人気のない街で目立っていた出前館やUberEatsの配達員。需要拡大とテレワークや飲食店休業要請の影響で、新規デビューした配達員も少なくないとか。

フードデリバリー
フードデリバリー大手の「Uber Eats
 今回は株式会社ヴァリューズによる国内ユーザー行動ログ、お店と配達員の声から、フードデリバリーの急伸ぶりと飲食業界そして働き方への影響を考察してみましょう。

出前館 vs UberEatsのバトル

 主要サービスユーザーログでは、出前館とUberEatsが4月に突出。それぞれ約550万のユーザーが利用し、とくにUberEatsは3月からほぼ倍増です。出前館は2019年5月時点ですでに300ユーザーが使っていたのでUberEatsほど劇的ではないものの、4月は3月に対し200万人ほどユーザーが増えました。

 NTTドコモのdデリバリーは400万人以上、楽天デリバリーも3社には及びませんが200万人近くが利用しています。ログ上の存在感はあまりありませんが、LINEデリマのほか、fineDine、menu、honestbee、渋谷区Chompyや大阪のDiDiフードといった新興勢、ローカル勢も参入し、市場拡大に期待がかかっているようです。

フードデリバリー
図表:フードデリバリーサービスユーザー数(スマートフォンおよびPCでアプリとサイトいずれかを使ったユーザー数。dデリバリー、LINEデリマは出前館)
 主要サービスのうち、dデリバリーとLINEデリマは各ブランドから出前館への送客・決済インターフェイス。楽天デリバリーは独自配送網による配達「楽天デリバリープレミアム」を3月16日から中止していて配達自体はお店が行っています。配達まで含む現時点のフードデリバリーとしては、出前館 vs UberEatsバトルと見て良いでしょう。

デリバリーに救われたファストフード

 4月7日緊急事態宣言後、飲食店の売上高は対前年比60.4%、とくにパブレストラン/居酒屋は8.6%と壊滅的な打撃を受けたわけですが、店内飲食を制限しつつテイクアウトやデリバリー営業を継続したファストフードだけは対前年比84.4%の売上を維持しています

フードデリバリー
図表:飲食店の業態別対前年比売上高(日本フードサービス協会外食産業市場動向調査)より
 以前の外食チェーンアプリ」戦争記事でとりあげたマクドナルドはなかでも強さを示し、4月の既存店客数が対前年比18.9%も減ったのに売上高は6.7%アップ。客単価は31.4%増え、1-3月に利用が落ち込んだ公式アプリユーザー数も4月には回復しました。

 もちろんテイクアウトも多かったと思いますが、5月12日発表の決算概況では自前マックデリバリーまたはUberEatsによるデリバリー実施店は2019年度末から72店舗増加の781店に達し「デリバリーのご利用は着実の増加」と売上への寄与に言及しています。

フードデリバリー
図表3:マクドナルドの公式アプリユーザーと業績(右軸)

ECと似て非なる食のマッチング

 UberEats、出前館とも、ECサイトと同じくサービス上に出店者から商材を登録してもらい、ネットアプリでお店(フード)と消費者をマッチングし、成約したら決済代行する仕組み。出前館は従来ここまでの機能でしたが、Uberが日本に進出した2016年からUberモデルすなわち自社配達員によるピックアップ&デリバリー(ECでいう物流)に参入し、拡大を図っています。

 出店費用はUberが無料、出前館は2万円です。お店から30~35%と言われる手数料、注文主からフード料金・配達料を得て、手数料を相殺したフード料金がお店に入金されます。メニューフード料金はお店が手数料や容器代などを考慮し、サイトに登録する点はECとも共通ですが、ECと違い、ネット上の営業時間も店舗で設定できます。

 お店へのオーダー通知や課金システム、入金サイクルはそれぞれ異なるため、多数のサービスを使えばチャネルと見込客は増える一方、その分のサイト更新、オペレーションや経理が面倒になる点もECと似ています。

 UberEatsにせよ、出前館その他のサービスにせよ、ECと決定的に違うのは、食という商材は作り置きができず、短時間に運ばねばならないこと。そして多くの飲食店はリアル店舗でのフード&サービス提供がコア事業で、サブ商材としてデリバリーに対応している点です(デニーズがデリバリー専用厨房を設けるなどの動きはありますが)。

 フードデリバリーは、リアル店舗のブランドを守りながらラストワンマイルを担うパートナーでなければなりません。

人気ハンバーガー店経営者に聞いた

ハンバーガー
イメージです(以下同じ)
 緊急事態宣言解除後も、蒸発したインバウンド消費の穴埋めや、家飲み・Zoom飲みという新たな競合との闘いにさらされる飲食店にとって、フードデリバリーは救世主といえるのでしょうか。筆者の知人で、UberEatsドライバー経験者かつ、複数のデリバリーサービスを使いこなす人気ハンバーガー店経営者に聞いてみました。

