戦車や装甲車などの車両から、文字通り草を生やした姿が印象的だった2020年の「総火演」、例年にはないそれら車両の様子に、ネット上でも大きな反響がありました。草を生やす理由と、今回そうした理由について見ていきます。

ドローン撮影が好評だったおうちで「そうかえん」 草マシマシも話題に

毎年、富士山の麓にある陸上自衛隊 東富士演習場で行われている「総火演そうかえん)」こと「富士総合火力演習」ですが、2020年はコロナウイルス感染症拡大防止対策のため一般公開はされず、インターネット上でのライブ配信のみとなりました。そのためか、これまで見えにくかった部分が浮き彫りになったのが、今年の「総火演」の特徴といえます。

総火演」の一般公開が始まったのは1966(昭和41)年のことでした。それ以来、一般公開を中止したのは史上初となります。またプログラム後半のシナリオに沿った「後段演習」では、車両が、大量の草を取り付ける「偽装」を施された「草マシマシ」状態で登場し、これは近年、見られなかった姿だったこともあり、SNSを中心に大きな話題になりました。

戦車など車両の「偽装」には、敵の監視から車体の形などをごまかし、はっきりと認識させないという目的があります。訓練などで車体に草を付け、さらに土盛りの裏側などに隠れてしまうと、現役自衛官であっても、その姿を探し出すことが難しくなります。

実戦想定の演習などでは当たり前にする「偽装」ですが、なぜ昨今の「総火演」では見られなかったのでしょうか。

「総火演」の目的を考えれば草マシマシが実は本来の姿

例年の「総火演」は、陸上自衛隊内で新人の教育などに携わる部隊「富士教導団」が主体となり、ゲスト部隊として水陸機動団や第1ヘリコプター団など多くの部隊が参加して実施されていました。こうして部隊の数が多くなると、指示を徹底するもの大変な作業となり、参加部隊の負担も増えます。また、一般公開にともなう広報の要素も強いイベントです。

しかし、今年の「総火演」は富士教導団と少数の施設科部隊だけが参加した形となりました。参加部隊の規模が小さく、隊員の負担も少なく、なおかつ会場にいる見学者である自衛官たちに、より実戦に近い状態を見せるために偽装を施したということです。つまりこれが、本来の「戦う自衛隊」としての姿になります。

そもそも「総火演」とは、本来、自衛隊の学校へ教育を受けにきている自衛官に対して「現代戦における火力戦闘の様相を認識させる」という目的で行われています。そのため今年の「総火演」は、一般来場者を意識しない、あくまでも自衛隊の教育の一環として、自衛隊の学生たちに「リアルさを追求した本当の姿」を見せるという、本来の意味合いが非常に強いものとなったのです。

「総火演」では見納めか 2年ぶりに74式戦車も登場

ちなみに、74式戦車と203mm自走りゅう弾砲も2年ぶりに「総火演」の舞台に立ちました。これらは「火力を見せる」目的で登場したと考えられます。というのも、全体としての弾薬使用量は、2019年が約35tで2020年は約19tと減ったものの、特科部隊(いわゆる砲兵部隊)による射撃は例年よりも多かったという関係者の声も聞こえ、戦車の射撃も例年以上に多かったと、ライブ配信を見ていた筆者(矢作真弓/武若雅哉:軍事フォトライター)は感じました。

なお、74式戦車と203mm自走りゅう弾砲は用途廃止(退役)が近づいており、「総火演」でその姿が観られるのは今回が最後だったものと見られます。

他方、ドローンによる空撮映像も話題となりました。今回の「総火演」では、ライブ配信用のドローンと、部隊が持つドローンの両方が登場し、関係者によると、当日の現場上空には最大で10機近いドローンが飛んでいたということです。

今年はヘリコプター部隊の参加が無かったため、ほぼ自由に会場上空を飛行できたドローンですが、来年以降、もしヘリコプター部隊などの参加があれば、ドローンがその能力を発揮する場は減ってしまうかもしれません。しかし、ネット中継を見ていた多くの視聴者から、ドローン空撮に対する好意的な意見が多く寄せられたとも聞きます。広報効果を高めるためにも、今後もドローンを使用した「総火演」の空撮は続けられると筆者は思います。

2020年「総火演」、10式戦車の射撃の様子。ドローンを使用したこれまでに無いアングルからの撮影で、非常に好評だったという(画像:陸上自衛隊)。