連続テレビ小説朝ドラエール』は、間もなく物語の折り返し点を迎える。音楽を通じて出会い、夫婦になった古山裕一と(旧姓・関内)音がハーモニーを(時には不協和音も!?)織りなすように紡いでいくストーリーも好評で、次なる展開への関心も高い。個性豊かなキャスト陣の注目度も上昇する中、この機会に改めて主演を務める窪田正孝にスポットを当ててみる、というのが当コラムのテーマ。というわけで、過去に出演した朝ドラ2作での彼に的を絞ってプレイバックしていく。歴代の朝ドラ作品を観てきた人にはもちろん、『エール』で窪田正孝という俳優を知った人、『エール』で初めて朝ドラを観るようになったという窪田ファンの人にも、彼の“朝ドラ歴”を紹介できれば、これ幸いに──。

文 / 平田真人

さかのぼること、ちょうど10年前。2010年度前期(4〜9月)に放送された『ゲゲゲの女房』で、窪田は初めての朝ドラ出演を果たした。役どころは、向井 理演じる村井 茂=水木しげるアシスタント・倉田圭一。『墓場の鬼太郎』や『悪魔くん』のヒットで、茂ひとりでは連載を続けていくのが大変になり、人手を探していたところ、抜きん出た画力を茂に見初められる──という経緯で、物語に登場する(第17週「プロダクション旗揚げ」の第98回)。大阪で看板屋に勤めるかたわら、せっせとマンガを描いては投稿していた夢多き青年は、売れっ子となった茂のお墨付きをもらって意気揚々と上京。ヒロインの布美枝(松下奈緒)たちへの挨拶もそこそこに、さっそく締め切りに追われる茂の作業を手伝うことに。そのくだりで『巨人の星』の星飛雄馬さながら倉田の瞳が炎となって燃えさかり、マンガに対する熱血度の高さがうかがい知れるという、ちょっとした遊びのきいた演出がほどこされている。生真面目な性格のキャラということもあって、本作では真顔が多いのも特徴。だからこそ、時折見せる笑顔の破壊力がえげつない(顔つきそのものはまだあどけなく、横分けした髪型もどこか初々しい)。また、自身は生粋のハマッ子である窪田が大阪弁の絶妙なイントネーションのセリフを終始聞かせてくれるというのも、トピックの1つとなった。その後、『花子とアン』では甲州弁、『エール』では福島弁と、いずれも朝ドラでは方言を話すことになるのを考えると、なかなかに興味深い。

ちなみに、水木プロ初期のアシスタント3人衆は、倉田と斎藤 工演じる小峰 章、柄本 佑扮する菅井 伸という…今からすると何とも豪華な顔ぶれ。お互いを「小峰さん」「倉さん」「スガちゃん」と呼び合う関係性もさることながら、冷静沈着で飄々とした小峰、ストイックで情熱家の倉田、画力の心もとなさを人柄と調子の良さでカバーする愛されキャラの菅井と、トリオコントラストも絶妙だったことを追記しておこう。

なお、窪田=倉田圭一最大の見せ場は第19週(第109回~114回)で描かれたエピソード鬼太郎ブームがはじまった」に集約されている。『墓場の鬼太郎』が『ゲゲゲの鬼太郎』としてテレビアニメ化されて大ブームを巻き起こしていく過程とともに、第二子を身ごもった布美枝をサポートするため村井家で暮らしていた末妹・いずみ(朝倉えりか)と倉田の揺れ動く心模様が綴られたパートは、水木プロの勃興と夢を追う若者たちの葛藤と取捨選択をきめ細やかに見せることで、単なるサクセスストーリーにとどまらず、ビタースイートな後味を残す。
中でも印象的なのは、漫画家として大成した上で、いずみに気持ちを伝えたいと考えるあまり焦る倉田が、茂からこんな言葉をかけられるシーンだ。

「促成栽培では、すぐに枯れてしまうぞ。近道を探してはいけん」と──。

それはあたかも、俳優としてまだ発展途上にあった窪田自身にも響いたのではないかと思わせるセリフでもあった。2008年に1年に渡って放送されたテレビ東京系の連続ドラマケータイ捜査官7』で単独主演に抜擢、翌年には『浪花の華〜緒方洪庵事件帳〜』で初の時代劇にしてNHK作品に出演(栗山千明ダブル主演)を果たすなど、順調にステップアップしていたのは確かだったが、伸び盛りであることを考えれば、朝ドラ初出演もまだ通過点のひとつに過ぎない。今になって見直してみると、そんなふうに思えたりもするから、不思議なものだ。事実、じっくりと10年をかけて朝ドラ主人公というポジションにたどり着くわけで…そう考えると味わい深さがいっそう増してくる。

余談ながら、窪田自身が腰を据えて見始めた初の朝ドラが『ゲゲゲの女房』だったことを、先だってのWHAT’s IN? tokyoでのインタビューで明かしてくれている。向井と近ごろ交わした会話や、倉田といずみの恋模様が用意されていたことを知ったときの心境など、当時を振り返りつつ『エール』にかける思いを語っているので、いま一度のご一読を…。

