2020年度から順次、E235系への置き換えが始まる横須賀総武快速線E217系は、一時、東海道本線を走行した以外は他線への投入がありませんでした。なぜ少数の製造にとどまったのでしょうか。車両の歴史を振り返ります。

209系の進化系として登場したE217系

横須賀総武快速線で活躍するE217系は、ほかの路線では見られない独特の正面形状が特徴です。

しかしE217系は、一時的に東海道本線で使われたことがあるものの、2020年現在は横須賀総武快速線および千葉県内の路線でのみ使われている、少数派の車両形式です。なぜE217系はその後のE231系のように大量に生産されず、少数にとどまってしまったのでしょうか。

E217系は1994(平成6)年に登場した近郊形電車です。基本的なメカニズムや車内設備は、先に登場した209系をベースとしています。ただし車体の幅を2800mmから2950mmに拡大し、錦糸町~品川間で地下線を走るため、保安上の観点から正面に非常扉を付け、また、踏切事故対策として運転台を高い位置に設置、運転台後部にサバイバルゾーンを設けるなど、209系から大きく変化しました。

接客面でも大きな変化がありました。横須賀総武快速線は従来、片側3ドアの113系が使われていましたが、ラッシュ時の乗降時間短縮を図るため、E217系はドアの数が片側4か所になりました。さらに普通車13両中ボックスシートは3両のみで、残りの11両は通勤形と同じロングシートです。

このようにE217系は、JR東日本の近郊形電車の姿を大きく変えたエポックメイキングとなった車両です。特に運転台周りの設計、寸法は、その後の新系列車両であるE231系E233系にも受け継がれ、JR東日本の通勤、近郊形車両の基本形状を確立しました。

汎用性を高めてE231系へ進化 E217系が少数形式である理由

E231系E217系の仕様をさらに進化させた車両で、制御装置やモーターなどはさらに世代が進んだデジタル式ものを全面的に採用し、メンテナンス性の向上を図っています。

また、E217系の製造中に省令が改訂され、トンネルの断面が十分に広く、トンネルと車両のあいだに400mm以上の通路があれば非常扉の設置が義務ではなくなりました。そのため一部のE217系は、外観はそのままに非常扉が廃止され、正面が「開かずの扉」となった車両が存在します。なお、後継のE231系地下鉄直通用を除いて最初から非常扉を設けないデザインとされ、製造コストが下げられています。

このように、E231系E217系の完全上位互換ともいえる車両なので、E217系をあえて製造する理由がなくなったという点が、E217系が少数形式にとどまってしまった理由です。

しかしE217系の設計思想やデザインは、E231系以降の車両にも受け継がれており、またE217系自身も、2008(平成20)年からの制御装置の更新でE231系と同等の制御システムに交換されるなど、システムのアップデートもされています。

2020年度にはE217系の置き換え用として、E235系横須賀総武快速線に順次投入されます。E235系E231系をさらに進化させ、車内設備もフリースペースの設置や大型洋式トイレの採用、グリーン車へのWi-Fiルーター設置など、現代のニーズに合ったものが提供されます。

しかし、車両の基本寸法などはE217系が確立したものが受け継がれており、先頭車両のドア配置などからは、E217系の進化系であることをうかがい知れます。

JR東日本E217系。正面には長大トンネル内での脱出用非常扉があり、独特の形状になっているが、後に不要となった(2008年12月、児山 計撮影)。