賭けマージャン問題で東京高検検事長を辞職した黒川弘務氏は「常習賭博罪に当たる」として6月2日、市民団体が告発状を東京地検特捜部に提出したという報道がありました。黒川氏は現金を賭けたマージャンを複数回行ったことを認めており、捜査・立件されないことを疑問視しての行動ですが、そもそも、告発は「誰でも」「誰に対しても」できるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

「告訴」は被害当事者によるもの

Q.まず、「告訴」と「告発」の違いを教えてください

牧野さん「まず、告訴とは、犯罪に遭った被害者・その家族・遺族、その他法律に定められた一定の者が検察官や司法警察員(巡査部長以上の警察官など)に対して、犯罪行為・犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示をいいます(刑事訴訟法230条1項)。

一方の告発ですが、一般市民は誰でも犯罪があると思うときは、捜査機関に対して犯罪行為・犯罪事実について申告し、国による処罰を求めるために告発をすることができます(刑訴法239条1項)。公務員は職務上、犯罪があることを知ったときは告発義務を負います(刑訴法239条2項)。

つまり、告訴と告発の大きな違いは、犯罪の被害に遭った当事者や一定の関係者によるものか、当事者以外の一般市民や公務員によるものかという点です」

Q.「警察に被害届を出した」という報道をよく見ますが、告訴・告発と「被害届」はどう違うのでしょうか。

牧野さん「被害届は、被害を受けた本人か、弁護士など代理人やその法定代理人(親権者や後見人)が、犯罪の被害に遭ったことを警察に知らせるための書類のことです。刑事訴訟法上の書面ではないので、刑訴法で明記されている告訴や告発とは、その扱いが異なります。

例えば、告訴・告発は捜査機関が受理した場合、調書の作成などの義務が生じます(刑訴法241条2項)が、被害届の場合は、そうした義務は生じません。また、被害届は被害事実を申告するものであって、犯人の起訴を求める意思表示は含まれていないとされます」

Q.告発状を提出する先は決まっているのでしょうか。どのような内容が必要で、費用はどれくらいかかるのですか。

牧野さん「告訴・告発は書面か口頭で、検察官または司法警察員に対して行います(刑訴法241条)。検察庁および警察署のほか、告訴・告発先となる捜査機関には、都道府県労働局、労働基準監督署、厚生労働省地方厚生局麻薬取締部などがあります。

宛先は所管の警察署長または検察官、もしくは労働基準監督署長が一般的です。主な記載事項は、告発人(と代理人弁護士や行政書士)と被告発人(同)の住所、氏名、生年月日、職業、電話番号はもちろん、告発の趣旨(罪名)、告発事実、告発に至る経緯、証拠資料、添付書類(証拠資料の写しや委任状など)といったものです。

告発人本人が自ら行えば、告発状の作成・提出の実費以外の手数料はかかりません。しかし、一般の人が作成すると不備があったり、不十分な記載になったりするので、専門家の弁護士、司法書士、行政書士といった代理人に、作成や提出を依頼する人が多いです。代理人に告発状の作成・提出を委任した場合、報酬や実費を払う必要があります」

Q.「告発は誰でもできる」ということだと、さまざまな犯罪の告発状が多数警察や検察に出されることもありそうです。告発状を提出したら、必ず捜査してもらえるのでしょうか。その後の流れとともに教えてください。

牧野さん「告発状の受理は重大な行政機関の行為であり、単なる『言い掛かり的な告発』を受理しないよう、告発状の内容が具体的に整っていないと受理されないようです。告訴状もそうですが、提出されても必ず受理されるというわけではなく、いったん預かりとなって、捜査の要不要などを判断して、受理するか不受理にするかが決まります。司法警察員が告発を受理した場合は、書類または証拠物を検察官に送付しなければならない義務が発生します(刑訴法242条1項)。

ただし、市民には告発を行う権利はありますが、捜査機関に捜査を行わせる権利も、公訴の提起(刑事事件の起訴)を行わせる権利もありません。

捜査については、先述したように、対象となる犯罪があると捜査機関が考え、必要を認めた場合に行うもので(刑訴法189条2項、191条1項)、告発による捜査機関の捜査の義務はありません。また、公訴の提起(刑事事件の起訴)についても、検察官が公訴を行うか不起訴処分を行うかどうかは職権で決めるものです(刑訴法247条、248条および249条)」

Q.告発する相手は誰でもいいのでしょうか。例えば首相や大臣、国会議員を一般市民が告発することもできるのでしょうか。

牧野さん「先述したように、刑訴法は、誰でも犯罪があると考えるときは告発できることを明記していますので、誰の犯罪でも告発をすることができます。ただし、人に刑事または懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、虚偽告訴等罪として、3カ月以上10年以下の懲役に処せられる可能性があります(刑法172条)。

これは、故意に『刑事または懲戒の処分を受けさせる』目的があった場合なので、過失(誤解)で相手が犯人だと思い込んで告訴や告発をした場合には、虚偽告訴罪にはなりません」

オトナンサー編集部

黒川弘務氏(2019年1月、時事)