「来客の有無に関わらず家賃やバイト代といった固定費はかかるため、受注増のチャンスはもちろんありがたい話。既存顧客のネットオーダー以外に、来店経験のないファンも獲得できました。サービスごとに異なるオーダー通知(FAXも!)や入金手順は、やや複雑ながら、基本お金の流れは運営会社から店舗への一方通行なので、事務処理負担は売上に見合います」

 他方、最高の状態で料理を供したいお店の気持ちが直接届けられない、ときにデリバリー過程でうまく届かなくなる、万一トラブルが起きた際も直接お詫びや仕切り直しができないといったデリバリーならではの新たな課題も浮上。

「どのサービスにせよどの過程で生じたトラブルにせよ、注文主の不満はほぼお店へ向かうため、リスクマネジメント対象の店舗外への拡大を迫られました。例えば、自らの経験をふまえピックアップ時配達バッグの留め具が仕様通りに閉じられているか。

 なぜそれが必要なのかといった『美味しく届けるコツ』や『この一皿に賭けるお店の想い』などを伝えて気持ちよく運んでもらう努力です。UberEatsなどは注文主・配達員・店舗相互の匿名評価システムがありますが、注文主やお店が優良配達員を指定する機能はなく、人間同士でそこをカバーするということなのでしょう」

お店にとってのフードデリバリー

フードデリバリー
UberEats配達パートナーガイド」に配達員の工夫は載っているが、システムに反映されているとは限らない
 そしてリアル店舗そしてECと同様に、出店すれば誰でも即売上アップというわけではありません。立地やキャパシティをふまえた戦略が不可欠で、店舗とネットの反応を見ながら「ピーク時は受注をストップしてリアル接客優先」「近隣競合閉店後の夜食需要を攻略」などの戦術をチューニングしていきます。

 同じ都心でも高級住宅地から繁華街のど真ん中に移転したらネット上の顧客層が想定外に変化し、リソース配分転換を迫られたこともあるそうです。

 頼んだ人は、ちょっとお金がかかっても早く安全においしいものを食べたい。お店は最高の状態で楽しんでもらいたいし、ちょっとでも日銭を確保したい。配達員はたくさん稼ぎたい(歩合ならば件数をこなして)。食という絶対的なニーズをとりまくステークホルダーそれぞれが満足できるには、まだまだサービス改善の余地も大きいようです。

Uberと出前館。大きく異なる報酬体系

 UberEatsと出前館で大きく異なるのは配達員の報酬体系です。出前館は一般的なアルバイト同様10001400円の時給制バイクや制服は出前館が用意し、配達先のアサインなども全国275箇所の拠点が行います。

 これに対し、UberEats配達員はあくまで個人事業主の位置づけ。デリバリー1件につきお店でのピックアップ、注文主への配達完了と移動距離に対し報酬が発生する歩合制です。

 都内の場合ピックアップ265円、受け渡し125円。距離料金1kmあたり60円は全国一律です。繁忙時や雨の日、お店と注文主による優良配達員評価などで別途ボーナスが加算されます。

 報酬からサービス利用料10%を差し引いた額が配達員の取り分です。自転車バイクは自前で、あの配達バッグ通称「ウバッグ」も4000円(2020年4月現在。2019年6月までは8000円)のデポジット制で、報酬から1000円ずつ4回差し引かれ、退職の際はバッグと引き換えに返金される仕組みです。

フードデリバリー
UberEats配達パートナーガイドより
 UberEatsを通じてお店へオーダーが入ると後述する配達員向けアプリUber Driver」の地図に案件が表示されるので、運びたい案件に応募完了したら仕事開始。タクシーのように受注しやすい繁華街で案件待ちをする配達員も多いといいます。ある配達経験者によると通常は1時間2件程度が限界とのこと。いかにたくさん運ぶかが稼ぎに直結するため、誰もが本気で急いでいるのだそうです。

ログからUber配達員の急増が明らかに

 出前館は緊急事態宣言を受け、宅配寿司「銀のさら」などを運営する株式会社ライドオンエクスプレスホールディングスなどと共同で休業・営業縮小中の飲食店から一時的に従業員を受け入れる「飲食店向け緊急雇用シェア」を実施。雇用維持はもちろん、飲食店とデリバリー、異なる職場で食を扱う人同士の相互理解が進むとも期待されています。

 他方、Uber Eatsは前述の通り個人との契約でより雇用流動性が高いモデルですが、どんな人が働いているのでしょうか。配達員向けアプリUber Driver」のログから属性を確認します。

 2年前の2018年5月は1.3万人だった起動ユーザー数はこの4月に11万弱まで8倍以上増加しており、とくに今年に入ってからの伸びが顕著です。所持ユーザーはさらに12月以降急増中で、実車デビューに至らずとも検討した人は増えている様子。

 職業別に見ると、「会社勤務」ユーザーの想定を上回る多さに驚かされます。とくに3月と4月は「無職」を上回り、属性として最多でした。在宅勤務で通勤時間がなくなった分、Uberデビューしたユーザーも含まれるのでしょうか。

テレワークビジネスマンの副業になるか?

