新型コロナ感染者が急増して「自粛」一色だった3月、4月の韓国。日本のようにスーパーが混雑することも全くなかったのはどうしてか。

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 ネット通販業者が急成長を続けていたからだ。消費生活を変えるとも言われた新興2社だが、倉庫で新型コロナ感染者が出てしまった。

 3月、4月のソウルの大型スーパーは、まさにガラガラだった。

 日本のニュースを見ると、在宅勤務や休校で「外出自粛」となり、家族全員が家にずっといることになり、食料品や日用品を買うためにスーパーが大混雑という。

 どうしてこうも違うのか。

外出自粛 スーパーもガラガラ

 暮らしているとすぐ分かる。筆者が住むマンションでも、同じフロアの住人の玄関前に置いてある宅配の箱が急に増えて大きくなった。

 ネット通販の利用が急増していたのだ。

 韓国はもともと、キャッシュレスの比率が高かった。ネット通販利用も日常化していたが、ここ数年、新興企業が急成長して、利便性を高めていた。

 そこに新型コロナの「巣ごもり消費」でさらに市場が拡大していた。

 ネット通販の牽引役となってきたのは、ここ5年ほどの間に設立されたばかりの2社だ。

 まずは、クーパン。2010年SNS企業として出発したが、2014年に電子商取引分野に進出した。米ベンチャーキャピタル(VC)から3億ドルを調達して事業基盤作りに乗り出した。

