2019年3月のメジャーデビュー以降、数々のドラマやアニメのタイアップ曲を発表してきたmiletが初のアルバム『eyes』を6/3(水)にリリース。海外でも高い人気を誇るロックバンド、ONE OK ROCKのギタリスト・Toruをはじめ、楽曲によって複数のアーティストと曲を共同制作する、今世界的に主流の「コライト」方式によって生まれた良質な楽曲が18曲の大ボリュームで収められている。

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「デビューから1年の間に、気付いたらEPを5枚出していて。そこに入っている曲と、出したい曲をどんどん入れていったんです。でも本当はもっと入れたかったんですけど(笑)。コライトだからできることでもあると思います。何人かのアーティストの方と同時進行で複数の曲を作っていることもありますし。Toruさんとも、ドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』(フジテレビ系)のオープニングテーマの『inside you」を作りながら、アルバムの最後に入ってる「The Love We‘ve Made、曲ごとに色々なアーティストの方に参加してもらって、私はメロディーと言葉をどんどん出していって、自分の好みを伝えて、お互いやりたいことが合致するよう作ってます。だから、曲によって違うプロデューサーだったとしても、私の好きなものを理解して音に反映してくれているので、バリエーションがありながら統一感のある1枚になってると思います。曲作り中は、プロデューサーにイメージを伝えるのが難しくて、困らせてしまう事も多いです(笑)。でもいつも私の気持ちを汲んでくれるので、本当に助かってます」

 カナダで長く生活していたこともあり、昔は歌詞を英語で書き、曲によって部分的に日本語に差し替える書き方をしていたが、日本でデビューするにあたって、日本語で書くスタイルに変わったという。

「浮かぶ景色もガラッと変わったんです。前までは昔住んでいたカナダのダウンタウンを想像しながら曲ができていたりしたのに、今は日本の高速道路が浮かびながらできる曲もあったりして。そうすると生まれる音も変わったり、大半が英語の歌詞に囲まれた曲の日本語詞の発音と日本語だけ曲の発音が違ったりして。メロディーを作るのと同時に、バックのハーモニーも浮かんだりするので、全体の重なり方も考えながら作ってます」

日本的なワビサビも感じさせながら、洋楽感もあり、バランスが絶妙な無国籍サウンド。英語と日本語が混じり合う歌詞は、ひたすら繊細な心の動きを綴る。ハスキーで音との調和を重視した中性的な歌声も相まって、世代も国籍も限定しない、高い普遍性がある曲ばかりだ。

「木で言ったら幹の部分だけ私が歌って、枝先は聴いた人が好きに想像してほしいんです。どんな実がなってて、どんな形の葉っぱで、どんな色をしているのかって。『この作品は自分のことだ』って思える作品こそ近くにおいておきたい歌や映画だったりする。私もみんなが自由に出入りできる隙間のある作品が作りたいんです。幹が同じだから、どの曲も歌ってることは近いですね。トラックの色や声色で景色がどんどん変わっていくのが歌のおもしろいところ。最近は不安と孤独が幹になってることが多い(笑)。常に不安と孤独は感じてるし、自信もそこまでないし。でもそれだけだとただの抜け殻みたいな人間になっちゃうので、自分を立ち上がらせるために歌っているところもあります。歌は味方(笑)。どんな状況にいても否定されないって思う。でも楽しい方が人生幸せなこともわかってるので、ドン底の気分にいたとしても希望をつかみたいって気持ちはやっぱりあります。自分自身を押し上げられる歌って人の背中も押してあげられる曲だって思うので、見えないけど、どこかで私と同じ不安と孤独を抱えている人がいるとしたら、希望を届けたいんです」

■ ひとりで死ぬほど悩んだ人が好きなんです

 本格的に音楽活動を始めたのは2018年。その不安と孤独感はデビューするにあたり、どう変化したのだろうか。

「前から持ってたものではあったけど、デビューする前はまだ心地いいって思える孤独感だったんです。ひとりは楽でもあるし、自分の弱さや欠点を認めざるを得ないときに、『嫌だ』って思っても、認めた瞬間に自分の穴にすぽっとはまれた感覚があったんです。言葉にするのは難しいんですけど、自分を認めてあげられたというか。孤独な気持ちも不安な気持ちも、もちろん嬉しい気持ちも、それぞれが全部私っていう結論に至った。それこそ人それぞれなんだから、私は情緒不安定でも良いって (笑)。でも曲を作るのが趣味じゃなくなって、自分の孤独を見据えて曲を作らないといけないって感じるときがすごく多くなって。それで苦しいときもあったりしますね(笑)」

 アルバム『eyes』は、不安と孤独を感じさせながらも、前進しようというエネルギーが貫かれている。茨の道を歩きながらも、ラストに収められている「The Love We‘ve Made」では、大きな愛にたどり着く。

「結構曲の方向性がバラバラなので、曲順を考えるのは大変だったんですけど。『Fire Arrow』でちょっと落ちてから、平和に締めくくりたいなって思って、『The Love We‘ve Made』を最後にしました。この曲で歌っている愛は、恋愛だけには限定したくなかったんです。そばにいる人との愛だったり、もしかしたらその場所にはいない人との愛かもしれないし、親子の愛かもしれないし。いろんな関係性に投影しても違和感のない、ほんとに普遍的な愛の歌だと思ってます。愛自体それくらい大きいものだと思うので」

音楽を始めたきっかけは幼少期のフルートとの出会いだったという。そんなmiletが影響を受けたアーティストとは? 

ベートーベンです。ひとりで死ぬほど悩んだ人が好きなんです。悩み抜いた人の音楽の重さは他には変えられないものがあると思っていて。ベートーベンの音楽は弦の軋み具合だけで感情を表現できる。極まっている音楽だと思うので、そういう音楽を目指したい。レコーディングしてる時、昔フルートをやっていた時の気持ちと重なるところが多くて。ビブラートひとつにしろ、声のかすれ具合にしろ、言葉も含めて全部を音として捉えてるところがあって。今まで聴いてきたり奏でてきた音が、全部私の声に繋がってるなって思います。だから歌詞も、深く意味を考えずに、ライトに音だけで楽しんでもらっても嬉しいですね」(ザテレビジョン・取材・文=小松香里)

ファーストアルバムをリリースするmilet