(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

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「中国政府の新型コロナウイルスの隠蔽工作は全人類に対する犯罪だ」

 イタリアの有力政治家によるこんな激しい糾弾の言葉が、欧米メディアで繰り返し報じられるようになった。

 中国の習近平政権が当初、新型コロナウイルスの感染拡大を隠し、感染の状況などについて虚偽の情報を流していたことに対しては米国でも多方面から非難が浴びせられている。だが、「全人類への犯罪」という激しい表現はなかなか見当たらない。なぜこれほど厳しく中国を糾弾しているのか。

中国は「全人類に対する罪を犯した」

 この言葉を発したのは、イタリアの前副首相で右派有力政党「同盟」の党首(書記長)、マッテオ・サルビーニ氏である。サルビーニ氏はイタリア議会などで次のように発言した。

「もし中国政府がコロナウイルスの感染について早くから知っていて、あえてそのことを公に知らせなかったとすれば、全人類に対する罪を犯したことになる」

「もし」という条件をつけてはいるが、中国政府がコロナウイルスの武漢での拡散を隠したことは周知の事実である。つまりサルビーニ氏は「全人類に対する罪を犯した」として明確に中国を攻撃しているのだ。

 4月から5月にかけ、サルビーニ氏は数回、同じ趣旨の中国非難を繰り返した。議会で次のように述べたことも報道されている。

「中国は新型コロナウイルスパンデミックを隠蔽することによって全人類への罪を犯した」

中国への接近策をとってきたイタリア

 サルビーニ氏は47歳のイタリア議会上院議員で、現在イタリア政界で最も注目を集める政治家の1人である。欧州議会議員を3期務めたあと、右派政党「同盟」を率いて2018年の総選挙で第三党となり、連立政権の副首相兼内相に就任した。2019年9月には内閣を離れたが、その後も活発な政治活動を展開してきた。

 ジュセッペ・コンテ首相が率いる連立政権は中国への接近策をとってきたが、サルビーニ氏は中国への接近を一貫して批判してきた。イタリアが中国の「一帯一路」構想に参加して、中国から技術者や学生、移民などを多数受け入れてきたことに対しても、サルビーニ氏の「同盟」は批判的だった。

 新型コロナウイルスイタリアで爆発的に感染拡大する直前の1月下旬、中国に帰って「春節」を過ごしたイタリア在住の中国人がイタリアに戻ってきた。「同盟」は、イタリアでの感染拡大を防ぐ水際対策として彼らの検査を行い、隔離することを提案した。だがイタリア政府はその種の規制を一切行わなかった。

 その後、イタリアで悲劇的な感染爆発が起こり、全国民の封鎖状態が長く続いた。6月頭時点で、感染者は累計23万3000人を超えて世界第9位、死者は3万3000人を超え、世界第3位を記録している。

 だからこそ、元々、中国への接近に批判的だったサルビーニ氏が激しい言葉で中国政府を糾弾するのはもっともだと言える。しかしそれでも中国政府に浴びせる「全人類への犯罪」という表現は過激である。

 米国や欧州の主要メディアは サルビーニ氏の発言を「中国への激しい怒り」の実例として報道するようになった。米国の有力新聞ワシントン・ポストは、4月中旬の「中国に対して怒っているのはトランプ大統領だけではない」という見出しの記事で、サルビーニ発言を詳しく紹介していた。ヨーロッパでも、イタリアのメディアに加えてイギリスフランスの新聞、テレビなどがその発言を伝えている。

 ヨーロッパ諸国のなかでこれまで中国に対して最も友好的な政策をとってきたイタリアでこうした激しい中国糾弾の言葉が発せられ、広く報じられるという現実は、今後の国際社会で中国が置かれる厳しい状況を予測させるともいえそうだ。

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