さて、『ゲゲゲの女房』から4年。窪田は2作目の朝ドラに臨んだ。2014年度前期の『花子とアン』だ。今では誰もが知るモンゴメリーが著した児童文学の名作『赤毛のアン』を翻訳して日本に広めた村岡花子の半生をベースに、吉高由里子演じるヒロインの生きざまを描いた一代記。窪田は、安東はな(のちの村岡花子)の幼なじみで、彼女に密かに想いを寄せ続けた木場朝市(きば あさいち)を好演し、茶の間に顔と名前を知らしめることになる(※同年の10月クールに放送されたTBS系ドラマ『Nのために』で、さらに注目度が増す)。20代半ばを迎えて、熟成期に入りつつあったタイミングでの“朝ドラ登板”が、窪田のキャリアにおいても重要な位置づけとなったであろうことは想像に難くない。

第3週「初恋パルピテーション」から登場した窪田は、はな役の吉高と共に、幼少期の子役からバトンを受け継ぐカタチで思春期からの朝市を生き生きと演じた。東京の女学校に編入して5年、見違えるように洗練された出で立ちで甲府に帰省したはなに見とれて、思わず言葉も忘れてしまうほどの純朴さを、初っ端から瑞々しく体現せしめている。なお、朝市の髪型は『ゲゲゲの女房』の倉田と同じく横分けだが、畑仕事で常に陽を浴びていることから、日焼けと土汚れで顔が浅黒い。そのせいか、はたまた朝市の控えめな性格が投影されたのか、倉田よりも柔らかな印象を受けるのではなかろうか。はなが重そうに抱えていたトランクを何も言うことなく運ぶなど、ジェントルで誠実な面を見るにつれ、最近で言うところの“朝市沼”に落ちるのは必至かと思われる。

また、“ゲゲゲ〜”では大阪弁を操ってケレン味も感じさせた反面、“花アン”では、「てっ!」「こぴっとするづら」「おはようごいす」など、どこかユーモラスな響きの甲州弁を話す朝市に、ほっこりとさせられることだろう。萌えどころとしては、はなと朝市にとっての“聖域”とも言える甲府の教会の図書室でのシークエンス(第10週「乙女よ、大志を抱け!」の第57回)を挙げたい。2作目の児童小説『たんぽぽの目』を執筆中に居眠りしてしまったはなの顔を見つめて、「ぼこ(小さな子のこと)みてえな顔して…」と、優しく微笑む朝市。ただただ、好きな人の近くにいてそっと見守るプラトニックスタンスに、彼の優しさと誠実さが凝縮されている。が、その濁りのない純なる想いが、やはり朝市に恋心を抱き続けてきたはなの末妹・もも(土屋太鳳)を、はからずも傷心させてしまう。はなと朝市、ももによるトライアングルを経て、第11週「グッバイ!はな先生」の第66回で、東京の出版社で働きたいという自分の気持ちに正直になるよう諭す朝市の男気に触れると、パルピテーション(※劇中で、はなが“恋によって上がる心拍数”と訳す単語)が限界突破するのは確実なので、注意されたし──。

なお、好きだからこそ相手の気持ちを尊重する朝市の心意気は、同性から見ても粋そのもの。のちに、はなの夫となる村岡英治(鈴木亮平)が煮え切らないと知るや、珍しく強い口調で「アンタもはなのことが好きなら、はなの気持ちをこぴっと受け止めてやってくりょう!」と、背中を押すシーン(第15週「最高のクリスマス」の第89回)などは、思わず惚れ惚れとさせられる。そのセリフに続いて、朝市が本当の気持ちを英治に告げる窪田の抑えのきいた芝居が、それこそ“最高”なので、ぜひお目通しいただければと願うばかりだ。

書きたいことはまだまだあるのだが、百聞は一見にしかずということわざもある通り、何より『ゲゲゲの女房』と『花子とアン』を見ていただくのが一番かと。その上で、『エール』で主人公を堂々と演じている窪田正孝の雄姿を目にすると、また違った感慨にひたれること請け合いだ。

蛇足ながら、窪田と朝ドラの奇縁を感じさせるこぼれ話をひとつ。いや、勘のいい人はとっくに気づいているだろう。倉田圭一に木場朝市、古山裕一。すべての役名に「いち」が付くという共通点は、はたして狙ったものなのか、はたまた偶然か──? とはいえ、表情の豊かさでは今作『エール』の裕一が随一であるのは間違いない。売れっ子作曲家となり、また父親となった裕一が音とともに暗黒の戦時をどう生きていくのか、窪田正孝の芝居にいっそう熱い視線を注ごうではないか。

エール』の主人公・裕一役が好評の窪田正孝。過去の“朝ドラ”出演2作品で見せた名演を掘り起こす!は、WHAT's IN? tokyoへ。
(WHAT's IN? tokyo)

掲載:M-ON! Press