Movie Walkerスタッフが、週末に観てほしい映像作品を(独断と偏見で)紹介する連載企画。今週も、映画ライター陣が”いまこそ観たい”オススメ映画やアニメをピックアップ。いよいよ都内の映画館も営業再開となり、公開延期となっていた新作の公開も。初の女性指揮官として南北戦争を戦った英雄のドラマや異色のゾンビムービーなど、バラエティあふれる作品が揃った!

【写真を見る】アフリカ系アメリカ人として初めて米ドル紙幣の顔になることが決まったハリエット・タブマン (『ハリエット』)

■ハリエットの不屈の精神に驚嘆せずにいられない…『ハリエット』(公開中)

南北戦争より10年以上前のアメリカ。奴隷として長く酷使されながら、自由を目指して脱走し、やがて奴隷解放者として活躍した実在の女性、ハリエット・タブマンの軌跡と共に、彼女が起こした“奇跡”を描く衝撃作。追っ手をかわし、女性一人で何百キロも逃げきるだけでも奇跡的だが、スゴイのはココから。無事に安全な場所にたどり着いた後、今度は家族や仲間を助け出すため、逃げて来た道を“奴隷解放者”として逆走し、何百人もの奴隷を逃し続けるのだ。その神がかった逃亡劇に手に汗握り、真のヒーローとはこんな人のことなのか……と、彼女の不屈の精神や言動に目を見開いて驚嘆せずにいられない。アカデミー賞主演女優賞と主題歌賞にノミネートされた、ハリエット役シンシア・エリヴォの歌声に魂を揺さぶられるだけでも、十二分に観る価値あり!(映画ライター・折田千鶴子)

■ジャームッシュらしいユーモアと風刺が効いた『デッド・ドント・ダイ』(公開中)

世界のフィルムメーカーの尊敬を集め、映画ファンからも熱烈に支持される鬼才ジム・ジャームッシュの新作は、なんとゾンビ映画!米国の田舎町を舞台に、ウイルスにより人々がゾンビ化する怪現象に立ち向かった、保安官たちの奮闘が描かれる。ゾンビを描いてはいるものの、タッチはジャームッシュらしくユーモラス。生前の習性を引きずるゾンビたちは、それぞれコーヒーや酒、Wi-Fiを求めていて、どこかトボケた感じ。ジャームッシュ組の常連俳優による共演も賑やかで、意外な役者が意外な役を演じている点がうれしい。一方で、スマホやPCに夢中でゾンビのように見える現代人への風刺もジャームッシュらしさ。一筋縄ではいかないゾンビ映画なのだ!(映画ライター・有馬楽)

■ SNSの誹謗中傷、暴走する正義…現代社会の問題をあぶり出す『許された子どもたち』(公開中)

『先生を流産させる会』(11)、『ライチ☆光クラブ』(15)の内藤瑛亮監督が、コンプライアンスなどに縛られた商業映画のシステムから離れ、自主映画の体制で8年の歳月をかけて撮った問題作。実際の少年事件をモチーフにした本作は、中学1年の不良グループのリーダー・市川絆星(上村侑)がイジメていた同級生を殺してしまうところから幕を開ける。犯行をいったんは自供するも、絆星は無罪を信じる母親の説得で否認に転じ、少年審判は無罪に相当する「不処分」を決定。だが、自由を勝ち取った絆星と彼の両親を世間は激しくバッシングして……。カメラは人を殺したのに裁かれなかった少年とその家族がどんな運命をたどるのかを多角的な視点で冷徹に見つめ、SNSで炸裂する誹謗中傷や攻撃的に暴走する正義など現実社会の様々な問題も、鋭利に、生々しくあぶり出していく。あなたはそこでなにを思うのか?観る人の立場や考え方、どの登場人物の視点で鑑賞するかによって見え方が変わってくる。あなたを試す映画でもあるのだ。(映画ライター・イソガイマサト)

女子高生×南極!?波乱の旅路を経て彼女たちが見たものは…?『宇宙よりも遠い場所』(配信中)

なんとも詩的なタイトルを冠するこの作品は、マッドハウス制作で2018年に放送されたオリジナルテレビアニメーション。上空400kmの宇宙ステーションよりはるか遠く、日本から14000kmの距離にある場所――南極大陸を目指すのは、生まれも育ちも性格もバラバラな4人の女子高生だ。「ここではないどこかに行きたい」と思いながら無為な日々を送る女子高生キマリが、南極で消息を絶った母の遺品を探したいと望む報瀬(しらせ)と出会うことから動き始める物語。1人、2人と仲間を増やしながら南極へ行く方法を模索する一方で、彼女たちは“友人関係”にも頭を悩ませる。外部の友だちや4人の中で生まれる軋轢は、詩的なタイトルと裏腹に生々しいほどリアル。しかし、その丁寧な描写が、女子高生×南極という荒唐無稽な設定に説得力を与えているのもまた事実。南極への波乱の旅路、そして現地での驚きに満ちた生活を経て変化していく4人の関係性は、誰の目にもまぶしく映ることだろう。全13話で紡がれる珠玉の青春ストーリー。宇宙(そら)よりも遠い場所で彼女たちが見る景色を、あなたも心に焼きつけて。(映画ライター・ほそいちえ)

週末に映画やアニメを観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!

奴隷解放運動に命を懸けた一人の女性の生きざまが描かれる(『ハリエット』)/[c]Universal Pictures