長きにわたって映画界でその手腕を発揮してきたリュック・ベッソンが、新たにメガホンを取った『ANNA/アナ』。新型コロナウイルス感染拡大予防のため公開延期となっていた本作は、6月5日から公開中だ。最強の暗殺者として育てられたヒロインが、KGBCIA、二大諜報組織を翻弄する本作は、まさにベッソンの真骨頂と呼べる作品。

【写真を見る】モデル出身のサッシャ・ルス。グラスにフォークまで駆使した超絶アクションを披露!

孤独な殺し屋と少女の絆を描いた『レオン』(94)で人気を不動のものとし、「TAXi」や「トランスポーター」、「96時間シリーズなど、プロデューサー脚本家としての活動も目立つベッソン。そんな彼の最も得意とするジャンルを挙げるなら、『ニキータ』(91)や『ジャンヌ・ダルク』(99)、『コロンビアーナ』(11)、『LUCY ルーシー』(14)へと受け継がれてきた“闘うヒロイン”映画だろう。

ANNA/アナ』もまた、その系譜につながる作品で、麻薬中毒だった少女が暗殺者としての新たな人生を与えられるなど、『ニキータ』に通じる部分も多い。

物語は1990年モスクワから始まる。露天でマトリョーシカ人形を売っていた大学生のアナは、モデル事務所のスカウトマンに声をかけられ、パリでモデルとして活動することに。すぐに人気モデルとなった彼女は、ロシア出身の貿易商と親密な関係になるが、彼が武器商人だったことを知ると、その眉間に向けて発砲。実は、彼女はKGBエージェントで、国家にとっての危険人物を抹殺していたのだ。各地で淡々と任務をこなす彼女だったが、そんなある時、CIA捜査官のワナにはまり、二重スパイになることを強要されてしまう。

アナを演じるのは、ロシア出身の新星、サッシャ・ルス。13歳からモデルとして活躍し、ベッソン監督作『ヴァレリアン 千の惑星の救世主(17)で映画デビューし、続く本作で早くも主演を務めることになった。過酷なアクションをこなし、驚異的な身体能力と破壊力を持つ彼女を演じるため、1年かけてマーシャルアーツを学び、準備に取り組んだという。その成果は本作を観れば一目瞭然で、特に中盤でのレストランでの戦闘シーンは圧巻のひと言。

次々と襲いかかる屈強な男たち相手に応戦し、徒手空拳はもちろん、相手の銃を奪って発砲したり、殴ったり、皿やグラス、フォークなどを臨機応変に使用しながら、迫りくる敵を殺めていく。それらの流れは、生々しくリアルで、バレエ経験もある長い手足を持つルスの身のこなしは洗練されて美しく、ついつい見入ってしまう。

一方で、アナというキャラクターは複雑な役どころだ。自堕落な生活から抜け出すために暗殺者となったが、祖国にはチェスの駒のように扱われ、その命も軽く見られている。そんな彼女の回りには、KGBに誘い込んだ張本人で恋人でもあるアレクセイ(ルークエヴァンス)と、二重スパイの話を持ちかけるCIAレナード(キリアン・マーフィ)がいる。2人と関係を持ちながら、KGBCIAエージェントとして行動するアナ。表向きはそれぞれの組織の命に従っているが、感情を表に出さない彼女からは、その真意を読み取ることは難しい。利用できるものなんでも利用し、自身の未来のために生きる、したたかな強さも感じさせる。

初期作品のようなネオノワールスタイルテーマへの回帰となったことについて、ベッソンは「いま、僕らが生きている社会から失われてしまった大切なものの一つに、“信頼”があると思う。だから、この作品の最も大きなテーマを“信頼”にしたんだ」と語っている。ベッソン監督の新たな“闘うヒロイン=アナ”の魅力をスクリーンで味わってほしい。

文/トライワーク

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