「音信不通になっていた元カノから、『堕ろしたから費用を払ってほしい』と連絡があったんです」。こう話すのは、戦略コンサルタントの30代男性だ。相手は20代前半の女性で、昨年秋、とある繁華街で出会った。

その日のうちにベッドを共に過ごしたが、男性は女性のことを将来まで見据えた関係とみなしていなかった。世の女性たちに叱られそうな話だが、そんな魂胆が見透かされたのか、ほどなく音信不通となり、自然消滅した。

ところが、新型コロナの影響で外出自粛となる中、おそらく寂しさを感じたのだろう。ふと女性にラインを送ってみた。すると、なんと「中絶した」「あなたの子だ」「費用を払って」と立て続けに返信がきたのだ。男性はおびえてうまく返信できていない。

もし本当に妊娠したのなら「教えてほしかった」と思うが、ちゃんと避妊をした記憶もあるので、女性のウソではないかとも疑っている。こうした中絶費用は、男性も払わないといけないのだろうか。理崎智英弁護士に聞いた。

●中絶費用の半額程度を払わないといけない可能性がある

「実際に女性が男性の子どもを妊娠していた場合、中絶費用の一部を男性が支払わなくてはならない可能性があります。

東京高裁(平成21年10月15日判決)は『人工妊娠中絶によって女性が身体的及び精神的苦痛を受け、それによって女性に生じる経済的負担という不利益は、男性と女性が共同で行った性行為に由来するものであり、その結果として生じるものであることを理由に、男性としては、女性が受ける不利益を軽減・解消したり、当該不利益を分担する行為を提供する義務を負っている』としたうえで、男性が当該義務を怠った場合には女性に対する損害賠償の支払義務を免れない、と判断しています。

この判決は、中絶費用の半額と慰謝料を男性に支払うよう命じました。

そのため、今回のケースでも、男性が、中絶によって女性が受ける不利益を軽減・解消したり、分担する義務を怠っている場合には、女性に対して中絶費用の半額程度を支払わなければならない可能性があります。さらに、慰謝料も支払わないといけない可能性もあります。

しかし、女性は今回、男性に対して自分が妊娠したことも告げず、いきなり、男性の子どもを中絶したと連絡してきているので、男性としては、女性の不利益を軽減・解消したり、分担する行為を提供することは不可能でした。

そのため、今回のケースでは、男性としては、法的な義務違反が認められないため、女性に対して中絶費用の半額程度を支払わなくてもよいということになると思います」

今回のケースでは、女性のウソの可能性もある。その場合はどう対応すればよいだろうか。

「もし女性のウソだった場合は、支払う必要は一切ありません。また、男性が女性のもとめに応じて、中絶費用の一部を支払ったあとで、妊娠や中絶の事実がなかったことが判明した場合は、男性は女性に対して、すでに支払ったお金を不当利得(民法703条)あるいは不法行為に基づく損害賠償(民法709条)として返還するようもとめることができます」

【取材協力弁護士】
理崎 智英(りざき・ともひで)弁護士
一橋大学法学部卒。平成22年弁護士登録。東京弁護士会所属。弁護士登録時から離婚・男女問題の案件を数多く手掛ける。
事務所名:高島総合法律事務所
事務所URL:http://www.takashimalaw.com

音信不通の元カノから「堕ろしたから費用払って」 30代戦略コンサル男性に「自業自得」のワナ