群衆に入り込む犯罪組織と左翼過激派分子

 ついに「火口箱(ほくちばこ)」(Tinderbox)に火がつき、米国全土が燃え上がっている。

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 40を超える都市で夜間外出禁止令が出された。知事や市長が民主党共和党かは関係ない。

 一部の州知事は州兵(National Guard)の動員を要請した。

 依然として感染拡大を続ける新型コロナウイルス禍に暴動拡大のダブルパンチで米国は50年ぶりに「戦時下並み」の警戒態勢に入った。

 発端は、中西部ミネソタ州ミネアポリスで白人警官が尋問中の黒人、ジョージ・フロイドさん(46)の首を押しつけて殺した犯罪行為だった。

 殺害現場の動画がSNSで全米、全世界に瞬時に拡散された。動かぬ証拠写真となった。

 ミネアポリスでは黒人たちのフロイドさんを弔うデモが自然発生的に起こった。抗議のデモは今も全米140都市で繰り広げられている。

 抗議デモの規模は、みるみるうちに膨れ上がった。参加者は黒人だけではなく、白人や他人種の若者へとその輪を広げている。

 当初、白人警官に対する抗議だったはずが、「怒りの矛先は白人至上主義で人種主義ドナルド・トランプ大統領に向けられている」(主要メディアの黒人ジャーナリスト)。

 州兵や武装した警官隊を見た群衆は一部で暴徒化した。

 群衆に紛れて犯罪組織や左翼過激派分子が破壊行為や窃盗行為を行っているとの情報が流れている。

 白人警官に抗議する黒人一般大衆とそれを束ねる公民権団体、それに同調する白人の若者、デモに乗じて窃盗を働く暴力組織、社会の破壊を狙う左翼過激派・・・。

 カリフォルニア大学バークレイ校の社会学者、P教授はこう言い切る。

「一皮剥けば、人種差別問題を発火点にした『トランプのアメリカ』に対する一揆だ。コロナウイルスの対応でもたつき、やっているのは勇ましい口先ツイッターだけ」

「熱狂的な白人保守層と対立する『分裂国家のもう一つの市民』がついに立ち上がった。これはこれまでのような人種差別反対だけの騒動ではない」

 長年、米国で生活する筆者にとっては、抗議デモが起こると群衆は暴徒化し、略奪が始まるのは見慣れた風景だ。

 だが今回のデモは、これまでのとは一寸趣が異なっている。参加しているのは黒人だけではない。老若男女、白人の姿も目立つ。

 ロサンゼルスの状況を取材してみて気づいたことがいくつかある。

 1992年ロサンゼルス暴動の時、デモが暴徒化し、略奪が始まったのは市内の低所得層居住地、サウスセントラル地区あたりからだった。

 今回略奪された地域は、市内のダウンタウン、高級店が立ち並ぶウイルシャー通りやサンタモニカ地区だ。

 狙われたのも雑貨・食料品店ではなく、携帯電話を扱うスプリントやベライゾン。金目のもので現金化しやすい商品を売っている店ばかりが軒並みに略奪された。

 シアトルでも略奪されたのはアウトドア・ショップや高級靴店だ。

 ロサンゼルスでの取材経験豊かな日系ジャーナリスト、H氏はこう分析する。

ロサンゼルスの場合、かつてのように発火点は低所得層居住地ではなく、富裕層が買い物する高級商店街」

「しかも狙われた地域は市内を横断する地下鉄の駅やバス停に近い。参加者の多くは地下鉄やバスといった公共交通機関を利用して集まったのだろう」

「今回の抗議デモは確かに黒人公民権団体が呼びかけたが、略奪行為の中には犯罪組織による計画的な窃盗行為もあったのではないか、と思う」

「放火や破壊行為の手口も手慣れている。背後にプロの過激派グループがいたとしても不思議ではない」

地下シェルターに逃げ込んだトランプ氏

 トランプ大統領は軍に出動態勢をとらせる一方、極左過激派組織「アンティファ」(アンチファシスト)をテロ組織として認定した。

 トランプ大統領6月1日のテレビ演説で略奪行為を「国内テロ」と非難し、外出禁止令違反には厳しく対応する方針を示した。

 抗議デモはただ黒人市民だけでなく、機に乗じた「アンティファ」が背後で操っていると判断したからだろう。

 当初は黒人がほとんどだった抗議デモ。その後、白人の若者たちの姿が目立ち始めた。

 新型コロナウイルス禍による失業者もいれば、大学が休校になり、ヒマになった学生もいる。

 トランプ氏は、その群衆の中にに極左分子が入り込んでいるというのだ。

 ツイッターでは強気の発言を続けるトランプ大統領。だが5月31日には夫人ともどもホワイトハウス内の地下にあるシェルターに逃げ込んだ。

 黒人も白人も叫ぶスローガンはただ一つ。

「I can't breathe」(息ができない)

