以前と比べ「モラハラ」や「パワハラ」という単語が世間一般に浸透し、その内容も知られるようになってきました。それに伴い「我が家のケースももしかして該当するのでは…」と家庭のアンバランスさに気づく人も増えてきたのではないでしょうか。

しかし、暴言や恫喝を親が受けることでそれを見た子供が「親を守らなければ」と感じてしまい、必要以上に悩んだ結果、成長に影響してしまう場合もあるようです。

母のために顔色を見て暮らす日々

Kさんは四人家族の家庭に育ちました。ちょっとしたことで怒鳴ったり物に当たる父と、そんな父に意見できない母、空気を読むのが苦手で父をたびたび怒らせてしまう妹の中、自分が優等生でいることでバランスを取り、家庭内の平穏が保てるよう必死に生活を送っていたといいます。

「父は子育てに一切関わらない人でした。ただ、私たちが父の気に入る返事をしないと『お前はどんな教育をしてるんだ!』と母を怒鳴りつけるので、父の前で粗相をしたくないという思いが強かったです。無邪気に遊んでいる時でも『これ以上やるとお父さんが怒るかもしれない』と考えるのでいつも遠慮がちに過ごすというか。私たちのミスは母の失点。とにかく母が怒られないようにするのに必死でした」

楽しいことややりたいことよりも「父が機嫌を損ねて母が怒鳴られてしまわないこと」を優先しながら暮らしたというKさん。気づけば学校や会社でも「影響力のある人が不機嫌にならないでいる選択」を常にするようになり、時には貧乏くじを引くことも多かったそうです。しかし「父が怒鳴り母が悲しい顔をするあの光景を見るくらいなら、自分の気持ちなどは優先するほどのものではない」と思っていたといいます。

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離れてもその習慣から抜けだせない

その後、Kさんは結婚し自宅をでることに。この時「潤滑油の自分が家をでて大丈夫だろうか」という罪悪感があったそう。結婚相手であるご主人は穏やかな人で、Kさんが唯一顔色を窺わない相手だったそうです。

「夫と結婚してびっくりしたのが『何も考えずに意見を言っても波風が立たない』ということ。自分的に『今の発言は無神経だった!』と思っても夫は父のように豹変しませんでした。ここが『家庭』であるのなら、こんなに気を使わない対等な関係が家庭内にあるんだと衝撃を受けたのを覚えています」

ご主人の穏やかさに驚きつつも救われ、新しい人生を歩き出したKさん。しかし、お子さんがうまれてご近所付き合いが始まると、今度はママ友の顔色を窺う生活が始まったといいます。

「一人気の強い方がいて、その人の機嫌を損なうとグループに不穏な空気が漂ってしまうので、気づくと私が先回りして彼女が機嫌よくいられるようにセッティングしていました。そんな行いは他のママから感謝されましたが、精神的にかなり負担で。でも他の人がこんな嫌な思いをするなら私が…とつい頑張ってしまう私を夫は『理解できない』と言っていました。

『彼は誰かが犠牲にならないと穏やかでいられない空間を知らないんだ』そう思ったらとてもさみしく、羨ましい気持ちに。また、こんな風に自分を大切にできない人間にした父への怒りで、今更ながら改めて大嫌いな存在になっていました」

第三者から見た自分の家

夫の人の顔色を気にしないところに魅力を感じていたはずが、徐々にその生い立ちにすら嫉妬するようになったというKさん。愛する夫にすら負の感情を持つきっかけとなったのは父のせいだという思いを強めていきます。ある時、周りの顔色ばかり窺う自分に嫌気がさし、生い立ちについて信頼できる友人に打ち明けたそう。すると、友人は意外な返答をしました。

「私が長年苦しんだ父の横暴な態度。離れていてもその陰に怯え、同じタイプの人間を恐れてしまう原因である父が許せない。私はそう打ち明けました。すると友人は『原因はお母さんだと思う』といったんです。私はなんて見当はずれな言葉だろうと思ったのですが、彼女が言うには『あなたを守るべき存在である母親が、あなたに守られていた。それは歪んだ関係じゃない?』と。今まで一度もそんな風に考えたことのなかった私はかなりの衝撃を受けました」

友人の言葉をきっかけに「長女である自分が守らなければと思っていた母」について考え始めたというKさん。確かに、その家に生まれてしまったKさんと違い、母は夫である父を選んで結婚したはず。にもかかわらず、父のいないところで父への不満や自分の辛さを小さなKさんに吐露していた母の弱さは、Kさんの必要以上に自分を犠牲にし他人を守らなければと考える思考に大きくかかわっていることに気づいたそうです。

「母は常日ごろ『私たちは親友親子だよね』といっていました。しかし、よくよく思い返せば、弱音や本音を吐き出せていたのは母だけ。私はそんな母を守るために早く大人になったことに気づいてしまいました」

まとめ

無意識であっても、自分より弱い存在の子供に本音をさらけ出し続けた結果、望まない人格形成をさせてしまったKさんのお母さん。確かに、夫から受けたモラハラで辛い思いをしてきたのかもしれません。しかし、それは夫婦の問題であって、子供を巻き込まずに解決すべき問題であったのかもしれません。

「少しくらいの弱音」と思っていても、子供は愛する母を自分より大切にしてしまうことすらあります。そして、それは大人になってからも抜け出すことができない負のループになることも。お互い大切な存在だからこそ、その言葉はどのような威力を持ち、影響を与えるのか考え、適正な距離を保つことも大事だったのかもしれません。

そのことに気づいたKさん。同じく娘さんがいるそうですが「親になって、確かに子供に愚痴をいいたくなる気持ちはわかる。だけど、子供の無邪気さを奪う原因になるのであれば、私はその一言を我慢しようと思う」と考えているそうです。