いよいよクライマックスを迎える「プランダラ」。Web Newtypeのリレーインタビューでは「プランダラ」の美術監督を務める坪井健太さんにお話を伺いました。アルシアの街と300年前の世界をどのように描いていったのでしょうか。

第3話よりホムホゥの街

――原作「プランダラ」をお読みになった印象をお聞かせください。

坪井 数字が支配する世界が舞台だと聞いて、実際に現実の世界でも海外でポイント制が導入されるという話があったり、SNSのフォロワー数やYouTubeのチャンネル登録者数が社会的信用につながっていたり、現実世界を比喩表現でファンタジックに描いている作品なのかなと。おもしろいなと思いました。

――原作の絵には、どんな印象をおもちですか。

坪井 原作の表紙やカラーページを参考に作業したのですが、アルシアの世界は草原の面積が大きいので、草原と空でかなりさわやかな印象を受けました。そのあたりはアニメにおいても引き継げるようにしたいなと思いました。

――美術ボードを描くうえで意識したことはどんなことでしたか。

坪井 アルシアはつくられた理想の世界なので、いきすぎなくらいファンタジーに、きれいに。普通の美術だったら、もうちょっと絞るかなと思うところでも、暗いところがないように明るく描いています。第1クールはアルシアを旅していく構成になっているので、話数ごとに移動して別の街にいるということがわかるように、街ごとに大きく雰囲気を変えています。

――アルシアはそれぞれ街ごとに個性が豊かな場所になっています。それぞれ美術ボードを描くうえで意識していたことをお聞かせください。

坪井 最初の街のイリニスに関しては、木の穴に建物が入っていたり、ファンタジックなビジュアルではあるんですが、家のつくりとしては石造りでいこうというのが決まっていました。なので、西洋の石造りの街を参考にして。石造りの建物と赤い屋根をシンボリックに描いています。さらにファンタジックなビジュアルになりました。

次の街のホムホゥは、岩をくりぬいたような街なんですよね。エピソード的にはギャグパートがあったり、リィンの存在もあるので、岩の街でも強そうなガチガチの感じにならないようにしました。実際には砂岩ではないと思うのですが、砂岩のような岩でつくった街をイメージしていました。緑(植物)があちこちにあるので、緑とのマッチングも考えて明るい色にしています。ジェイルの「鉄」の色とも被らないほうがいいとも思いました。ジェイルが鉄の柱を立てるバトルフィールドは美術ボードで色味を付けさせていただいて、それを池田(ひとみ)さん(色彩設計)が色を拾って、ジェイルの「鉄」の色をつくってくださいました。

オリジナルのエピソードが描かれるバザールタウンはいろいろと話し合った結果、ヴェネツィアイタリア)でいこうと決まりました。自分がちょうど半年ぐらい前にヴェネツィアに旅行したこともあって、自分の好きな雰囲気に思いっきり寄せさせてもらいました。自分が足を運んだときの写真や資料は、美術ボードを描くときに出窓の雰囲気や色味を参考にすることができました。ただ、バザールタウンは円形の街だったので、原図(レイアウト)も大変だろうし、僕らも難しかったところがあるんですけど。街の通りの雰囲気などはすごくよかったと思います。アネシスはどちらかというと閉鎖的な東側の都市のイメージです。ここから物語が不穏になっていって戦いが起きる場所なので、それを踏まえて描きました。建物の色も監督からリテイクをいただいて、より彩度を落としたものになっています。絵的にはパサついて、モノトーンっぽいイメージになりました。

王都は他の街に比べて栄えていて、華やかにしています。美術設定が原作の王都の雰囲気とかなり変わったものになっていたんですね。設定を見ると、建物はドイツ屋根のイメージがあったので、監督と打ち合わせをするときも「ドイツっぽく」という話が出て。映画「ハウルの動く城」に出てくる美術や建物を参考にしました。王都の城に関しては「文化的につながっていなくていい」ということでした。「色味は白っぽく、屋根は青」と監督が言うので、それはもうテーマパークの城だろうなと(笑)。ノイシュバンシュタイン城を参考にしています。

――先ほどアルシアは緑が多い場所だとお話されていましたが、街を出ると大草原や森林が広がっていますね。

坪井 そうなんですよね。実際の世界では、延々と草原が広がっている場所なんてあまりないと思うんですけど、アニメ的な表現というかこの作品ではそれがいいのかなと。原作のカラーページにあった草原の緑よりは、アニメは黄色みを少しだけ強くして、華やかな感じの草原を描いています。

