デジタル活用で”出張不足”を補える

現在、世界経済はコロナ危機に伴うショックで深刻な状況にあります。今後は緊急対策、景気後退、景気回復、そして再構築、という時期が到来するでしょう。

そうした中、コロナ危機前と危機後で生活スタイルが大きく変わるという「ニューノーマル(新常態)」の議論が盛んですが、コロナ危機後に何が残って、何が消えるかは、大変興味深いところです。

今回は、おそらく消える方向にいくと思われる日本人ビジネスマンの「海外視察・出張」について、考えてみたいと思います。

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海外視察ツアーは消えていくのか

日本では、全国津々浦々で、企業の経営者向けに商工会議所、経営者団体、金融機関、ビジネス支援団体などの主催による「海外視察ツアー」なる行事が繰り返されてきました。

ツアーの看板に「海外視察ミッション」と「ミッション」(=使命・任務)という言葉がついていることもありますが、実はさしたるミッションがないのは皮肉なことです。

強いて言えば、参加する企業経営者にとって、その目的は、見聞を広める、参加する他の社長仲間との交流・親睦、エンターテインメント、海外にも眼を向けているという社内外へのアピール、といったところでしょうか。

私自身、若い頃、金融機関などの海外業務部署におり、仕事の一環として「海外視察ツアー」の企画・運営をやった経験があります。

そういう経験は通算5年間で、顧客である中小企業経営者を対象に海外視察ツアーを企画・実施、あるいは、類似の海外視察ツアーにも所属機関から派遣されましたが、視察後に具体的なアクションを起こした社長に会ったことはありません。

具体的なアクションを起こす経営者はというと、外部業者から支援を受けつつも、個別に短期海外出張などで苦労して現地人脈や情報を得て、素早く経営判断を下していました。

「百聞は一見にしかず」という諺はあるものの、訪問先のアポ取得、レストラン・宿泊先など全てが段取りされた大名行列ツアーに参加するだけでは、その国で仕事するイメージも見えてきませんし、目に見える成果は得られないでしょう。

見聞を広めるという目的は、ある程度、満たされるのかもしれませんが、それが後々、様々な経営判断にどれほどプラスに作用するかは未知数です。

他方、それにつき合って時間を無駄にされた訪問先などの人々には不満が募ります。

いつの時代も、メディアなどが助長する投資ブームがあり、日本人ビジネスマンの海外ツアーは特定の国・地域に集中する傾向があります。実際に、米国、中国、東南アジアベトナムインドシリコンバレーオランダエストニア等々、現地では「お勉強ツアー」だと揶揄されて日本人の評判を下げてきました。

私自身も、かつて個人的に親しいベトナム人に「日本人の訪問は時間の無駄("a waste of time”)」だと言われたことがありましたが、親しいからこそ正直に言ってくれたのだと思います。

今はコロナ騒動で「海外視察ツアー」どころではありませんが、こういう「行事」はこれを契機におおむね無駄(あるいは迷惑)だったと再考され、消えていくことでしょう。なお、海外在住の日本人としては、これ以上、海外で日本人の評判を下げないよう、復活しないことを祈っています。

余談ですが、すでに安価な参加費でバーチャル海外視察会なるサービスもみられますので、それで十分なのではないでしょうか。費用対効果も良さそうですし…。

短期海外出張は社内で厳選されるように

今後は、飛行機エコノミー座席で間隔を開けるソーシャルディスタンス対策などもあり、航空券チケットを含む旅費コストが割増されることが予想されます。そのため、数日〜1週間程度の短期海外出張は気楽に行けるようなものではなくなる可能性があります。

短期海外出張の内容は千差万別ですが、目的意識がはっきりしていて成果が期待できそうな出張だけが残っていくのではないでしょうか。目的や期待される成果と旅費コストが比較考慮され、出張申請が社内で厳選されるような時代になるのかもしれません。

たとえば、大企業サラリーマンの海外営業を目的とする出張があります。

日頃、会わないと話を前に進められないという局面で海外出張の必要性が生じます。特に新規営業のケースでは、「営業トークの前にまず人間関係を構築して」という先入観もあり、「いきなりEメールでは失礼」(これも相手の人種によっては誤解かもしれません)ということで現地へ乗り込みます。

ただ、日本人の典型的な出張パターンとして、出張メンバーは3〜5人と無駄に多く、そこに「部長」(英語の肩書きがDirectorなど)も含まれているのに現地で意思決定できず、「では日本へ持ち帰って検討し、後日、回答します」ということがあります。これは海外企業に相当な違和感を持たれます。

逆に、現地で人間関係を作ろうとして会ったとしても、初めての現地訪問では決定権限を持つ人に会えないケースもあります。しかし、それでは全く意味がありません。

そう考えると、ほとんどの海外営業出張はテレビ会議でやれる程度のものであり、本当に現地出張が必要なケースは、決定権限のある自社の人間が相手企業の社長・役員クラスとの面談をセットできた時に限定されてくるかもしれません。

デジタルツールを駆使して長期海外出張を短縮化

一方、メーカーの典型的な出張として、ビザなしで現地滞在できる期間(たとえば3カ月)以内に現地工場(あるいは委託工場)のオペレーションを指導・改善するといった出張があります。

中小メーカーの場合、コスト削減と危機管理から会社が一軒家を賃貸し、入れ替わりで出張する複数の社員を共同生活させるという光景が見受けられます。出張者にとってはプライバシーもなく、かなりストレスのある現地出張かと思いますが、これはテレビ会議だけで回せるような任務ではありません。

ただ、コロナ危機後の将来は、日本本社と現地工場のデジタルツール完備により、現地出張の回数・日数・出張者数をある程度減らせる可能性はあるかもしれません。あくまでケースバイケースで検討が必要ですが。

また、海外で現地企業・機関などを相手に役務・コンサルティングサービスを提供するような長期出張の場合は、現場にいてこそできる仕事といった側面が強く、簡単にはリモートワークに転換できないでしょう。

それでも、相手側がテレビ会議などのデジタルツールを駆使したコミュニケーションに慣れてくれば、必要以上の日数を現地滞在せずとも相手側に安心感を与えつつ、円滑に業務を遂行することは不可能ではないと思われます。

コロナ危機の最中にいる今こそ、勝手にあきらめないで相手側に相談してみてはいかがでしょうか。案外、相手側も一部オンラインにしてくれた方が助かると密かに思っているかもしれません。

おわりに

コロナ危機後の日本で、昔ながらの「海外視察ツアー」や、目的意識がはっきりしない短期海外出張が復活を遂げるようなことがあれば、日本企業にそれだけ余裕が戻ってきた証で、ある意味、喜ばしい状態なのかもしれません。

ただ、いずれ長期的な世界経済低迷や日本企業の中国からの撤退、国内回帰の流れが起こる可能性もあります。”古き良き”海外視察や出張が戻るという、そんな夢のようなことはおそらく我々のニューノーマル(新常態)とはならないのではないでしょうか。