
米司法省は6月17日、米ツイッターや米フェイスブックなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)企業を保護している現行法を見直し、規制を強化するよう米議会に求める改正案を発表した。
利用者の投稿に管理責任
1996年に成立した「通信品位法(CDA)230条」では、利用者が投稿した発言や画像、動画などのコンテンツについて、プラットフォーム運営企業の法的責任を原則免除している。
つまり、SNS企業は利用者が投稿したコンテンツによって、他の利用者から訴訟を起こされても法的責任を問われない。また、投稿を削除した場合も同様に責任を問われない。
司法省はこの免責事項に除外項目を設け、児童労働搾取や性的虐待、テロリズム、サイバーストーキングなどの違法なコンテンツについて、運営企業に責任を持たせるよう提案している。
だが、SNS企業はこれに反論。免責は必要だと訴えている。ウォールストリート・ジャーナルやロイターなどの報道によると、ツイッターは「免責がなくなれば、オンライン上の言論の自由やインターネットの自由が脅かされる」と述べている。フェイスブックは「免責がなくなれば、SNS企業は世界数十億人の投稿すべてに責任を持つことになる。結果としてオンライン上の表現が少なくなる」と述べているという。
通信品位法230条を巡る当局側とSNS側の対立がここまで発展したのは、これまでそれぞれが取ってきた行動が背景にあるようだ。以下、ここに至るまでの経緯を時系列で振り返ってみる。
まず、今年2月、ウィリアム・バー米司法長官が、巨大プラットフォーム企業を保護している現行法は今も必要なのかと疑問を呈した。司法長官は、「この免責は誕生して間もないテクノロジーを保護するために不可欠だったが、今のテクノロジー企業は米産業界の巨人になった。インターネットはこの法律が制定された1996年時点から大きく進化した」と述べ、法改正に意欲を示した。
ツイッター、新型コロナ対策で規則見直し
5月11日、ツイッターは新型コロナウイルスに関する虚偽情報対策として、規則違反のツイートには断固とした措置を取るとの方針を表明した。
これは、誤解を招く恐れのあるツイートや、真偽が問われている情報を含むツイートに対し、事実を確認するよう促す警告ラベルをつけ、信頼のおける外部サイトへのリンクを表示する、というもの。
さらに、誤解を招く恐れのある投稿は、その深刻度が高い場合、ただちに削除する。真偽が問われている情報には「公衆衛生の専門家の指導とは異なる内容です」という警告文を表示し、ユーザーが「見る」をタップした後に閲覧できるようにするとした。
同社は3月から、人工知能(AI)などを使って改竄・捏造した「ディープフェイク」と呼ばれる偽動画を含むツイートに、「操作されたメディア」という警告ラベルをつけている。
また、人を欺く目的で発信したり、公共の安全に悪影響を及ぼしたりする投稿を禁止しており、重大な損害をもたらすと判断したものを削除している。
ツイッター VS トランプ大統領
こうした方針に従ったのか、ツイッターは5月26日、米カリフォルニア州の郵便投票に関するトランプ米大統領のツイートに事実確認を促す注記をつけた。
トランプ大統領はこれに激怒したと伝えられている。大統領は2日後の同28日、SNS企業を対象にした大統領令に署名。「通信品位法230条を撤廃あるいは変更する法案の策定に司法長官が直ちに着手する」と述べた。
その数日後、ツイッターは大統領のツイートに再度注記をつけた。今度は米ミネアポリスで白人警官に取り押さえられた黒人男性が死亡した事件に関する投稿だ。大統領は全米に広がる抗議デモを沈静化させる目的だったが、指が止まらなかったのか、意図があったのか、デモの参加者を「悪党」と呼び、「略奪が始まれば、銃撃も始まる」と書き込んでしまった。
これに対し、ツイッターは「暴力の賛美に関するツイッターのルールに違反しています」と注記をつけ、利用者が「表示」をクリックしなければ閲覧できないようにし、コメントなしのリツイートや「いいね」、返信を禁止した。
スナップチャットもトランプ氏のコンテンツ制限
写真・動画共有アプリ「スナップチャット」を運営する米スナップも6月3日、トランプ大統領のコンテンツを制限する方針を決めた。スナップチャットには著名人の投稿などを特集・推奨する「ディスカバー」があるが、ここで大統領のコンテンツを取り上げない方針を表明。声明で「人種間の暴力や人種的不公平を扇動する発言を表示することはできない」と述べた。
一方、かねて政治家の発言は、その是非をSNS企業が判断すべきでないとの方針を示していた米フェイスブックは、抗議デモに関する、トランプ大統領の同内容の投稿を容認。そのまま掲載し続けた。
これに同社の社員が反発。6月1日には、在宅勤務中の数百人がストライキを起こし、ツイッターへの投稿などでマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)を非難した。結局、CEOは方針の見直しを余儀なくされた。同5日、社員宛のメモで同氏は、「人種間の平等のために闘う」とし、改善に向けた取り組みを約束した。
(参考・関連記事)「フェイスブック、怒る社員に「人種間の平等」約束」
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