ベンチには主にコーチ陣が座り、控え選手たちは無観客のスタンドから試合を見守る。距離を保ち、監督以外はマスク着用が義務づけられている
ベンチには主にコーチ陣が座り、控え選手たちは無観客スタンドから試合を見守る。距離を保ち、監督以外はマスク着用が義務づけられている

新型コロナウイルスの感染拡大によって約2ヵ月の中断を強いられていたドイツブンデスリーガが、ヨーロッパ主要リーグの先陣を切って、現地時間5月16日からリーグ戦を再開した。

果たしてポストコロナサッカーはどのような形態で開催され、ファンの目にはどのように映るのか? 6月からの再開を目指すスペインイングランドイタリアといったサッカー大国も固唾(かたず)をのんで見守ったが、これまではおおむね好評で、世界から称賛の声が寄せられている。

再開前のPCR検査でブンデスリーガ2部ディナモ・ドレスデンの選手に複数の陽性者が出たことにより、原口元気が所属するハノーファーの試合が延期されるというハプニングもあった。

ただ、注目のブンデスリーガ1部は大きなトラブルもなく、第1週目から全9試合を開催。ブレーメン大迫勇也フランクフルト長谷部 誠と鎌田大地の3人も久しぶりにピッチに立ち、日本のファンに元気な姿を見せてくれた。

とはいえ、現在行なわれている試合は、コロナ禍前とは大きく異なる環境で開催されている。特に無観客が開催の条件となっているためサポーターの声援はなく、代わりに監督や選手の声がスタジアムに響きわたるという特殊な環境でのプレーを強いられている。その静けさは、1試合平均の観客動員が4万人を超えるブンデスリーガの熱狂とは程遠いものがある。

また、再開のために設けられた特別な規定も多い。例えば、選手とチームスタッフは再開前に最低1週間は指定ホテルに隔離され、消毒済みの車両数台に分乗して試合会場にアクセス。スタジアム内でも、プレーする選手以外はベンチやスタンドマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを守らなければならない。

さすがに試合中に指示を出す監督にはマスク着用の義務はないが、テレビ画面に映し出されるベンチの様子は異様だ。

そのほか、スタジアムに入場できるのは、選手、コーチングスタッフチーム関係者、運営担当、中継スタッフを含めた報道関係者など、合わせて約300人前後に絞られている。取材エリアも閉鎖されているため、試合後に監督や選手の声を伝えるのは中継用のフラッシュインタビューのみ。

感染防止策の有効性が確認されれば、今後は入場制限や取材条件が緩和される可能性もあるが、しばらくはこの状態が続くことになる。

このような形で開催されている現在のブンデスリーガだが、現地メディア世論調査で約半数の市民が反対していることが判明するなど、国内には批判の声も上がっている。しかしドイツサッカー界としては、こうまでしてでもリーグ戦を再開させなければならない事情がある。

それは、無観客でも試合を開催すれば、各クラブの財政基盤となっている高額な放映権料を担保できるからだ。仮にシーズン打ち切りとなった場合、経済的損失はリーグ全体で約920億円。1部4クラブと2部9クラブの破産が試算されていたため、どうしても再開する必要があったのだ。

【画像】新型コロナウイルスの検査を受けたバルセロナのメッシ

5月上旬、練習施設で新型コロナウイルスの検査を受けたバルセロナのメッシ。ドイツ以外の欧州の各リーグも、再開に向けて準備を進めている
5月上旬、練習施設で新型コロナウイルスの検査を受けたバルセロナメッシドイツ以外の欧州の各リーグも、再開に向けて準備を進めている

一方、ピッチ内に目を向けると、プレシーズンマッチのようなテンションの低い試合に見える印象は否めないが、選手の走行距離、スプリント回数、ファウル数、パスの本数、枠内シュート数など、実際は中断前後でほとんど変化が見られなかったというデータも示されている。

これらの数値については引き続き調査が継続されるが、ポストコロナサッカーという点では、ポジティブな結果となったことは間違いない。

逆に、大きな変化となって表れているのが、無観客試合となったことでサッカー特有の「ホームアドバンテージ」がなくなったという見方だ。

再開1週目でホームチームが勝利した試合は、わずか1カード。2週目も2カードだけだった。この傾向が今後も続くかはわからないが、少なくとも現時点では地元サポーター不在のスタジアムで試合をすることは、アウェーチームに有利に働いている。

名門・ボルシアMGはスタンドの椅子にファンの画像を印刷した段ボール製のパネルを並べて満員のスタジアムを演出してみたものの、それによる視覚的効果は奏功せずに敗戦。ホームチームの選手の士気を高めるためには、スタジアム内にファンの大声援の音響を流すなど、聴覚的な工夫も必要なのかもしれない。

ネガティブな材料としては、選手のコンディション調整の問題も挙げられる。今回の再開のためにチームに与えられた準備期間は約5週間。しかも、接触プレー解禁後の全体練習は実質1週間程度しか与えられなかったため、再開前のトレーニング段階から負傷者が続出していた。

さらに当初から懸念されていたとおり、再開第1週目のブンデスリーガ1部9試合だけでも、大小問わず8選手の負傷が判明。通常の開幕前は6~8週間の準備期間が与えられていることを考えると、実戦練習が1週間程度しかできなかった今回のスケジュールには無理があったと言わざるをえない。

今後は週2試合という過密日程が予定されているだけに、選手の負担は計り知れないものがある。選手の健康と安全を守るためにも、この問題はリーグとして対応策を練らなければならない。

いずれにしても、ブンデスリーガを手本として再開を目指す国にとっては、ここまで浮き彫りになった良い面と悪い面の両方を参考にして準備を進める必要がある。いくらお金があっても、主役の選手がいなければサッカーの試合は成立しないのだから。

取材・文/中山 淳 写真/アフロ

ベンチには主にコーチ陣が座り、控え選手たちは無観客のスタンドから試合を見守る。距離を保ち、監督以外はマスク着用が義務づけられている