2019年9月、サウジアラビアの石油施設が無人機と巡航ミサイルで攻撃され、激しく燃えた。
イエメンの反政府勢力「フーシ」が犯行声明を出した。燃え跡から出てきた焼け焦げた大型の無人機は、イラン製に類似している。
また、これらの兵器の射程、イラン方向からの攻撃であることから、実際には、イエメンの反政府勢力「フーシ」の背後で、イランが実行したと推測されている。
この事件は、イランや「フーシ」だけで実行できるものではない。また、焼け焦げた無人機は、中国とロシアの企業が製造したものと似ている。
つまり、背後には、中国かロシアが存在するのは確かだろう。
焼け焦げた無人機には、大型のもの以外に小型のものも多く、目標に命中し、壊れて焼け焦げ、原型をとどめているものはない。
これは小型無人機が目標に命中していることを示している。
したがって、この成果の裏には、中露の測地衛星(軍事用)の誘導(一般的にGPS誘導)がなくては実行できないという見方が有力だ。
北朝鮮の無人機を分析していた時に、サウジの石油施設を自爆攻撃し、焼け焦げた無人機の写真を見て、この2つがよく似ているので驚いた。
中国企業のものはSky型、ロシアはZALA型がある。形状を見ると、どちらかというと中国製のものがより似ている。
韓国に落下した北朝鮮の無人機とも似ている。米国のものとは、形も大きさも、運用形態も全く異なっている。
また、2017年に中国が小型無人機の大群を運用して、自爆攻撃構想が映像で公開された。この構想が、初めて中東で実行されたのである。
これまでは、小型の無人機は、飛翔距離が短く戦略兵器としては注目に値しない傾向にあったが、現在は、最も注目しなければならない兵器になった。
その理由は、以下の通りである。
①発見されずに、定められた軌道で長距離を移動し、敵国に侵入する
②目標に正確に命中して爆破する
③小型でも大群で襲いかかれば、その効果はかなり大きい
④中露の測地衛星の誘導があってこそ、計画された経路を飛翔する
⑤中国が生産・輸出し、テロ支援国家のイランや北朝鮮が保有している
以下、注目しなければならない理由の詳細について解説する。
1.空から発見されず侵入し自爆攻撃
サウジアラビアの石油施設が、巡航ミサイルと無人機の突入で攻撃された。サウジ国防省の報道官によると、18機の無人機と7機のミサイルによって、アブカイクおよびクライスの石油施設が攻撃された。
私が注目したのは、18機の無人機だ。
サウジ国防省が公開した焼けただれた無人機は、少数の大型機と多数の小型機に区分される。
大型機はイラン製のArabil UAV(フーシ名Qasef-1)の1種類だけだ。
小型機は数種類あり、焼け焦げ、壊れ、イラン製なのか、どの国が製造したのかどうかは判明していない。
焼けただれた小型無人機の形と同じものを、イランやフーシも保有していない。この点に、「大きな謎」が隠されている。
中国・ロシアが保有する機種と全く同じではないようだが、形が少し異なっているだけで極めて類似しているものがある。
サウジを攻撃して焼けただれた無人機に似ているのは、ロシアのZALA企業製の2種類、中国の太原航空会社および交通通信会社製の3種類、韓国に落下した北朝鮮小型機の1種類(中国Sky-09)だ。
2.長距離飛行で目標に命中する方法
数十から数百キロを、定められたコースを飛翔し、目標に到達し、命中するには、地球の上空2万キロの高度にある測地衛星による誘導が必要だ。
この衛星には、軍用と民間用のサービスがあり、軍用の誘導支援が絶対に必要だ。
軍用支援は、誰でもが使用できるものではない。一般的には、秘匿されている。だから、IS(イスラム国)は中露の測地衛星の支援を受けられないことから、小型無人機を自爆攻撃に使用することはできない。
北朝鮮やイラン、そしてイエメン反政府勢力などは、中露の支援があってこそ、使用が可能になる。
北朝鮮が実行するには、中ソのGPS支援がなければ使えない。北朝鮮の小型無人機は、中国太原航空会社および中国交通通信会社製のSky-09そのものを使用しているので、航続距離の範囲内で、爆弾を搭載して自爆攻撃ができる。
3.無人機はどの国が製造したのか
焼け焦げた小型無人機は、デルタ翼の形および幅広胴体と2枚の垂直尾翼の形の2種類がある。
これらに類似している小型無人機を保有するのは、ロシア、中国、北朝鮮の可能性がある。北朝鮮のものは、中国企業と同じものなので、今回は分析を省略する。
その1、まず、デルタ翼の小型無人機については、デルタ翼、全体的の大きさから、中国の太原企業のSky-19が最も似ている。
ただ、尾翼の形と位置が異なっている。とはいえ、これくらいの改造は簡単にできるであろう。
サウジ攻撃に使用された機と中国太原企業等製のSky-19(右)
その2、無人機の胴体部分が広く、後部に2枚の垂直尾翼とエンジン部分がついているタイプである。
