「遺産分割のトラブルなんて、富裕層だけでしょ?」というイメージを持つ人は多いかもしれません。実際のところどうなのでしょうか。

法務省の「司法統計年報(2018年度)」によると、2018年の遺産分割事件における認容・調停成立の総件数は7578件。そのうち、遺産額が5000万円以下のケースが5767件(76.1%)、1000万円以下のケースだけをみても2508件(約33%)とのこと(※1)。「ちょっと他人事ではないかも」なんて思いましたか?

“争族”を避けるための方法として、最も一般的な方法の一つが「遺言の作成」でしょう。2020年7月10日から始まる「自筆証書遺言の法務局保管」に触れながら、昨今の「遺言事情」についてみていきたいと思います。

遺言ってなに?

【遺言(ゆいごん/法律用語では“いごん”】

「人が、死亡後に法律上の効力を生じさせる目的で、遺贈、相続分の指定、相続人の廃除、認知などにつき、民法上、一定の方式に従ってする単独の意思表示」(デジタル大辞林(小学館)

さらに、民法第967条では、「遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない」と、3つの遺言方式が定められています。それぞれ、「自筆証書遺言」「遺言公正証書」「秘密証書遺言」の呼称が定着しています。このうち最も内容面で信用がおけるのは「遺言公正証書」ですが、プロである公証人が作成するので、煩雑な手続きや手数料が必要となります。

今回詳しくご紹介する、「自筆証書遺言」は、作成の手数料も不要、他人に内容を知られる必要がない点がメリットです。2019年1月からは一部パソコン使用が可能となり、作成のハードルが少し下がりました。さらに、2020年7月10日からは、法務局で保管が可能に(※)。紛失や改ざん、死後発見されないかも・・・といった懸念点が払拭されそうです。

(※)「法務局における自筆証書遺言書保管制度について」 法務省
次では、その「自筆証書遺言」について詳しくみていきましょう。

先述のとおり、2019年1月、自筆証書遺言の一部にパソコンの使用が可能となり、作成へのハードルが低くなりました。また、煩雑な手続きや手数料などが不要という点などで、自筆証書遺言は最も手軽に作成できる様式といえます。

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遺言形式2つを比較!

自筆証書遺言

  • 様式

・遺言者が全てを自筆し、捺印。(※2019年1月13日から、財産目録についてはパソコン使用が可)

・作成にあたり特別な手続きが不要。他人に内容を知られずにすむ

・死後発見された遺言書は家庭裁判所の「検認(遺言書を確認・調査する手続き)」が必要
・作成日の記載漏れ、自筆すべき箇所をパソコンで作成したなど様式の条件を満たしていなかった場合は遺言としての効力を失う

遺言書の紛失・改ざん・隠ぺいなどが防止できる
・家庭裁判所での検認が不要となる
よって、相続のトラブルの原因を減らすことにつながり、遺言者の意思を実現しながら、円滑に相続手続きが進むことが期待されます。

遺言公正証書

  • 様式

・遺言者の指示によって公証人が筆記し、遺言者、公証人、および証人(2人以上)が内容を承認し、署名・捺印

・プロである公証人が作成するため、遺言としての様式や内容面での不備は生じにくい
・公正役場の遺言書検索システムで遺言の存在を調べることができる

・公証役場への申請が必要
・作成の手数料が必要(※)

※手数料は相続財産の額によって決まります。詳細:「法律行為に関する証書作成の基本手数料」日本公証人連合会

遺言公正証書は、内容面で信頼がおける点や、公正役場の遺言書検索システムで遺言の存在を調べることができる、という点などをみても、最も確実性が高いです。しかし、煩雑な手続きや手数料などが不要という点などで、自筆証書遺言は最も手軽に作成できる様式といえます。

7月から法務局で自筆証書遺言の管理が可能になれば、「自分も書いておこうかな」と検討を始める人が増える可能性があるでしょう。

どれくらいの人が遺言書を作っているの?

では、現在、いったいどれだけの人が「遺言」を書いているのでしょうか。日本公証人連合会ホームページによると、遺言公正証書の作成件数は、2008年に7万6436件だったものが、2019年には11万3137件に増えています。この10年近くの間で約1.5倍に増えていることになりますね。

自筆証書遺言は遺言者自身が自由に作成できるものなので、正確な作成件数のデータはありませんが、司法統計で「家庭裁判所で検認を受けた件数」をみると、以下のように推移しています。

(※2)「家事審判・調停事件の事件別新受件数―全家庭裁判所」 司法統計年報(平成30年度)法務省

2011年以降をみるとほぼ横ばいですが、一部パソコンでの作成が認められて簡易化がはかられたことや、今後は法務局での保管が可能となり紛失や盗難のリスクが減ることなどを考えると、今後は自筆で遺言書を作成する人が増えていくかもしれません。

いずれの様式で作成する場合も、遺言者本人に判断能力があり、周囲と意思疎通ができていることが大前提となります。元気なうちに、心づもりをしておくとよいかもしれませんね。

【参考】
(※1)「53 遺産分割事件のうち認容・調停成立件数―審理期間別代理人弁護士の関与の有無及び遺産の価額別―全家庭裁判所 」司法統計年報(平成30年度)法務省
遺言デジタル大辞林(小学館)コトバンク
法務局における自筆証書遺言書保管制度について」 法務省
法律行為に関する証書作成の基本手数料」日本公証人連合会
(※2)「2 家事審判・調停事件の事件別新受件数―全家庭裁判所」 司法統計年報(平成30年度)法務省
遺言公正証書作成件数について」日本公証人連合会ホームページより