ロケット配送」という直接配送サービスが特徴だ。

クーパン」と派手なロゴが付いた配送バンを使って、「クーパンマン」と呼ぶ配達員が消費者に直接商品を届ける。

 速い、安い、親切を売り物に、急速に売り上げを伸ばす。

ソフトバンクが30億ドル投資

 爆発的な成長を支援したのはソフトバンクグループの巨額投資だった。

 2015年にまず10億ドルを投資、さらに2018年にはソフトバンクビジョンファンドが20憶ドルを投資した。合わせて30億ドルという超大型投資だった。

 この資金をクーパンは、物流センター建設と輸送網整備に投じる。

 クーパンの凄さは、創業以来、赤字が続いても豊富な資金を背景に投資拡大に邁進して、凄まじいほどに売上高を増やしていることだ。

 年間売上高は、2017年2兆6846億ウォン(1円=11ウォン)、2018年4兆3545億ウォン2019年7兆1530億ウォンと急拡大した。

 同じ時期に、営業赤字も続いた。2017年6388億ウォン2018年1兆1279億ウォン2019年7205億ウォンだ。

 だが、業界内には、赤字を懸念する声はあまりなかった。クーパンの事業を注意深く見ている他の財閥の役員はこう話す。

クーパンは創業以来赤字が続いても倉庫拡充など投資を続けたアマゾンのやり方を踏襲している。ソフトバンクの巨額投資を受けており、資金繰りに問題はない」

「売り上げの伸びは凄まじく、今でも投資を抑えればすぐに巨額の黒字を計上できる」

韓国最大のユニコーン企業

 韓国メディアによると、クーパンの企業価値はすでに90億ドル前後に達し、韓国最大の「ユニコーン企業」だという。

 このクーパンを追って2015年に創業したのが、マーケットカーリーだ。

 クーパンが、「何でも扱う」ネット通販なのに対し、マーケットカーリーは、「新鮮食品の即日配達」という特化した市場を攻めた。

 パン、サラダ、野菜、肉、乳製品、独自メニューの加工食品・・・すぐに食べられる厳選した生鮮食品などを選んだ。

 さらに、消費者を驚かせたのは、「早朝宅配サービス」。

 夜11時までに注文すれば朝7時までに自宅に届けるというサービスだった。単価は安くはないが、単身者や、比較的高所得者が多いソウル江南地区の消費者をつかんだ。

ソウル江南で忠誠度の高い消費者つかむ

 2018年1570億ウォンだった売上高は2019年4289億ウォンに急増した。

 マーケットカーリーの加入者は2019年末時点で390万人。再注文をする比率は60%を超え「忠誠度の高い」顧客をつかんでいる。

 クーパンとマーケットカーリー。韓国で急成長する2社の創業者は似たような経歴を持つ。

 クーパンの創業者は、金ボンソク氏。1978年ソウル生まれだが、父親が大手建設会社の海外事業部門に勤務していたため、幼少時代から海外で教育を受ける。

 米ハーバード大学で政治学を学んだあと、MBA(経営学修士)を取得、ボストンコンサルティンググループなどで勤務した後、起業した。

 一方の、マーケットカーリーの女性創業者である金スルア氏は、1983年に韓国南東部の蔚山(ウルサン)で生まれ、韓国有数の進学校、民族史観学校に文系首席で合格した。

 1年間在学した後、米国に渡り、高校卒業後、ウェルズリー大学に進む。

 クーパン創業者と同じく政治学を学んだ後、ゴールドマンサックス、マッキンゼーなどを経て起業した。

 5歳違いの2人は、ともに米国で教育を受け、米国でネット関連の新興企業が爆発的に成長する姿を見た。

 その後、投資銀行やコンサルティング会社で経験を積んだ後、韓国で起業した。

 韓国では、米国留学帰りの優秀な人材をサムスンなど財閥が吸収してきた。だが、最近は、堅苦しい韓国の組織文化を嫌い財閥を避ける若者も多い。

 この2人の場合、全く新しい価値観で自然に起業したかのように見える。

 マーケットカーリーも、投資資金の調達に成功し、倉庫や物流網の拡充に乗り出したが、2人とも、「アマゾン流」の経営で、事業基盤を固めている。

 そして、2020年。想像もしなかった新型コロナの流行で、両社とも販売がさらに伸びていた。

思わぬ感染者発生で批判浴びる

 そんな時に、思わぬ事態に見舞われる。

 5月23日と、24日に、何の偶然か、クーパン、マーケットカーリーの物流倉庫で相次いで感染者が発生したのだ。

 特に、クーパンの倉庫2か所では集団感染が発生してしまった。

 社内だけでなく、2次感染へと拡大し、感染者数は100人を超え、連日トップニュースになってしまった。韓国紙デスクが話す。

ネット通販の倉庫は、密閉した空間で多くの人間が働いている。さらに週末だけのアルバイトも少なくない」

「こういう人たちは、週明けには別の職場に戻り、感染者がそこで感染を広げてしまう例も出てしまった」

 特に、休憩スペースも「3密」で、感染拡大を止められなかったという。

 韓国ではこれまで、教会やコールセンタークラブなどで集団感染が発生し、防疫当局は警戒していた。

 さらに「物流倉庫」もリスクの高い空間だということが明らかになった。

 何しろ、利用者が多い2社だけに、一時は、「配達された商品は大丈夫なのか」などの不安が一気に広まった。

 また、5月末の週末には、ネット通販を避け、スーパーなどオフラインでも消費が増えたとの報道もあった。

それでも止まらない成長

 それでも、韓国内では「2社の勢いは止まらない」との見方が有力だ。

 ユーロモニターの予測によると、世界のEコマース市場規模を見ると、日本の市場規模は2019年892億ドルから2020年には940億ドルに成長する。

 一方で韓国市場は2019年840億ドルから2020年には990億ドルになり、「日韓逆転」になる。

 確かに、最近の勢いを見ると、韓国の成長ぶりは目を見張るほどだ。

 クーパンは今回の感染者発生後の対応で批判を浴びた。マーケットカーリーは素早く創業者が謝罪し、対照的な反応だった。

 だが、いずれの企業も、これを機に防疫体制の強化などを進め、「コロナの流行を機に、ネット通販の流れは止まらないだろう。2社の成長軌道が続くことは間違いない」(韓国財閥社長)

 一部で、食品関連など生活に直結する商品を扱っているので、集団感染者が出た影響を懸念する声もある。また、既存の流通業者はこれを機に2社の切り崩しに動いている。

 それでも勢いは止まらないとの見方が多い。それほど生活に入り込んでいるのだ。

 クーパンは、ソフトバンクビジョンファンドから調達した資金にまだ余裕がある。

 マーケットカーリーは最近、国内外投資家から2000ウォンの投資を集めることに成功した。

 韓国メディアは、2社について、海外進出や株式公開など今後の事業について様々な計画を報じている。

 財閥中心に成長をしてきた韓国の産業界だが、半導体などごく一部の分野を除くと財閥の次の成長分野が見えない。

 30代、40代の創業者が率いる2つのネット通販企業は、異彩を放つ存在である。

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韓国のソウル近郊・京畿道富川市にあるインターネット通販大手「クーパン」の物流センター。ここで集団感染が起きた(5月27日、写真:YONHAP NEWS/アフロ)