(柳原 三佳・ノンフィクション作家)

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 まずは、このニュース映像をご覧ください。

『埼玉の国道で後続車が急停止、あおり運転の男逮捕』(2020.6.8/TBS NEWS
https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3998524.html

 6月4日、暴行の疑いで逮捕された48歳の男は、国道でジグザグ運転を繰り返しただけでなく、被害車両の前方に割り込み、運転席からモデルガンのようなものをちらつかせて後続車を威嚇。そのうえ、右側の車線に停止すると、怒鳴るようなしぐさを見せながら車から降りてきたのです。

 一般道とはいえ、交通量の多い道路でいきなり停止させるというのは、極めて危険な行為です。急停止できずに後続車が突っ込み、大事故につながる恐れもあります。

 さらに驚いたのは、この男が「そんなことは覚えていない」と容疑を否認しているという事実です。

 これほど鮮明な映像が残されているので、おそらくそんな言い逃れは通らないはずですが、逆に言えば、ドライブレコーダーの映像がなければ、「あおり運転」や「暴行」の立証は極めて難しかったといえるでしょう。

「あおり運転」に関する法律、続々改正

 すでに報道されている通り、今国会で「あおり運転」に関する法律が相次いで改正されました。

 まず、6月2日、「改正道路交通法」が衆議院本会議で可決・成立し、他車の通行を妨害する目的での『車間距離不保持』『急な車線変更』『急停車』『蛇行運転』などの違反行為を「あおり運転(妨害運転)罪」と定めました。

 こうした運転行為を一般道で行った場合の罰則は、『3年以下の懲役または50万円以下の罰金』、高速道路で他車を停止させるなどした場合は、『5年以下の懲役または100万円以下の罰金』となり、いずれも一発で免許取り消しという厳しい処分の対象となります。

 新しい道交法の施行は6月末の予定なので、冒頭で紹介した埼玉のあおり男は改正前の法律で裁かれることになりますが、いずれにせよ、人身事故が起こらなかったことだけは、不幸中の幸いだったといえるでしょう。

東名高速で起きた、あの痛ましい事故の教訓も法改正に反映

 一方、6月5日には、あおり行為などの妨害運転を厳罰とする、「改正自動車運転死傷処罰法」が、参院本会議で可決、成立しました。

 こちらも、走行する車の前に割り込んで停車するなどの行為を新たに「危険運転」として処罰の対象とし、こうした悪質な行為によって相手にけがをさせた場合は『15年以下の懲役』、死亡させた場合は『1~20年の懲役』に改正され、今年7月から施行される予定です。

 実は、「自動車運転死傷処罰法」の法改正のきっかけとなったのは、2017年6月に東名高速道路上で発生したあおり運転による死亡事故でした。

 パーキングエリアで注意したことをきっかけに逆上した男が、夫婦と2人の子どもが乗ったワゴン車を執拗に追いかけ、最終的に追い越し車線でワゴン車の前に割り込んで停車。その直後、後続のトラックがワゴン車に追突し、子どもたちの目の前で夫婦が亡くなったという悲惨な事故でした。

 被害車の前に割り込んで停車させた男は、危険運転致死傷罪で起訴されました。しかし、危険運転致死傷罪は、「重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」が処罰の対象となっているため、「停止」という行為を「危険運転」として裁くことができないと判断され、裁判では高裁から一審に差し戻されたのです。

 そこで、こうした悪質な行為による事故に対しても、実態に即した対処ができるよう、「妨害目的での前方停止」という2つの類型(=罪の対象となる行為)を「危険運転」に追加しようということになりました。

 6月2日、私は参議院の法務委員会に参考人の一人として出席し、これまで約30年にわたって交通事故被害者、遺族の取材を続けてきた立場から、そして、長年クルマや大型バイクに乗り続けて来た運転者の立場から、「供述調書」に頼らない客観的な捜査の必要性など、さまざまな意見を述べてきました。

 また、私の前には、法政大学大学院法務研究科の今井猛嘉教授、早稲田大学大学院法務研究科の松原芳博教授が、法律の専門家のお立場から貴重な意見を述べられました。

 この日2時間半に及ぶ法務委員会を傍聴された「クルマ社会を問い直す会」の共同代表・足立礼子氏はこう語ります。

「7名の議員は、理不尽な交通裁判の現状や被害者遺族の苦しみにも関心を寄せ、この法案の適切な運用と悪質運転をなくすための対策について、参考人に熱心な質問をされていました。その質疑から、ドライブレコーダーの使用による客観的な事故検証や交通教育の見直しの重要性など、さまざまな課題が浮き彫りになりました。今回出された意義ある問題提起をぜひ事故抑止の対策につなげてほしいと思います」

 当日のやり取りは、すべて参議院の国会サイト(https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=5842)に映像として記録されており、法務委員会に属する各議員の質疑と、参考人の答弁もすべて視聴することができますので、ぜひご覧いただければと思います。

客観的証拠「ドライブレコーダー」の必要性

 一方、厳罰化が進む中、「冤罪」を心配する声も上がっています。「あおり運転」に対する世間の関心が高まる今、危険回避のためのとっさの車線変更や急停止、また突然の発作など、ドライバー本人に悪気のない行為までもが「あおり運転」と誤認される場合があるかもしれないからです。

 この問題についても、6月2日に行われた参考人質疑で議論となったのですが、加害者の「あおり行為」を立証するためだけでなく、万一のときにわが身の潔白を証明するためにも、ドライブレコーダーの装着は必須です。映像さえ残っていれば、その瞬間を立証することができるのです。
 ちなみに、上記参考人質疑の中の小野田紀美議員(自民党・国民の声)とのやり取りの中に、岡山県警の画期的な取り組み、「岡山県あおり110番鬼退治ボックス」の話題が出てきます。これは市民から、危険運転あおり運転に関する情報提供を呼びかけるもので、特にドライブレコーダーなどによる映像情報を募っています。

 下記のニュースにもある通り、この「鬼退治ボックス」には、半年で574件の情報提供が寄せられたそうです。

岡山県警「あおり110番」開設半年 摘発13人、情報提供は574件』(2020.6.2/山陽新聞digital
https://www.sanyonews.jp/article/1017909

 大事故が発生してからでは遅すぎます。その前に、危険なドライバーを“退治”しておくことはなにより大切だと思います。

 今回の法改正による一連の厳罰化、そしてドライブレコーダーや防犯カメラによる監視の目が、悪質な「あおり運転」の抑止につながることを期待するばかりです。

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*写真はイメージ