 フロイドさんが死の間際につぶやいた一言が市民たちの合言葉になっている。

 米主要メディアの白人論説記者の一人は筆者に吐き捨てるように言った。

ドナルド・トランプに対する黒人の積もり積もった怒りがこの殺人事件をきっかけに爆発した」

「トランプが優遇してきた白人優越社会への報復だ。常日頃から黒人は白人警官をトランプの手先と見ているからだ」

「手当たり次第に商店を襲撃、火をつけ略奪しているのは、商店主たちもまた白人エスタブリッシュメントの一員だとみなしているからだろう」

「市民は米社会の構造的な人種差別への憤りで外に出たが、そうこうするうちにこれまで抑えてきたトランプ政治全体への怒りに火がついた」

「今直面しているすべての現実への不満を爆発させ始めた。そのことをトランプは分かっていない」

日本人の疑問:
米国のデモはなぜ放火、略奪となるのか

 無抵抗な黒人を尋問中に窒息死させてしまう。それが個人のスマートフォン動画で全世界に流れた。証拠十分でまさに現行犯だ。

 それでなくとも白人警官により殺された黒人の数は年間235人(2019年)。白人は370人。だが、黒人の人口は13%。人口比で計算すると黒人死者は白人の3倍になる。

 自分の主張を公の場に出て表現する自由が徹底している米国。世間体や他人がどう見るかなどは米国人のメンタリティーの中にはない。

 一人の黒人が白人に殺された。米国の警官は日本のように社会秩序を守る「公僕」とは程遠い。その認識が薄い警官も多い。

 しかも銃が野放図な中にあって、米国の警官は自分の判断で自由に容疑者や不審者に銃口を向け、射殺できる権限を持っている。

 常に憎しみ合う黒人と白人警官の関係は尋常ではない。

 銃も持たない無抵抗な黒人市民が白人警官に殺されたという現実は、おそらく他の人種には分からない。いつ殺されるか分からないという恐怖感だ。

 それだけに今回、黒人の鬱積していた怒りが爆発するのは理解できる。

 これを力で抑えつけようとすれば、黒人たちは投石し、パトカーに火をつける。「戦場」化すれば隙に乗じて商店を襲い、商品を略奪する。いつものパターンだ。

 1992年4月29日に発生したロサンゼルス暴動の時も同じだった。

 この時は、前年3月のロドニー・キング氏に対する警官暴行事件での裁判で警官が無罪となったことがきっかけだ(キング氏はその後、何度か警察沙汰となる事件を起こして2012年に自宅のプールで溺死した)。

 抗議デモは暴動化し、放火や略奪になった。一部の黒人は日頃から犬猿の仲の韓国人が経営する食料雑貨店を狙った。

 韓国人ベトナム戦争帰りの武装した韓国人退役兵士を雇って自衛した。何の罪もない黒人の女の子が店に入ろうとしたのを見た韓国人はそれを見て、射殺した。

 黒人の怒りは白人警官から韓国人に向けられた。黒人の韓国人嫌いは今なおその後遺症として残っている。

 抗議デモ→放火、略奪。日本人のメンタリティーでは分からない点だが、ロス暴動を現場で取材したこともある、日系記者の一人、E氏(63)はこうコメントする。

「暴動に限らず、自然災害の際にも暴徒化した市民は略奪する。起こらないのは日本ぐらいなものだ、と米メディアはいつも書いている」

「確かに米国は超大国で豊かな国だが、貧富の差は開発途上国に勝るとも劣らない」

「米国各地には『第三世界』と同じような低所得層社会が点在している。それは南部、中西部、西部、東部変わりない」

「何か起きれば、商店から略奪する。あのメンタリティーは米国内の低所得層で生活に喘いでいる者にとっては『特権』のようなものなのかもしれない」

「略奪が始まれば、射撃も始まる」

 トランプ大統領は抗議デモが暴徒化していることに5月29日午前0時53分、ツイッターにこう書きこんだ。

「無能で極左のジェイコブ・フレイ市長(ミネソタ州ミネアポリス)がしっかり事態を収拾するか、私が州兵を適切に派遣するか、どうかだ」

「これら悪党(暴徒化した市民)は死亡したジョージ・フロイド氏の名誉を傷つけている。私は看過しない」

「先ほどティム・ワルツ知事(ミネソタ州)と話をし、軍が最後まで付いていると言っておいた」

「我々はどのような難局でも収拾する。略奪が始まれば(治安当局による)射撃が始まる(When the looting starts, the shooting starts.*1)」

