍晋三首相 ©︎AFLO