北朝鮮金正恩委員長が先月21日、同国東部・江原道(カンウォンド)の元山(ウォンサン)軍民発電所に「親筆書簡」(自らサインした書簡)を送り、現場の幹部と労働者に労苦に多大な感謝を表したという。これを受け、現場の幹部は大きく胸をなでおろし、文字通り「生き返った」ような感慨に浸っていると、デイリーNKの内部情報筋が伝えてきた。

金正恩氏は、自ら目をかけている工場やインフラ、建設現場で問題が生じると、火を噴くように激怒することがある。

実際、2016年にはスッポン工場を視察した際に管理不備に激怒し、支配人を銃殺。視察時の映像をテレビ放映させ、自らの恐ろしさをアピールする残忍さを見せた。

元山軍民発電所でも、その二の舞になりかねない状況が発生していたのだ。

情報筋によれば、問題が起きたのは先月初めのことだ。同発電所では、設備の品質不良から事故が頻発していたが、遂には発電機からの発火で火災が起きるに至り、半月もの間、稼働が中断されていたという。朝鮮労働党の江原道委員会と発電所の党委員会は、事故による経済的損失と金正恩氏に「心配させた罪」によって罰せられることを憂慮し、今回の事故を秘密裏に処理すべくかん口令を徹底したという。

何しろ金正恩氏は、2016年に同発電所を視察した際、「元山軍民発電所は設計も立派で建設物の施工も高い水準である」とし、「自力で発電所を記念碑的建造物に素晴らしく建設した江原道人民の闘いに頭が下がる」と発言。「富強な祖国の建設史に輝かしい1ページを記した江原道人民の偉勲は、朝鮮労働党の歴史とともにとわに伝えるべき貴重な財宝である」とまで言って絶賛しているのだ。

幹部たちは「(火災の話が)外部に漏れた日には死ぬことになる」との思いを胸に、発電機の復旧に命がけで取り組んだとのことだ。

そして、金正恩氏からの書簡が現地に届いたのは、発電機が再稼働してからわずか2日後のことだったという。まさに、「生と死」の境目から生還した幹部たちの感慨の深さたるや、いかばかりだったろうか。

ちなみに金正恩氏は、そのような事情を知ってか知らずか件の書簡で、「元山軍民発電所は、設備の整備、技術の強化に良く取り組んでおり、モデル単位とされなければならない」とまで強調したという。

金正恩(キム・ジョンウン)氏