 学生、主婦/主夫を含む「無職」は年間を通じて利用が多いものの、1月以降とくにユーザーが増えています。「派遣/パートバイト」が2019年に比べ減っているのは、雇い止めなどの影響で契約社員自体が減り、無職人口が増えた影響でしょうか。

「会社経営」「自営業」には休業を余儀なくされた飲食店等の経営者も含まれると見られ、4月に利用が増えています。飲食店、デリバリー、そしてサービスを受けるユーザーの境界は、コロナ禍を機に薄れていくのかもしれません。

フードデリバリー
図表:Uber Driverアプリユーザー数(職業別)
 もともと体力に余裕のある20-30代が中心を担ってきましたが、2019年12月以降はさらに20代がどんどん増加。30代は大きな変化がありませんが、4月は40代ユーザーも増加しました。

フードデリバリー
図表:Uber Driverアプリユーザー数(年代別)

1000万円以上層も増加。ドライバー像は?

 ユーザーの世帯年収にも変化が見られます。300万-500万円の平均家庭よりちょっと低めの層はもともとボリュームゾーンではありましたが、4月は約4.6万人と全体の半数を占めました。気になるのは1月以降1000万円以上の高所得者の増加傾向です。これまた飲食店等の経営者などが含まれるのでしょうか。

フードデリバリー
図表: Uber Driverアプリユーザー数(世帯年収別)
 会社勤務や高年収のユーザーが増え、特徴的に利用が多いアプリも変化しています。とくに目立つのは4月の5位Zoom Cloud Meetings、10位Microsoft Wordといったビジネスツール新型コロナで「最も検索されたサイト」記事でも紹介したとおり急増していますが、オフィスワーカーのUber参入が大いに影響していそうです。

 UberEatsの1位は変わらないものの、消費者ユーザーの裾野が拡大する分、リーチ差としては74%から68%へと6ポイント縮小しました。メルカリもともに3位で変化はありませんが、Amazonショッピングは2位から9位に。

UberEatsブランド品が多数出品

 なお、「ウバッグ」は様々なバージョンがあり改善を重ねているそうです。複数拠点で働く配達員の2個目需要やUberキャリアのシンボルとして過去のバージョンが人気というだけでなく、ボードゲームなどの運搬に適していると一般の人が求めることも少なくないそうです。

 Amazonには公式と思われる新品バッグが、メルカリにはキャップやバッグカバーなども含めUberEatsブランド品が多数出品されています

 11月4位、4月6位の三菱UFJ銀行などは、海外口座から振り込まれる報酬がゆうちょ銀行ネット銀行未対応で、三菱UFJ銀行三井住友銀行が推奨されている影響と考えられます。

フードデリバリー
図表: Uber Driverアプリユーザーの利用が特徴的に多いアプリ2019年11月2020年4月。黄緑はEC、水色は金融/決済、黄色はSNSピンクビジネスツール。太字は各月どちらかだけに登場するアプリ
 InstagramAmazonプライム・ビデオYahoo!乗換案内などはトップ10に入らず、Pontaカードや配達のお供と思しきCoke ONなどがランクインしました。

求められる人間中心のデジタル変革

 Uberの筆頭株主はソフトバンクビジョンファンド。出前館は3月にLINEの追加出資を受け入れ、実質子会社化されます。2019年10月のZホールディングス-LINE経営統合後の動きはまだ見えませんが、大阪エリアで新規参入した滴滴出行「DiDiフード」を含め、どのプレイヤーが勝ち残ってもソフトバンク色になりそうです。

 いずれPayPay経済圏との連携も進むのではないでしょうか。楽天デリバリーが自社配送サービスを復活させるのかどうかも気にかかりますが、新規参入した通信事業やEC市場死守に忙しいかもしれません。

 2020年8月期 第2四半期の連結業績(2019年9月1日2020年2月29日)で「資本力のある大手競合他社と比較すると、抜本的な攻めの投資が十分に行われたとは言えない状況」と危機感を露わにする出前館は、LINEデジタル人材50名を投入し、「既存システムの抜本改修」を計画しています。

 配達場所の具体的な入口や入館方法、美味しく運ぶ工夫、そしてお店と注文主の人柄といった、データ化しづらいけれど多様な配達員が溜めてきた情報がデジタルに共有されるシステムなら、もっと楽しく働けるはず、というUberドライバーの声はリアルです。食という最も原始的な生理欲求を満たすサービスだからこそ、人間中心のデジタル変革が求められるように思います。

TEXTWACA上級ウェブ解析士 清水響子

【清水響子】

法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している

フードデリバリー大手の「Uber Eats」