(政策コンサルタント:原 英史)

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 持続化給付金が終盤国会の焦点のひとつだ。「幽霊法人」「トンネル会社」「中抜き」などに続き、11日発売の文春砲では「前田ハウス」なる「癒着」疑惑も出てきた。

 だが、「癒着」に関しては、記事をみる限り、不正や公務員倫理法違反は明らかでなく、文春砲にしては詰めが甘い。「中抜き」疑惑もよくわからない。役所の業務委託の場合、「〇億円渡すから適当にやって」ということはなく、事後的に何にお金をつかったかチェックする。報道や国会質問では、769億円の委託費を関係者で山分けしたかのような指摘もあるが、そうしたことは普通起きない。

 何か怪しいというだけの疑惑追及は、有害無益だ。事実無根の疑惑追及を昨年の国会でさんざん受けた経験上、強くそう思う。

 ただ、本件には問題がある。今回露呈した業務委託の構造は、不明瞭で理解しづらい。

・実質的には“電通コンソーシアム”として受託するのに、なぜサービスデザイン協議会なる団体が元請けになるのか。

・再委託・再々委託を多層的に行い過ぎていないか。結果として、役所のチェックが及ばなくなっていないか。

 こうした点は、さらに検証し、改善につなげるべきだ。

突出して少ない日本の公務員

 なぜこんな不明瞭な業務委託がなされたのか。問題の淵源としてまず、日本の公務員の数が極めて少ないことを認識しておく必要がある。雇用全体に占める公的部門(国、地方など)の比率は、OECD平均17.7%に対し、日本は5.9%(2017年)。先進諸国の中では突出して少ない。

 内訳をみると、国も地方もどちらも少ない。

「小泉内閣での民営化路線で、公務員の数が減ったから」などと誤解している人もいるが、これは違う。村松岐夫『日本の行政』(1994年)など、それ以前から長らく指摘されてきたことだった。

少ない公務員を支えてきた「外郭団体」

 なぜ少なかったかは諸説あるが、本題から外れるのでここでは触れない。ともかく日本では、少ない人数で公務を担ってきた。これを支えたのが「外郭団体」だ。伝統的には、役所にはそれぞれの部署に、所管の業界団体や特殊法人などの外郭団体があった。これらがいわば“下請け機関”の役割を果たしたので、役所そのものは少数でも仕事が回っていた。多くの場合、外郭団体には役所から天下ったOBがいて、役所との窓口役を務めていた。

「外郭団体」システムは、効率的行政を支えた半面、無駄や癒着の温床にもなっていた。負の面が問題となり、2000年前後から行政改革のターゲットになる。かつては各省庁のもとに大量の公益法人(社団法人、財団法人)がぶら下がり、役所と密接な関係を構築していたが、補助金や業務委託の必要性を厳しく見直して整理。さらに、新たな公益法人制度(2008年施行)で、各省庁との関係も断ち切られた。特殊法人改革や天下り規制などもなされた。

 こうして、かつての「役所と外郭団体の協業」システムは相当程度打ち壊された。代わりに、役割を求められたのが、競争入札に基づく「民間企業への委託」だ。だが、外郭団体をそのまま民間企業で置き換えようとしても、無理の生じることがある。例えば今回の事案では、「電通が直接受託すると、名義やキャッシュフローなどの面で支障が生じる(だから、協議会が元請けになった)」との話が出てきた。これを額面通りに受け取るかはともかく、こうした「支障」に便宜的に対応し、いつの間にか設けられていたのが、サービスデザイン協議会のような、いわば新種の「外郭団体もどき」だったのだ。

 こんな便宜的対応ではなく、正面から向き合おうとの議論がなかったわけではない。橋本龍太郎内閣のもとでの「行政改革会議最終報告」(1997年)では、中央省庁再編などとともに、「政策の企画立案機能と実施機能の分離」が掲げられていた。

 伝統的に役所では、政策構想を練り上げる「企画立案」と、できあがった政策を確実に執行する「実施」が同じ組織で連続的に担われてきた。結果として、「企画立案」ばかりに目が向き「実施」は軽視されるなどの問題が生じがちだった。そこで、「企画立案部門」と「実施部門」を分け、それぞれに最適な体制を構築しようとの方針が定められた。

 ところが、その後の実際の取組をみると、看板の架け替え程度にとどまることが多く、「実施部門」の本格整備は概して不十分なままだった(省によって濃淡もあるが、特に経産省は伝統的に「実施」が軽視されがちで、改善も不十分だった)。

 今回の疑惑は、こうした中途半端な行政改革の隙間から噴出したものだ。無駄や癒着を断ち切る「破壊的な行革」は進んだが、公務をしっかり担うための「建設的な行革」は不十分だった。前者は国民の関心も高く、政治の力がそそがれやすい。一方で、後者は地道で、多くの人の関心外のまま、惰性に阻まれてきた。結果として、不明瞭な仕組みが作られることになった。

「デジタル政府」化では公務員が少ないことをメリットにできる

 これを機に、20年来の課題である「実施部門」の整備に改めて取り組むべきだ。

 今回の補助金執行のような行政事務を担うため、正面から「準公的機関」の制度化を検討したらよいと思う。サービスデザイン協議会は「設立に経産省が関与した」との疑惑も取り沙汰された。真偽は知らないが、おそらく経産省としても、こうした協議会の存在が必要だったのだろう。それならば、「あくまで民間で設立した協議会」などと取り繕っていないで、堂々と役所が設立したらよい。その代わり、純粋な民間機関ではなく準公的機関と位置付け、それにふさわしいガバナンスの仕組み、再委託ルールなどをきちんと制度化すべきだ。

 行政改革会議最終報告から年月を経て、大きく変わったこともある。「デジタル政府」を支える技術の飛躍的進化とマイナンバー制度だ。かつては人海戦術でこなさなければならなかった事務の多くは、今や人手を介さず実施できるようになった。日本はこれまで「デジタル政府」で欧米諸国から出遅れてきた。

 だが、実はこれから大逆転の可能性も秘めている。「実施部門」で多くの人員を抱えてこなかったからこそ、抜本的な省力化を伴う、これからの本格的な「デジタル政府」には真っ先に移行できる可能性がある。

 コロナ後に向け、世界に先駆け新たな行政モデルを構築できるかどうか。「持続化給付金」疑惑の出口はここだ。

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