――シュメルマンの教会は現実にあるものをイメージしているんでしょうか。

坪井 実際の教会の建築的なつくりは踏襲しています。教会そのものにファンタジー寄りのイメージがあるので、派手すぎず質素すぎず、普遍的な教会を描きました。

――前半のアルシア、中盤の300年前の第13特設軍学校で、美術をどのように描こうとお考えでしたか。

坪井 アルシアからある程度ギャップが欲しいというリクエストが監督からありましたし、自分のイメージとしてもそのギャップを感じていたので、実際に使う色を現実的なものにして。彩度が落ちることになるんですが、現実的な色味を使って殺伐とした雰囲気が出るように。「学園もの」という感じもあるのですが、少し彩度を落として、「戦争をしている世界」であることを前提に描いています。

――第13特設軍学校の地下施設も描いていますね。

坪井 そうですね。地下施設については二転三転したんですが、完全に学園とは別物として考えてほしいと監督からお話をいただいて。議会(アルシング)の間はとくに完全に独立した場所と言うことで、青みが強い感じにしています。

――過去から帰ってきてから(第18話以降)の美術はいかがでしょうか。

坪井 後半は、主にホフヌングの廃墟が舞台になっています。ホフヌングもアルシアなので空の青さや植物の緑は第1クールのアルシアから変えていないです。ただ、いままで出てきた場所と違って、ホフヌングは人が住んでいない廃墟なので、瓦礫ばかりになってしまって、色数が少なくなってしまうんですね。ファンタジー世界の廃墟ということで、現実世界の廃墟よりもデフォルメするような描き方をして。瓦礫を細かく描き込んだり、影面に青を使ったりして、色味を増やしています。あと、しばらくホフヌングにいるので、時間の変化があるんです。時間帯に合わせた変化が見えるように描きました。

――美術スタッフの指示を出すうえで、最も注意した部分、修正した部分があればお聞かせください。

坪井 「プランダラ」は比較的、屋内よりも屋外のシーンのほうが多いんですよね。屋外のBG(背景)は距離感が命になるんです。距離感をしっかり出せるように遠景の書き込みを注意して描くように、スタッフにはお願いしました。絵で描くと「1ミリ」のサイズでも、それを実際の距離に置き換えると数百メートルになったりする。ちょっとでも描き方を間違うと、遠くの山が近くなってしまったり、広さがなくなってしまったりする。うまく距離感を出せるように、細かい修正を入れさせてもらいました。

――美術において、印象に残っている話数があればお聞かせください。

坪井 今回一番描いたのは、草原なので、そのあたりの作業が印象的でしたね。打ち合わせをしていても、監督が途中から「アルシアっぽくお願いします」と、リクエストを受けることがあったんです。きっと「アルシアっぽく」ってこういう草原とか、青い空なんだろうなと思っていました。あと、第10話など後半の話数は、こちらで美術設定をつくって、アクションとの辻褄や位置関係を合わせながら描いていきました。とくにホフヌングでの戦闘は、リヒトーがどこにいるのか、誰がどこにいるのか、しっかりと明示されていない。そこはこちらで考えながら、設定をつくって、描いていくことができました。

――制作を終えられて、坪井さんにとって「プランダラ」とはどんなお仕事でしたか?

坪井 オリジナル作品ではないとはいえ、原作ではビジュアル化されていない要素が多かったと思いますし、かつファンタジーの世界なので、とても自由度が高い作品だなと思いました。原作者の水無月すう先生もアニメスタッフの自由度を許容してくださったので、0から1をつくるような部分もたくさんありました。制作が始まってから、かなり長い時間がかかりましたが、楽しく作業を進めることができました。

――「プランダラ」はいよいよクライマックスに突入しています。

坪井 後半話数では陽菜の過去が明かされるなど、キャラクターや物語の種明かしがたくさん行われるので、その展開を楽しんでいただきたいです。美術的には、これまで時間帯の変化が描く機会があまりなかったのですが、クライマックスでは時間帯の移り変わりが起きます。キャラクターの心情表現に合わせて、時間帯が変わっていくので、そのあたりも楽しんでいただけるとうれしいなと思います。(WebNewtype・【取材・文:志田英邦】)

第2話よりイリニスの街