火星の環

火星にも土星のような環があった? image by:Kevin Gill/Flickr, CC BY 2.0

 あの赤い惑星は、かつて今よりもっと壮麗な姿をしていたのかもしれない。新しい研究では、なんと火星をぐるりと取り巻く環があったという科学的証拠が提示されている。

 その手掛かりは火星の第2衛星「ダイモス」にある。その軌道は、火星の赤道面に対してわずかに傾いている。そして、これは大昔は存在しただろう環の重力のいたずらによって引き起こされたものなのだそうだ。

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火星に小惑星が衝突し、その破片によって環が形成された可能性

 惑星の環はそれほど珍しいものではない。

 惑星の環というとまずは土星が思い浮かぶかもしれないが、じつのところ太陽系の惑星のうち半数(土星、天王星海王星、木星)には環がある。それどころか準惑星ハウメアや、小惑星であるキロンとカリクローにだってある。

 火星にも環があったという仮説が提唱されたのは2017年のことだ。

 第1衛星「フォボス」のシミュレーションから、火星に小惑星が衝突し、その破片によって環が形成された可能性が明らかになったのだ。

 その環はやがてフォボスに集積した。そのため初期のフォボスは現在のものよりずっと大きかったのだという。

フォボス

火星の第1衛星「フォボスimage by:NASA

異質なフォボス


 火星の第2衛星「ダイモス」の軌道は、火星の赤道面に対して1.8度だけ傾いている。変わっているのはその点だけで、離心率が小さいごく普通の軌道をおよそ30時間かけて周回している。これまで誰も「ダイモス」の軌道に注目してこなかったのはそうしたわけだ。

 だが「フォボス」は異質だ。火星にずっと近く、公転周期は7時間39分。そして年に1.8センチずつ火星に接近している。

 そのため1億年以内に「ロッシュ限界」に達すると予測されている。ここは惑星や衛星が主星の潮汐力に耐えられるギリギリの境界で、「フォボス」がここを越えればバラバラに破壊されてしまう。

 そのときに生じる破片は環を形成し、火星に降り注ぐ。だが一部は再び集積し、以前より小さな衛星へと生まれ変わる。環が内側へ引き寄せられる一方、生まれ変わった「フォボス」は外側へと押し出される。

 2017年の研究によれば、こうしたことは過去にも幾度か繰り返されてきた可能性があるという。

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火星の第2衛星「ダイモスimage by:NASA

環の存在がダイモスの軌道を傾けた


 SETI協会(アメリカ)のマティヤ・クーク氏らの研究では、このプロセスダイモスに与えた影響が分析された。

 シミュレーションからは、現在の20倍の質量を持つ原始フォボスが外側へ移動し、火星の半径3.3個分の距離にあったダイモスと「軌道共鳴」(ある天体を公転する2つの天体が、互いの重力に影響されてその軌道が変化すること)を起こした場合、ダイモスの軌道は今日見られるようなわずかに傾いたものになることが判明した。

 原始フォボスが潮汐の進化に逆らい外側へ移動するには、巨大な環との相互作用がなければならない。したがって、シミュレーションの結果が正しいとするならば、やはり火星にはかつて環があったということになる。

 クーク氏によれば、ダイモスに傾斜が生じたのは39億年前の「後期重爆撃期」の後であるはずだという。

 この時代、地球・火星・金星・水星などの岩石惑星には爆撃のように小惑星が衝突していた。これによってダイモスも破壊された可能性が高い。ダイモスはやがて再集積したが、そのときの軌道には傾きがほぼなかったと考えられる。

 同時に、この時代からずっと後になっての出来事でもない。原始フォボスダイモスの共鳴は、低い傾斜角がなければ起きないからだ。

 クーク氏らは、傾斜が生じたのは35億年ほど前ではないかと推測している。そしてこの時期は、火星に現在のフォボスよりも大きな内衛星があったと2017年の研究が推定する時期とぴったり一致している。


Martian Moon's Orbit Hints at Ancient Rings of Mars

 ダイモスが破壊と再形成を経験し、低い傾斜角になったということは、小惑星の爆撃がその軌道を乱した可能性が低いということをも意味しているという。

 またそれができるような小惑星が飛来していたなら、傾斜だけでなく、離心率をも乱していたはずだ。ダイモスの離心率は素晴らしく小さいので、やはりその線は低いそうだ。

現在のフォボスが形成された時代

 なお、フォボスについては、おそらくこれまで2回破壊と再形成を繰り返しており、現在のものは2億年前に誕生したと考えられるそうだ。

 日本のJAXAによる「MMX(火星衛星探査計画)」では、2024年フォボスに探査機を送り込むべく準備が進められている。

 計画通りに行けば、2029年に衛星のサンプルを携えた探査機が地球に帰還することになる。サンプルからはフォボスの年代も特定されるはずだ。その結果が数億年の範囲内にあるならば、今回の仮説の新たな裏付けとなるだろう。

 この研究は第236アメリカ天文学会で発表され、『The Astrophysical Journal Letters』に受理された。現時点では、『arXiv』(6月1日提出)で閲覧できる。

References:seti / sciencealert/ written by hiroching / edited by parumo
追記:(2020/06/8)タイトルを一部訂正して再送します。

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52291555.html
 

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