歌手・浜崎あゆみの自伝的小説(小松成美著)を基に、そのセンセーショナルなデビューの裏側を描く「M 愛すべき人がいて」(テレビ朝日系)。平成の歌姫となる若きアユ(安斉かれん)と彼女を見出し社運をかけて売り出すレコード会社専務のマサ(三浦翔平)の運命的な恋が展開していく。この愛憎渦巻く今期一番の“バズり”ドラマについて、コラムニストの木村隆志と、ドラマに詳しいライターの横川良明、小田慶子が徹底的に語り合った。

90年代の音楽シーンのドラマを80年代の手法で作っている

小田「6/13土より放送が再開されることが発表されましたね。第4話で田中みな実さんがウェディングドレスを着てマサに結婚を迫るシーンを楽しみにしていました(笑)」

木村「話題になっていますね。なって当然だと思います。以前から、テレビ朝日とABEMAが組んで、同じ鈴木おさむさんの脚本による『奪い愛、冬』(18年テレビ朝日系)など、ドロドロ路線のものを作ってきました。もはや一つのジャンルになっている」

小田「『奪い愛』シリーズも水野美紀さんの怪演で楽しませてもらいました。それと違う点は『M-』は制作に角川大映スタジオが入っているということかな」

木村「鈴木さんは最初から明言していますね。『スチュワーデス物語』(83年TBS系)のような、いわゆる大映ドラマを作りたいと。ほぼ完全にオマージュとして作っていると思います」

小田「だから妙に懐かしい感覚が…。『スチュワーデス物語』で片平なぎささんが『ヒーローシー!』と言って怪演した社長令嬢が、このドラマで田中みな実さんの演じる礼香に当たるわけですね」

横川「僕たち30代からすると、大映ドラマというより、東海テレビ制作の昼ドラ『真珠夫人』(2002年フジテレビ系)や『牡丹と薔薇』(2004年フジテレビ系)を思い出します。ベタな愛憎劇という点では、そんなに目新しさはない気がするんですが、もっと若い20代以下から見ると新鮮なのかも?」

木村「新しいことをやっていると思いますよ。80年代大映ドラマ90年代の音楽シーンをフュージョンさせているから、どちらの世代も楽しめる。そして、今の若い世代もネタドラマとして楽しむ。コントでもないけれどドラマでもなく、まったく違うジャンルを行っている」

小田「たしかに見ていると『痛快TVスカッとジャパン』(フジテレビ系)や『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』(TBS系)の再現ドラマ部分を見ているような感覚に(笑)」

横川「ちょっとうがった見方ですが、現在、視聴率というのはなかなか狙って取れないというか、コントロールできないものになっている。それに比べると、Twitterのトレンド1位は狙いやすい。そういう狙いがあるのかな?とも思います」

■ アユ役の安斉かれん、マサ役の三浦翔平のバランスが◎

小田「アユを演じている安斉かれんさんはどうですか? 彼女自身もavexの隠し玉というか新人アーティストなんですよね」

横川「アユにそっくりではないけれど、デビュー当時のアユにリンクするものがある。ちょうどいい人をよく見つけてきたなぁと感心しました」

木村「『スチュワーデス物語』を踏襲している作品なので、当時の堀ちえみさんみたいな演技初心者で正解だと思いますね」

小田「『アユ、できます』『アユ、頑張ります』という素朴な二語文が印象的ですよね…」

木村「周りのキャストがパワフルな演技をしているので、あのぐらいの演技でちょうどバランスが取れている。今は最初から完成品が求められるけれど、それこそ80年代はデビューしたばかりの新人がドラマに出ていたわけですから」

小田「マサ役の三浦翔平さんはどうですか?」

木村「三浦さんは『奪い愛、冬』でも鈴木おさむさんと組んでいますよね。このチームには合っていると思います」

横川「今回はいつもに増して目ヂカラが強くて、怖いぐらい」 

小田「ギラギラと野望に燃える男を熱演していますよね。私なら、この専務には付いていけないかも…。でも、第2話でアユが放してしまった風船をジャンピングキャッチしながらかっこよく登場する場面で、ハートをつかまれました。あんなことされたら惚れてまうやろ(笑)」

■ 眼帯姿で怪演の田中みな実、悪役の久保田紗友に注目!

