2019年6月、金融庁の「老後2000万円問題」が大きな話題となりました。夫65歳以上、妻60歳以上の無職の夫婦世帯を例にして老後の生活費を計算すると、約2000万円が不足するという内容です。

生活費が年金収入を上回るため、不足額は平均で毎月、約5万円。老後生活は20~30年ありますので、この赤字額からの単純計算で1,300万円~2,000万円もの金額が赤字になるという内容でした。

人生には健康が大切であると同時に、お金も重要な生活基盤です。老後の年金収入と、誰もが直面する可能性のある「老後の一人暮らし」について考えてみましょう。

男女で差のある厚生年金額

老後収入の柱である年金については、国民年金厚生年金の併給、もしくは国民年金のみの受給があります。国民年金は加入月数のみが計算根拠となりますが、厚生年金については就労していた時の収入に応じて納税するため、給与が年金額に反映されています。

厚労省「厚生年金保険・国民年金事業年報」によると、2018年度末における厚生年金保険(第1号)の「受給権者」の数は約1609万人で、平均的な年金月額(老齢厚生年金と老齢基礎年金(国民年金)の合計額)は、14万6000円となっています。

この厚生年金保険(第1号)の受給額については、以下のような傾向があるようです。

・男子…受給額15~20万円が男子全体の40%を占め、18~19万円の範囲がピーク
・女子…受給額5~10万円が44%を占め、9~10万円がピーク

女性の年金受給額は、男性に比べて低い方に偏っています。国民年金については、女性の平均が5万3342円、男性の平均は5万8775円ですので大きな差はありません。つまり、給与差(納税額の差)が厚生年金受給額の差になります。これらの年金額の実状を踏まえて老後生活を考えていく必要があるといえるでしょう。

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だれにでも起こりうる「おひとりさま」生活

「おひとりさま」は気楽な面もある一方、肩身が狭いといわれている面もあります。結婚をしたことのない未婚の一人世帯もあれば、夫婦どちらかとの死別により一人世帯になることもあります。つまり誰もが「おひとり様」になる可能性があるのです。とくに女性は長寿の傾向にあるため、一人世帯になる可能性が高いといえます。

2019年の総務省「家計調査報告(家計収支編)」によれば、60歳以上の一人世帯・無職者の生活費は、1カ月で平均13万9,739円となっています。上記の年金受給額を振り返ると、男性の受給額で多いのが15~20万円、女性で多いのが5~10万円です。老後の収入は年金のみと仮定すると、きびしい生活になることがうかがえます。

一人世帯の老後を想定したときに必要になるもの

夫婦世帯・おひとり様世帯の収入を比較すると、おひとり様世帯、とくに女性の一人世帯において、より厳しい老後生活が想定されます。女性の人生は一般的に男性よりも長く、しかし収入面では男性より低い傾向にあります。長年、勤務してきた場合は退職金が見込めますが、退職金は一般的に給与額をベースとして算出されますので、給与面や雇用形態(正規雇用非正規雇用であるか)が重要な要素となります。

早めに老後を見据えた住居の確保をしていくなど、真剣に計画していくべきだといえるでしょう。収入を増やせない場合は支出を抑える工夫の習慣化も大きな意味を持つはずです。

夫婦世帯で考えておくこと

生涯独身で過ごすおひとり様と比較して、夫婦世帯なら安心だといえるのでしょうか。子育てを経験してきた家庭では一般的に持ち家などの住居費がかかり、大学進学のために教育ローンや奨学金などの返済が続いている場合もあるでしょう。決して余裕があるとは言い切れないのかもしれません。

また、共働き夫婦の場合は世帯収入も多い傾向にあり、退職金も期待できますが、家計支出も多くなる傾向にあるといわれています。今後、住宅ローンや教育ローンの返済のために退職金が大きく目減りしてしまう可能性はないでしょうか。

社会人になった子どもの生活を支える必要のある高齢世帯もありますし、孫たちが誕生して人生に嬉しさが加わると同時に、「孫育て」や「孫支出」などの負担が増える可能性もあります。そして、夫婦世帯であっても死別という可能性もあります。やはり老後に備えて、生活費を抑えたり貯蓄を継続するなど、老後資金の対策もできるだけ早い時期から取りかかっていくことが大切だといえるでしょう。

さいごに

数十年続く老後生活に備えるには、男女を問わず、早くからの老後準備が大切です。とくにおひとりさまの場合は、健康管理・家計管理などの自己管理が重要になります。早くから老後に向けた貯蓄を計画していきましょう。

また、長期にわたる資産形成を支援する制度として、税制面で一定の優遇が行われている「つみたてNISA」や「iDeCo」もあります。NISAはライフイベントに応じて引出すことが可能な積立て方式であり、iDeCoは年金制度として所得控除が認められ、両方の併用も可能です。情報収集をしながら貯蓄を継続するなど、老後に向けて計画的に準備していきましょう。継続的な貯蓄や家計の管理はその人の生活力そのものとなります。賢く備えていくことが自信を持って老後を迎えるコツになりそうです。

参考

「高齢社会における資産形成・管理」金融審議会市場ワーキング・グループ報告書
「厚生年金保険・国民年金事業年報」厚生労働省
「家計調査報告(家計収支編)2019年(令和元年)平均結果の概要」総務省

【ご参考】貯蓄とは

総務省の「家計調査報告」[貯蓄・負債編]によると、貯蓄とは、ゆうちょ銀行、郵便貯金・簡易生命保険管理機構(旧郵政公社)、銀行及びその他の金融機関(普通銀行等)への預貯金、生命保険及び積立型損害保険の掛金(加入してからの掛金の払込総額)並びに株式、債券、投資信託、金銭信託などの有価証券(株式及び投資信託については調査時点の時価、債券及び貸付信託・金銭信託については額面)といった金融機関への貯蓄と、社内預金、勤め先の共済組合などの金融機関外への貯蓄の合計をいいます。