後部の2枚の垂直尾翼とエンジン部分という点で見ると、イランやフーシが保有するAbabil-2に似ている。イエメンで破壊された無人機の写真と比べると分かる。
中国Sky-09と中国SKY-22
大きさと胴体部分が幅広という点で見ると、中国企業のSky-09とSky-22に似ている。
Sky-22の写真は、下方から写した写真だけであるが、幅広い胴体部分と垂直尾翼が2枚あることが分かる。
Sky-09を2枚の垂直尾翼に改良すれば、攻撃に使用されたものとほぼ同じである。
ロシアの無人機は、KUB-UAVとエレロン-3SVがある。KUB-UAVは、全体の形はやや似ているものの胴体部分が細いことで、自爆用には向いていない。
エレロン-3SVは、胴体部分が大きいが、全体的には小さいので、近距離の偵察用・自爆用には向いているが、サウジを攻撃したものは、中国のものよりは可能性が落ちる。
ロシア製の KUB-UAVとエレロン-3SV
4.大量小型無人機で自爆攻撃構想持つ中国
中国は、2011年太平洋地域でGPS誘導を可能にする北斗システムを完成させた。
その後、2011年艦艇に搭載し運用を開始、2013年には尖閣諸島に接近させた。
2017年小型無人機大群による目標捜索に続く自爆攻撃構想の映像を公開した。
2018年12月北斗3号システムを全世界で運用を可能にした。
中国が大群の小型無人機を運用した自爆攻撃構想を策定し、これを具体的に実現させる技術とシステムが確立するやいなや(翌年の9月)、中国のこの構想と同じことが、サウジの石油施設攻撃で実行された。
中国が小型無人機大群を使用した自爆攻撃の要領とその影響を紹介する。
2017年12月、中国の国立防衛技術大学(NUDT)(正式には人民解放軍(PLA)国立防衛科学技術大学)の研究者が、約20の小型無人機を使用した実験を行った。
この実験ビデオを見ると、爆弾を搭載した多くの小型無人機が群れを成して飛行し、目標地域まで飛行を続け、攻撃目標を探知し、そのまま突っ込んで爆発するものだ。
この構想は、北斗衛星システムを使った誘導技術がなければ実施できない。
Joseph Trevithick氏の論文(2018年1月16日)によると、前述のほかに、以下のような記述がある。
①マイクロ爆弾を投下する
②小型無人機の一つが米軍ステルス戦闘機F-22の吸入口から吸い込まれて入り、機を破壊する
③数百の小型無人機が、戦闘機群に入り込み、多くの戦闘機を破壊する。
小型無人機は、レーダーに映らないために、対応が難しい。韓国が北朝鮮の小型無人機を発見できていないことがこれを証明している。
北朝鮮は、中国の北斗システムの運用に合わせて、中国企業が開発した小型無人機を導入し、実際に韓国内部の偵察を行った。
北朝鮮は、中国の無人機と誘導技術の開発、艦艇からの発射実験に連携させて開発していることから、中国が考案した無人機大群による自爆攻撃構想の運用を開始するのも間もなくであろう。
中国・北朝鮮は、いつでも小型無人機を使って、日本を攻撃できることになる。
中国の北斗システム完成と無人機自爆攻撃の構想と実行の流れ
5.中国の小型無人機大群攻撃に要注意
戦闘機や巡航ミサイルを空中で破壊するには、対空ミサイルや対空機関砲弾を発射する。
この場合、これらの空中の目標をレーダーで捕捉し、計算機が戦闘機の未来予測位置を計算して、対空ミサイルおよび対空機関砲弾がそこに向けて発射される。
細部の誘導はミサイルが持つ誘導システムで目標を追いかける。これがこれまでの防空システムの原理だ。
小型無人機大群による日本への攻撃は、無人機の短い航続距離のことを考えると、次図(イメージ)のように、船舶で日本に接近し、発射し、海岸に近い可燃性の高い施設を攻撃するであろう。
その際、小型無人機は大群といえども、プラスチックで製造され、かつ小さい。だからレーダーにはほとんど映らない。
また、飛翔形態も、戦闘機や巡航ミサイルと違って、方向と高度を自由自在に変更し小回りができる。こうなると、未来予測位置を計算することが難しくなる。
また、小型無人機を対空ミサイルで撃墜するには費用対効果が悪すぎる。
高射機関砲を配置する場合、射程が短いために、すべての地域に配置することができない。
小型無人機は大量に使用されるために、防御側は、自爆攻撃目標を限定しにくい。そのために、高射機関砲をどこに配置すればよいか、優先順位が決められない。
だが、小型無人機がGPS誘導であるがゆえに、別の対策がある。
小型無人機の攻撃には、電磁波を指向して照射すれば、無人機に飛翔の指示を与えるGPS誘導が不可能になり、混乱して墜落する。
米軍はエネルギー兵器「LMADIS」(海兵隊装備)および「THOR」(空軍装備)という兵器を開発している。
有効範囲はどれくらいなのか不明だが、日本も近いうちに必要になってくる。
小型無人機の大群による自爆攻撃要領(イメージ)
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