小田「脇役で目立っているのは田中みな実さん。マサの秘書・礼香役で眼帯をしながら『許さなーーーーーい!』とメンチ切る姿が、夢に出てきそうなぐらい怖いです」

木村「振り切った演技で、女優のキャリアが長い水野美紀さん(トレーナーの天馬役)と同等のことをやっていますね」

横川「たしかに面白いけれど、ただ、僕はこの演技を“上手い”ということにはしないほうがいいと思います。というのは、この手のキャラを演じた女優さんが同じ路線でしかオファーされなくなってしまうパターンを見てきたので…」

小田「たしかに。数年前まで局アナとしてニュースを読んでいた人なのに、何もここまで(笑)」

木村「いや、実際、この作品では“上手い”でしょう。普通の女優さんにはできないことをやっていて、すごいと思います」

小田「礼香は原作小説には出てこない。でも、ドラマにはこの強烈なキャラがいることで逆にホッとできるというか。『これは現実じゃないんだ、ギャグなんだ』と思えます」

横川「なるほど。そういう役割を果たしてるわけですね」

小田「『スチュワーデス物語』のオマージュだとすると、礼香は最後に改心するんじゃないかな?と楽しみです。他にインパクトが強かったキャストはいますか?」

木村「理沙役の久保田紗友さん。これまでは黒髪の美少女というポジションでしたけれど、今回は嫌な感じをうまく出していますね」

小田「典型的ないじめっ子ポジションですよね。アユの頭にジュースかけたり、風呂場で転ばせたり…」

横川「清純派だったけれど、ここでイメージを変えられたのでは」

小田「アユに負けたくないあまりに色仕掛けもやってしまう…。久保田さんは『過保護のカホコ』(17年日本テレビ系)のイトちゃんが印象的でしたが、感情の激しい役の方が合うのかな」

横川「アユの前の事務所社長を演じる高橋克典さんのキャラも好きです。業界の大物感が出ていて(笑)」

小田「社長、マサを認めていて、いい人なんですよね~。克典さんもいるし高嶋政伸さんも出ている」

横川「テレ朝ドラマの常連キャストがこれでもかと…」

小田「まるでぜいたくなコントをやっているようにも見えます。しかも、みんな本気すぎる(笑)」

■ ドロドロの愛憎劇としてベタに徹したスタイルがすごい!

小田「90年代にカラオケでavexのヒット曲を歌いまくっていた身としては、他のキャラも気になります。久保田さん演じる理沙を含む4人グループはMAXかな?とか」

横川「相川七瀬さんやTRFの曲を歌うキャラも出てきましたよね。小室哲哉さんみたいな役もこれでいいのかと。TKというイニシャルだけ合っているけれど」

小田「輝楽天明ってすごい名前ですよね(笑)。でも、改めて当時の小室さんは神がかっていたなぁと…。globeの『DEPARTURES』はやっぱ名曲ですわ~」

木村「マサのセリフに『アユがここにいる全員のボーナスを稼ぎ出す。そんな日が必ず来る』というのがありましたが、最初から結末はネタバレしているドラマなんですよね。それをみんなで楽しむもの」

横川「いわゆる“とんでもドラマ”なんだけど、アユと礼香の対決シーンなど、やるべきことをやっているという意味では評価できると思います。他にもイライラ系のドラマがありますが、描き方が中途半端だと面白くないので」

木村「これはなかなか他のチームでは真似できないですよ。どうしても作り手ってかっこよさというかクオリティーを求めてしまうので、ここまでベタにやりきれない。そのハードルを超えるのは、簡単ではないんです」

小田「そうですよね。だから、始めは『えーっ、ここまでやっちゃっていいの?』と驚くけれど、見ているうちに圧倒され『負けました』ってなりました(笑)。こうなったら、その“予定されたゴール”まで見届けます!」

●プロフィール

木村隆志=コラムニスト。地上波のドラマはすべて視聴している。毎月20~25本のコラムを寄稿。「週刊フジテレビ批評」(フジテレビ)に出演中

横川良明=映像・演劇を中心に取材・執筆。著書にインタビュー集「役者たちの現在地」(KADOKAWA)発売中

小田慶子=出版社に勤務後、フリーとなり芸能人のインタビューを多数執筆。雑誌「LDK」などでドラマコラム連載中(ザテレビジョン

「M 愛すべき人がいて」が放送再開