夏に多く発生する「積乱雲」、突入してしまうと大きな揺れなどをともなうことから、パイロットはこれに注意しながらフライトします。どのように、またどのくらいの距離を避けるのか、ANAのパイロットに聞きました。

パイロットの経験がモノをいう「積乱雲回避」

いわゆる入道雲などの「積乱雲」は、パイロットにとって、いってしまえば大きな悩みのひとつでしょう。

積乱雲は中心部に激しい上昇気流が、その周囲には強い下降気流が存在し、その空気の流れは、たとえば中心部では雨粒が浮かんでいられるほどの激しさとのことです。それゆえ、もしそのなかに入ってしまうと激しい揺れが予想されることから、当然パイロットはこれを避けるよう注意しながらフライトしています。

一般的に積乱雲は、地表付近の空気が高温になり上空の空気との温度差が大きくなることで生じる上昇気流をおもな原因として発生します。ANA(全日空)のパイロットによると、特に夏は、地上が暑くなってくる午後に発達のピークを迎え、午前中は雲のないエリアでも、お昼を過ぎると巨大な積乱雲ができていることもあるそうです。

ではこの積乱雲を回避する際、パイロットはどのように、またどれくらいの距離を迂回するのでしょうか。

先出のパイロットによると、避け方は縦方向(上方)、横方向(左右)に避けるなどの方法があるといいます。もちろん事前に天気図や気象レーダーの情報から、予想を立てながらルート設定をしフライトに臨んでいますが、いつもその情報が当たるとは限りません。

どう避けたら安全かつ効率的なのかは、積乱雲の距離や高さを察知する感覚が必要で、それはすぐに身につくものではないことから、それなりの経験と能力が必要なのだそうです。

本来のルートからどれくらい避ける? 国による違いも

ANAのパイロットによると、たとえば国内で大きな積乱雲を横方向に避ける場合、もちろん雲の大きさによるものの、計画したルートから50ノーティカルマイル(およそ93km)程度、避けることがあるそうです。この距離は、およそ羽田空港から富士山までの距離に相当します。

そして海外では、この日本の例を大きく上回る例もあるそうです。

「アメリカ中西部では、日本ではありえないような巨大積乱雲も発生することがあります。私個人は、アメリカのヒューストン発、成田行き便に乗務したとき、コロラド州のデンバー付近で巨大積乱雲に遭遇し、これを避けるため、計画ルートから150ノーティカルマイル(約277.8km)ほど避けた経験もありました」(ANAのパイロット)

なお、この150ノーティカルマイルという距離、羽田空港からの直線距離で、おおよそ中部空港、あるいは新潟空港くらいまでに相当します。また日本海側にある富山空港までは約260kmで、これをも上回ることになります。

ANAのボーイング777型機(2019年、乗りものニュース編集部撮影)。