*1=1967年、マイアミで起こった抗議デモを鎮圧しようとした同市警のウォルター・ヘッドリー警察署長が口にした名セリフ。翌年、民主党大統領候補だったジョージ・ウォレス州知事(アラバマ州)はこれを真似た。トランプ氏はそれをまた猿真似したもので、オリジナルではない。

https://www.nbcnews.com/politics/congress/where-does-phrase-when-looting-starts-shooting-starts-come-n1217676

 ところがこの猿真似発言が黒人はもとよりリベラル派から激しい批判を浴びた。

 この発言以降、事態はさらに深刻化している。尖鋭化する抗議デモを沈静化するどころか逆に焚きつけている。

アジア系と結婚していた白人警官

 手錠をはめられ地面に腹ばいにされ、「息ができない」と懇願するフロイド氏の首を膝で圧迫し殺害した白人警官、デレク・シャービン(44)は警察勤務19年のベテランだった。

 これまでにも逃亡する容疑者を射殺することが何回かあったという。

 DV(ドメスティック・バイオレンス)を受けているという女性の通報を受けて出動し、トイレに隠れていた夫を銃で撃って重傷を負わせるなど札付きの「暴力警官」だったらしい。

 シャービンはかつてラオス出身の看護婦(結婚後、ミセス・ミネソタに選ばれている)と結婚しており(現在はすでに離婚)、アジア系に対して人種的偏見はなかったようだ。

 実は、殺害の瞬間、他の3人の警官の姿も映っている動画もあった。

 そのうち2人はアジア系の男だった。フロイド氏が死にそうだというのにシャービンを止めることもなく、ただ突っ立て見ているだけだ。

 アジア系の男のうちの一人の名前はトウ・タオ。両親はラオス出身の山岳民族「モン族」*2Hmong)でれっきとしたアジア系だ。

 あとの2人はJ・アレキサンダー・クエン(モン族)と白人のトーマス・レーン。

*2=モン族はラオスカンボジア、タイなどの国境地帯に住む、山岳民族。ベトナム戦争時には人口の半分がタイなどに越境。米国には難民として移住。戦争時、米中央情報局(CIA)がモン族外人部隊を組織・参戦させ、その見返りとして米国の永住権を与えている。現在26万人が米国内に住んでおり、カリフォルニア州サンノゼ(9万人)やミネソタ州ミネアポリス(7万人)に密集している。

 事件発覚後、ミネアポリス市警は4人を即刻解雇している。しかし、逮捕、起訴されたのは目下シャービン1人だけだ。

 つまり黒人に対する不当な扱いをしていたのは白人だけでなく、アジア系も加担していたのだ。

 黒人公民権運動活動家が他の3人の元警官を見逃すわけがない。公民権団体の「カラー・オブ・チェンジ」(Color of Change)は他の3人も殺人共謀罪で起訴するよう嘆願書を出す構えを見せている。

 ミネアポリス市警がどう出るか。地元紙の黒人記者K氏は筆者にこう指摘している。

「今はまだ火が燃え盛っているからそれどころではないが、いずれ市警は他の3人を逮捕、起訴せざるを得ないだろう」

「その時、アジア系と黒人との人種問題がクローズアップされるのではないだろうか」

 新型コロナウイルス禍の最中、米国人の反中国観はピークに達している。「俺たちの生活をめちゃくちゃにしたのは中国人だ」という思いが強い。これは白人だろうと、黒人だろうと、同じだ。

 米国内で中国系(出身地が中国大陸だろうと、台湾だろうと中国人は中国人だ)が差別や偏見の標的にされる時、日本人や非中国系のアジア系にも向けられる。

 白人や黒人の庶民に中国人と日本人の見分けなどつかない。

 黒人が韓国人に極度の嫌悪感を抱いていることはすでに触れた。黒人は総じてアジア系が嫌いだ。

 教育水準が高く、高所得層が多いアジア系は「名誉白人」的に生きていることが癪に障るからだろう。

 今回、白人警官が黒人を窒息死させた白人警官と行動を共にし、「殺人」の現場に立ち会い、止めるどころか、黙認していた「モン族」警官。

 黒人団体のアジア系警官追及は今回の殺人事件の背景に潜む人種差別の実態を暴く可能性大だ。

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