『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、国会を延長しない安倍政権を批判する。

(この記事は、6月15日発売の『週刊プレイボーイ26号』に掲載されたものです)

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国会が6月17日で閉会となる。だが、新型コロナ対応を軸に議論すべきことが山積するなかで、国会を無理やり閉じるとは驚きではないか。

今すぐ国会で議論しなければならないテーマのひとつが、PCR検査体制の拡充についてだ。

現在、国内での感染状況は小康状態だが、病院や介護施設などでクラスターが発生している。「密」が発生しやすくなる現場において、ひとりでもコロナ陽性者が確認されたら、医療・介護現場で機能停止が起きる。ほかにも学校や職場での感染が起きれば、経済活動・社会生活の機能回復は著しく阻害される。

それを防ぐには、症状がなくても、感染者との濃厚接触者全員の追跡と検査、さらに医療・介護・教育現場で関係者全員の定期検査を実施して、無症状感染者が自覚のないまま職場などでコロナ感染を拡大させることを防がなければならない。

今のところ、PCR検査は1日1万件止まりで、経済再開後の「ウィズコロナ」のフェイズに応じた検査体制は整備されていない。世界に比べて「異常に」少ない状況だ。国会はこれまでの政府対応を検証し、検査増のために必要な法案作り、予算措置などを行なうべきだ。

医療・介護スタッフの処遇改善と企業関係者の国境を越えた往来の実現も大きな課題だ。

感染の危険と隣り合わせで患者対応に当たっているのに、補正予算で認められた慰労金は1回限りで額もわずかだ。コロナ対応で経費がかさんで、夏のボーナス減が予想される病院も少なくないという。医療・介護スタッフの収入が大幅に増えるような予備費の支出について、直ちに国会で議論すべきだろう。

また、国際的なサプライチェーンを維持するためにはビジネスマン技術者のスムーズな移動が欠かせない。各国の厳格な入国規制は徐々に緩和され始め、中韓などはすでに両国の企業関係者の往来に入国前、入国後のPCR検査などを条件にした「ファストトラック(迅速手続き)」を一部地域で設けると合意している。

だが、日本はPCR検査拡充が追いつかず、いまだ手つかずのままだ。ここでも国会の出番があるはずだ。

そのほかにもコロナ予備費10兆円の詳細な使い道の精査や持続化給付金業務の一般社団法人による手数料中抜き疑惑、コロナ収束後の観光喚起策である「GO TO キャンペーン」に高額な事務委託費(3095億円)が計上された問題など、国会でチェックすべき案件はたくさんある。

国会を延長しないのは、以上のような課題について野党の追及を避けるためだ。しかし、安倍首相がより恐れているのは、黒川前検事長の処分問題、桜を見る会での買収疑惑、さらには、森友事件の公文書改竄(かいざん)を強要された赤木俊夫さんの遺書公開による新事実など、進退に直接関わる案件を追及され、政権が倒れることではないのか。

東日本大震災があった2011年は、国会を8月31日まで延長、9月13日には臨時国会が開かれた事実上の「通年国会」だ。今年は、東京五輪の1年延期で会期延長を阻む壁もなくなった。

今秋にも予想されるコロナ第2波に備える対策に必要な法律や予算の審議も必要だ。それでも国会を閉じるのなら、自らの保身のために国民の命と生活を犠牲にするのかと批判されても仕方ないだろう。

古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

「それでも国会を閉じるのなら、自らの保身のために国民の命と生活を犠牲にするのかと批判されても仕方ないだろう」と語る古賀茂明氏